事業承継を弁護士に依頼するメリット
誰を後継者にするのか、後継者が亡くなった後、遺産をどのように分割するのか。
企業経営のバトンタッチという、経営の根幹に関わる重要な決断を迫られる「事業承継」には、決断力が必要ですし、ストレス・トラブルがつきものです。
今回は、事業承継の際に起こりうるトラブルとその回避方法、事業承継をスムーズに行うポイントを解説します。
よくあるトラブル
【後継者】
事業承継で、トラブルとして懸念されるのは、後継者を誰にするかで紛争になるという問題です。
仮に、経営者に息子・娘がいる場合は、後継者になりたいのかを確認しておくのがよいでしょう。
仮に、息子さんが会社を継ぐ意志がない場合、無理に後継者にはできません。
仮に、娘さんが後継者になるといってくれても、息子さんもなりたいというと喧嘩になります。
まして、娘婿に引き継ごうなどという場合には、トラブルは倍増しがちです。
しかし、リタイアが必要なのに、後継者がいない、誰を後継者にするか決まっていない、これでは従業員も不安でかわいそうです。
【株式の譲渡・売却・贈与】
事業承継を行う際、どうやって株式の所有者を変えるのかで、トラブルが起きることが多いです。
例えば、息子さんへの相続で株式を息子さんに持たせようと思っていたところ、実際には会社の株価が高く、株式を相続した息子さん・後継者は思いがけないほど多額の相続税の支払いを迫られて、融資を受けないと払えないという場合があります。
場合によっては、納税のための資金確保のために親類にお金を借りるとか、大事な家を売るというような金策に奔走せねばならなくなることもあります。資金を確保できない場合は、そもそも株式を過半数もてないという状況になりえ、事業承継そのものが頓挫するかもしれません。
事業承継の準備不足の状態で、経営者が急逝してしまうと、兄弟姉妹の間や役員の間で、派閥争いが発生することがあります。
きちんと遺言などで準備をしていないと、例えば、後継者候補であった娘婿が株式を33%しか相続できず、残りを別の親族などが保有した場合は、後継者の息子は他の親族のグループから代表者の座を解任されてしまうリスクがあります。これについては、以下、詳説します。
【遺産分割】
中小企業の場合、事業用の資産を経営者である代表取締役個人が所有していることが多く、その経営者が亡くなるまで何も手を打たないままでいると、遺産は法定相続分に応じて法定相続人が承継することになります。株は遺産共有という状態になります。
この遺産共有というのは厄介な状況です。簡単に言うときちんと相続人が代表者を決めないとその株は議決権が行使できないのです。
株式は、相続が開始したら当然に相続人が分割して保有することはないというのが判例の立場です(最高裁 昭和45年1月22日および最高裁 平成26年2月25日)。そうすると、株主たる地位によって配当を受けたりする権利や株主総会で議決権を行使する権利が相続人の間で共有されることになります。これが遺産共有状態です。
株式は共有ではなく準共有といわれる状態になり、その株式は権利行使することができません。共有者が、代表の権利行使者となる1人を決めて、会社に氏名を通知してからやっと権利行使ができます(会社法106条に書いてあるのです)。
家族経営の中小企業で上場していない企業では、経営者で大株主であったときこれでは議決権を行使できる株主がいないか、とても少なくて、決定的打撃になります。
また、会社の株式の過半が経営にこれまで関係のない相続人に相続されてしまうと、計画していた後継者に経営権を握らせることができず会社は混乱します。経営がスムーズでなければ、従業員も離れていき、倒産の可能性もあるでしょう。
従業員にとって、経営者が誰になるかわからない会社は全く不安な存在であり、そのような会社はなるべく早く去ろうとするでしょう。優秀な社員ほど先に、いなくなるでしょう。
これはどうしても回避するべき状況といえます。
回避方法や対応方法
【後継者に関するトラブルの回避方法】
後継者不足は今や全産業共通の悩みとなっています。
日本政策金融公庫総合研究所の調査によると、60歳以上の経営者の5割以上が廃業する見込みで、中でも後継者がいないため廃業に追い込まれる事例も少なくないことがわかっています。ですので、これはあなただけの悩みではない、日本全体の悩みです。
もちろん収益性が低いとか、将来性がないなど、そもそも後継者を探すよりM&Aで企業規模を大きくしたり、シナジーを生み出せる会社に経営を渡したほうがよい場合もありますので、そもそも他の会社に株を買ってもらって、子どもたちにはお金を相続させるという選択肢も重要な選択肢です。これも検討しましょう。
しかし、会社をそのまま存続させるという決断をしたのであれば、後継者を決めて、その人にスムーズに経営を渡すよう準備をしましょう。
