2026年改正で注目される「デジタル遺言」とは?

村上靖

村上靖

テーマ:相続

仕組み・メリット・注意点を分かりやすく解説

 遺言といえば、紙に手書きして、印鑑を押して残すもの。そんなイメージを持つ人は多いでしょう。ところが2026年の民法改正では、遺言制度が大きく見直され、いわゆる「デジタル遺言」が導入されることになりました。正式名称は保管証書遺言といい、パソコンなどで作成した遺言の内容を、一定の手続きを経て法務局で保管してもらう新しい仕組みです。



 ここで大切なのは、「デジタル遺言」といっても、ただスマホやパソコンで文章を作って保存すれば有効になるわけではない、という点です。新制度では、遺言者が作成したデータやそのプリントアウトを法務局に提出し、遺言書保管官の前で遺言の全文を口述することなどが求められます。さらに、その証書が法務局の保管制度に則って、はじめて効力を持つ仕組みです。つまり、単なる「電子ファイル」ではなく、本人確認と公的保管を組み合わせた遺言制度だと理解すると分かりやすいでしょう。

 この改正が注目される理由は、いままでの自筆証書遺言が抱えていた負担を軽くできるからです。従来の自筆証書遺言は、原則として全文を手書きしなければならず、高齢者や手が不自由な人にとって大きな負担でした。これに対し保管証書遺言では、パソコンなどで本文を作成できるため、読みやすく、作成ミスも減らしやすくなります。また、法務局で保管されるため、紛失や改ざんの不安を抑えやすい点も大きなメリットです。

 手続き面でも、時代に合わせた柔軟さが加わります。制度設計上は、本人確認や口述の場面で、一定の場合にウェブ会議の利用が認められます。つまり、必ずしも毎回、対面だけに限られるわけではありません。ただし、完全に自由なオンライン作成というより、法務局側が本人確認や真意確認をきちんとできることが前提です。便利にはなりますが、気軽なメモアプリ感覚で作る制度ではない、という点は押さえておきたいところです。

 相続人にとっての利便性も見逃せません。遺言者が亡くなった後は、相続人や受遺者、遺言執行者などが、保管の有無に関する証明や遺言内容の閲覧・証明書の交付を請求できる仕組みが想定されています。遺言がどこにあるか分からない、見つからない、というトラブルを減らしやすくなる点は、実務上かなり大きい改善といえます。

 もっとも、ここで誤解してはいけない点もあります。今回の改正でデジタル化が進むとはいえ、すべての遺言が自由に電子化されるわけではありません。たとえば、従来型の自筆証書遺言を選ぶなら、基本ルールである「手書き」は引き続き重要です。また、録音や録画だけで通常の遺言が完成するわけでもありません。日常的な遺言として広く使われるのは、あくまで法務局保管を前提とした保管証書遺言です。

 一方で、関連する改正として、死亡の危急時など特別な場面の遺言では、録音・録画や遠隔での立会いを活用できる仕組みも盛り込まれました。これは、危篤時や災害時のように通常の方式を取りにくい場面を想定したものです。したがって、「動画を撮れば遺言になる時代が来た」と単純化して理解するのは危険です。あくまで限定的な非常時対応であり、通常時の遺言とは区別して考える必要があります。

 あわせて見逃せないのが、押印要件の見直しです。今回の改正では、自筆証書遺言や秘密証書遺言、特別方式の遺言について、遺言者や証人の押印は原則として任意化されます。日本では長く「遺言にはハンコが不可欠」という感覚がありましたが、制度は少しずつ現実に合わせて変わり始めています。もっとも、押印が軽くなったからといって、遺言全体のルールが緩くなるわけではありません。本人の真意を確かめる仕組みや、方式の厳格さは、引き続き重要です。

 では、この新制度はいつから使えるのでしょうか。法務省によると、2026年改正法は2026年6月17日に成立し、6月24日に公布されました。そのうち、押印の任意化などは公布から1年以内、システム改修を要する保管証書遺言の創設は公布から3年以内に施行される予定です。つまり、話題にはなっていても、2026年7月時点では「今すぐ誰でも使える制度」ではありません。


 2026年改正のデジタル遺言制度は、単なるIT化ではなく、本人の意思を確かめながら、遺言をより作りやすく、残しやすくするための仕組み
といえます。高齢化や単身世帯の増加が進むなかで、「遺言を残したいが、手書きは大変」「保管や発見が不安」という悩みに応える現実的な改正です。これから相続対策を考える人にとって、遺言は一部の資産家だけのものではなく、家族への最後の意思表示として、ますます身近な制度になっていくでしょう。

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村上靖
専門家

村上靖(行政書士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー)

行政書士村上事務所・南伊東リゾート

行政書士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーの資格を活かし、幅広い知識と視点から提案。遺された家族が笑顔で相続できるよう、遺言書、エンディングノート、相続不動産の売買・活用をサポートします。

村上靖プロは静岡新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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