遺言書作成を弁護士に依頼するメリット
親族が亡くなって遺産の相続について、トラブルになって、裁判所の調停が申し立てられる事件数は毎年増えています。その背景には、権利者の権利意識の向上もありますが、遺産のなかに不動産が含まれており売却をしないと遺産分割ができない事案が増えたこと、誰かが預金・貯金などを勝手に使ってしまっているらしい(横領とか使い込みの場合)とかたくさんの金額を一部の孫にあげているような場合が多いこと、介護をした相続人とかその妻などが介護を加味した遺産分割を求めて協議ができない場合などの背景事情があります。
遺産の分割は、なるべく早く解決しないと相続人に多々の不利益があります。ですので、相続トラブルは早いうちに解決に向けて動くことが大切です。
そのための相続人の利害を調整して迅速な遺産分割の役割を担うのが弁護士です。
弁護士だけがこの役目を果たすことができますので、ここでは、相続トラブルにおける弁護士を使うメリットを見てみましょう。
どんな家庭にも起こりうる遺産分割・相続の問題やトラブル
東京圏では相続の場合に、相続税を負担しなければならない事案は最近の法改正で増えています。「司法統計年報(家事事件編)」によれば、ここ数年、遺産分割事件(家事調停・審判)の新受件数は増えており過去20年の間に概ね1.5倍となり、毎年1万5000件以上の新受件数がある状況です。平成29年度は1万6000件を超えています。
「うちは財産があるけじゃないから、遺産トラブルが起こることはない」とお考えになる方も少なくないようですが、遺産分割事件で争われた遺産額を見ると5000万円以下が概ね半数を占めています。「財産が少ないから、トラブルは起きない」とは言えません。
総額2000万円の遺産でも、その内容が自宅と預金だけ、預金は100万円程度、相続人が兄弟姉妹の3人というような場合、そう簡単に当事者で分けられないのは当然でしょう。
弁護士に相談・依頼するメリット
遺産分割・相続のトラブルを早く解決するために弁護士に相談・依頼するメリットを考えていきましょう。
◆ 1:第三者を介することで意見が言いやすくなりスムーズになる
誰かが亡くなって相続が発生し、遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。ここで、相続人同士の合意ができればよいですが、それを文書化する必要があります。
そして、スムーズに合意形成ができない場合、いったいどうすればいいでしょう。
さきほどの例のように自宅が4000万円くらいの課税上の評価で預金は100万円残っていたお母様が亡くなったような場合であれば、相続人である子供三人でこの遺産をうまくわけることは簡単ではありません。
日本では遺産分割調停という調停でこの問題を解決することになっており、他のADRのような話し合いの場がありません。
しかし、各個人は遺産分割・相続において、自分の権利がどういうものなのか、通常どのように処理されるのかというような基本的なことを知りたいとおもいますし、知らなければどうしたいのか、どういう解決がよいのか、結論がだせないでしょう。
親族、しかも一緒に育った兄弟や叔父叔母との関係がこじれるのは本当にいやなことです。今後の冠婚葬祭のたびに嫌な思いをします。しかし、問題を先送りにしても解決にはなりません。むしろ、こじれることが多いです。
そのような場合、まずは、各人の権利がどうなっているのか、どのように分けるのが民法に合っているのかを知ること、その上で自分がどうしたいのか提案を他の当事者にすること、そういった整理をして提案をし、最終的な遺産分割を実現するのが弁護士の仕事です。
弁護士を雇ったからといって喧嘩が始まるわけではありません。現状の遺産はこうなっている、法律の権利にしたがって分けるとこういう方法がある、これでどうでしょうかとあなたに代わって提案し、相手の意向をきいて調整していくのが弁護士です。
そして、弁護士は基本的には依頼者のために活動しますので、あなたの弁護士はあなたの利益を守ろうとしてくれます。
◆ 2:法的に根拠がある話ができる
上記にも言及していますが、遺産分割・相続トラブルにおいて、弁護士をいれることのメリットとして大きいのは、法的に根拠があるお話ができることです。
これは非常に重要です。