そのトラブルを回避するには、早い段階から後継者問題・事業承継に取り組み、事業の存続に努める必要があります。事業は継続させるべきなのに後継者が見つかりそうにない場合、後継者になってくれそうな代表取締役候補をヘッドハンティング会社を利用してさがすということもできます。
また、同業種の他社との統合や事業提携を考えてもよいでしょう。事業提携の場合、まずは提携をして、将来的には吸収してもらう選択肢を残すのです。
かつて、事業提携とかM&Aには、「身売り」的なマイナスのイメージがあったのですが、それは間違いです。
貴方が作った会社を大事に育ててくれる人に託すこと、それはビジネスの維持のひとつの方法です。最近は、M&Aはリタイアして楽しい生活を経営者が実現する前向きの選択肢として、正当なビジネスの取引として評価されています。
高齢化社会ではリタイアした後の生活を楽しむことが大事ですし、そのために事業を金銭化することも適切な選択です。そうやって得た金銭を慈善事業に一部寄付するなどして人生を謳歌している元経営者もいます。
【株式に関するトラブルの回避方法】
株式の相続や譲渡をすると多額の相続税や譲渡税がかかる場合は、「事業承継税制の特例」の活用をおすすめします。事業承継税制は、贈与・相続時に発生する税金を猶予、または免除する制度で、廃業率を抑えることを目的に制定されています。
この税制のもと、後継者を見つけて株式を譲渡すれば株式に課税される税金は、全額猶予・免除されます(平成30年から10年間、一定の要件あり)。ぜひ検討してみましょう。
平成30年度の税制改正で、事業承継税制のこれまでの一般措置に加えて、
①納税猶予の対象となる非上場株式等の制限の撤廃
②納税猶予割合引上げ(80%であったのが100%になった)
というような特別の措置が創設されています。
【遺言による相続・遺産分割に関するトラブルの回避方法】
遺産として会社の株を残すのであれば、会社と個人の資産をしっかりと分類し、個人資産の配分について遺言で決めておくのがよいでしょう。
不動産のように分割できないものは、一人の相続人が単独で相続するのか、相続人全員の共有財産とするのか検討が必要です。
弁護士としては、なるべく「単独所有」にしてあげるのが、相続人が喜ぶ結果になると思います。不動産の共有は確定申告など面倒な手続きを一緒にやらなければならなくて紛争の種になりえます。
遺言については、きちんと説明しておかないと、あとで遺産を巡って遺留分の紛争が起きたり、感情的亀裂が生まれる可能性があるので、相続人にはどうしてそういう遺言にしたのかわかるように説明するか、遺言のなかに説明をいれるのがよいでしょう。
ですので、遺言の構成はとても重要です。遺産をもらったひとが、ありがとうと思えるような内容になるべくならしたいものですね。
スムーズな事業承継のポイント
トラブル回避のためのポイントは、以下の5つのように思われます。
■ 1:後継者を早めに決めましょう
子供や兄弟などの親族がいる場合や、従業員の中に優秀な人材が見つかった場合は、後継者を決めやすいと思います。
しかし、親族や従業員の中にふさわしい人物がいない場合は、M&Aを選択肢に考えましょう。
万一、経営者の健康状態が悪化したり、倒れたりすると、承継手続が進まないので、なるべく元気なうちに早めに後継者選びを開始することをおすすめします。
■ 2:後継者教育に力を入れましょう
後継者の教育・事業理解が不十分な場合は事業承継後、業績が悪化したり、従業員が流出するリスクがあります。
旧経営者が引退する前に、後継者に経営者としての実務経験を十分に積ませ、経営ノウハウや知識などを身につけさせることができれば、事業承継が成功する可能性も高まります。
■ 3:場合によっては後継者の補佐役を指名しましょう
ビジネスの経験が未熟な若い後継者には、教育係の役割を果たす補佐役(取締役など)を指名して事業承継を円滑に進める工夫をしましょう。しかし、補佐役がそもそも承継したいという人である場合には、感情的しこりになりえるので、性格の見極めや、本人の希望を確認しましょう。
■ 4:業種や業態などを検討する
第三者に事業承継を考える場合でも、親族が承継する場合でも、業種や業態、立地などを再検討して事業を魅力的なものにしておきましょう。これらを再検討することにより、M&Aでの買い手が見つかりやすくなったり、親族も効率化した事業を承継できたりしますので、承継が容易になることもあります。
■ 5:後継者に経営革新計画を作成させる
業績が悪化している企業は、M&Aを検討するなどしましょう。また、後継者がいるのならその人に「経営革新計画(新たな事業計画書)」を作成してもらいましょう。
この計画書が、全国都道府県の知事や地方機関長に承認されると、日本政策金融公庫から融資や支援などが得られることがあります。また、経営全体をコンサルタントに見てもらって、経営自体を縮小する等して効率的な経営に刷新することも検討しましょう。