例えば、上記の自宅の例で、仮にあなたが次男や長女で、長男はずっと母親とこの家に住んでいたので「この家は欲しい」と言い、「介護をしたのは自分だから権利がある、絶対に渡さない、家族も住んでいるから権利がある、裁判でも何でもしろ」!と言い出している場合、その長男には法的にそのような権利があるかをまず確認したほうがよいですよね。そして、そのことを長男に伝えてもらう第三者がいた方がよいでしょう。
弁護士が、あなたの権利は遺産の3分の1だから、自宅をほしいとおっしゃるのなら他の相続人から持分を買い取るようなアレンジが必要です、お支払いをいただけますか?検討してください、と穏便に説明すれば、ご長男だって、それをなかなか無視できません。他の弁護士に相談などして、遺産分割調停を申し立てられ審判になれば、自宅持分を自分が100%はもらえないことがわかります。そして、持分を共有することになれば、共有物分割請求訴訟という訴訟を提起されて放置しておくとマンションは競売で失うことになります。そうなれば、そこで弁護士を立てて戦うのは費用も高額になりかつ、大変なのです。そういうことがご長男にわかれば、それでは自分がお金を出して買い取ろう、住宅ローンを組もうなどと、具体的に考えるようになるでしょう。
このようにして、冷静にこのまま協議をまとめないとどうなるか、調停・審判ではどうなるかを説明すれば、各人の権利が何かが明確になり、当事者が感情にまかせた言い合いをすることを避けることができます。
相続人のみの話し合いでは、どうしても感情的になりますし、今、資産を占有していたり、不動産賃料をもらってしまっている人が勝手なことを言うことが多く、他の当事者はなんとなくそういわれると立場が弱く感じてしまって言いたいことが言えないまま何年も過ぎることがよくあります。
しかし、時間が過ぎれば相続人が亡くなることもありますし、認知症で判断能力がなくなり遺産分割協議書に記名押印できなくなることも往々にしてあります。また、上記の住宅ローンのような場合、年齢制限で借りられなくなることもあります。
遺産分割、相続トラブルでは時間がたつことがプラスになることは全くと言ってないでしょう。
また、誰かが提案した内容にうっかり応じてしまって、思いもよらないような不利益を受けることもあります。
これは、私が相談にのった事案をデフォルメした事案ですが、以下のようなケースです。
「自宅を占有している長男(自分のお兄さん)が、家と土地を売って7000万ほどになるので半分のお金を渡すと言ったので、長男がつくった合意書に相続人として記名押印した。しかし、長男は家がなかなか売れないと言ってなかなか売らない。もう5年も経ってしまった。
長男が売るといった家は、実は亡くなったお母様のお金4000万円とローンで建てて名義を長男にしていたものであった。仮に今から母の遺産分割調停をはじめても、それは長男名義で遺産として扱われない見込みだ。他の遺産は、母が残した他の預金と投資信託、株が合計6000万円程度あったが、すでに二人で等分にわけてしまった。」
長男の作った合意書では、売ったら売買金額の半額を払うと記載があるだけで、いつまでに売るのか記載がありません。また、いつから売買活動をするかの記載もありません。
しかし、7000万以上で売るという記載があります。調べたところ、この家はかなり辺鄙な場所に建てられていて、建物はかなりお金をかけているが買う人があまり見つからない場所でせいぜい4000万円でしか売れないというのです。それで長男にどんな請求ができるか・・・・法律家にとっても難問です。
民事訴訟では、合意書に書いてあることは公序良俗に反しない限り原則、有効です。長男が作った合意書が無効だというのは困難です。そうなるといつまでも売れないので、事情変更という原則で合意書の内容を変えていかないといけないでしょうから、訴訟を起こすしかないでしょう。
このようなことになる前にきちんと弁護士を介して、長男がお母様からもらった4000万円が特別受益になるという主張をして残りの遺産の方を半分より多く(他に資産がないなら6000万円分のうち5000万円分)もらえばよかったのです。「裁判になったら長くかかるし、弁護士を雇ったら費用がかかる。やめろ!」という長男の主張を信じてしまったために、妹はかえって大きな不利益を得たことになります。
このように、相続の場合、お互いが自分の利益を守ろうとして、法的におかしな主張をすることがあります。そしてそれを真に受けると大きな不利益をうけることがあり、その後の深い争いのスタートになるケースがあります。
各人が法律に基づいた権利を実現する正当な遺産分割であれば、各相続人の納得も得やすく、後から振り返っても納得できる穏やかな解決につながります。
また、代理人弁護士を互いに立ててもそれは問題を整理するためなので、それで関係が悪化することには、直結しません。通常、すべての代理人弁護士は、自分の依頼者が納得し、全体として公平な解決案をだそうとするものです。
◆ 3:面倒な調査を依頼することができる
遺産相続トラブルの原因の一つに、「資産隠し」とか「遺産の横領・使いこみ」の問題があります。
たとえば、親と同居していた長男が、親の預金や株式、不動産などの遺産の開示しようとしないのに、税理士などが作成した遺産分割協議書に記名押印を求めるというようなケースです。
あるいは、亡くなった父には預貯金が5000万円はあるときいていたのに、預金通帳には100万円もなく、死亡する前に50万円がATMでなんども誰かから引き出されているというようなケースです。
「遺産がどれだけあるのか」がわからなければ、協議できないのが通常です。
このような場合、どのような遺産があるか調査することになりますが、この調査は一般の方には大変難しいですし、非常に手間がかかります。弁護士に依頼すれば、あなたに代わって財産調査をしてくれます。
遺産分割協議は、相続人全員が遺産についてすべて開示を受けて正確に知ったうえで行い、配分を取り決めるのがルールです。ですので、遺産分割の調停ではまずは遺産を確定しようとします。そして、当事者は代理人弁護士を介して疑問については他の当事者に質問を正式にしたり、調査嘱託という裁判所の手続で開示ができる資産は開示をさせていきます。よって、「遺産が少なすぎる。使い込まれたような可能性がある。隠されている。」というような場合には、弁護士を用いて調査しつつ遺産分割を実現することをおすすめします。
また、遺産はプラスの財産だけとは限りません。借金などマイナスの財産もあります。この場合も調査が必要になります。弁護士に依頼することで、正確な調査、そして、その後の手続きも迅速に進めることができます。
◆ 4:家庭裁判所への調停申し立て
相続人の間で協議をしても話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
この手続きも一般の方には大変な負担です。被相続人(亡くなった人)の出生から死亡までの戸籍すべて、相続関係図、不動産登記簿謄本、銀行・証券口座などの残高証明書等を基礎に財産目録を作り、一切の資料とともに裁判所に提出しなければなりません。資産が多様な方の場合、かなりの枚数になります。
弁護士に代行してもらうことで、不備のない書類の作成、手続きを待っているだけで実現できます。
士業の中で遺産の分割方法の問題は弁護士にしか扱えません
遺産相続について相談できる専門家としては、弁護士のほかに司法書士、税理士を思い浮かべるか方が多いかもしれません。しかし、それぞれに「できること、できないこと」があります。
司法書士は、遺産に含まれる不動産の名義変更などが専門領域ですから、その面では信頼して頼めますし、遺産分割協議書の作成なども行えます。しかし、遺産をどう分けるか相続人でトラブルが発生している場合、司法書士はトラブルの解消に関与すること、たとえば、あなたの代理人として他の相続人と交渉することはできません。
税理士は、相続税についてのアドバイス、申告ができるだけです。誰が何をもらうのか、だれかが隠したり使い込んだものがないかを調査して、最終的に分け方を遺産分割協議でまとめることはできません。
遺産分割ができないという相続トラブルに直面している各相続人の悩みを聞いて、代わりに他の相続人と交渉して分割方法を決めることができるのは、弁護士だけなのです。また、裁判所において代理人となれるのも、やはり弁護士だけです。司法書士は簡易裁判所における代理権をもっている方はいますが、家庭裁判所などすべての裁判所において代理人になれる代理権を持っているのは弁護士だけです。
まとめ
以上のように、遺産分割・相続のトラブルを解決するのに弁護士を利用するには、以下のメリットがあるでしょう。
1第三者を介することで意見が言いやすくなり遺産分割協議がスムーズになる
2遺産分割・相続トラブルにおいて法的に根拠がある話ができる
3遺産にまつわる面倒な調査を依頼することができる
4書類の作成から手続きなど家庭裁判所への調停申し立てを代行してもらえる