Calling-休日の薬剤師
富士市富士宮市にて在宅医療に携わっている薬剤師の栗原です。
今日はセントジョーンズワートについて紹介したいと思います。
1)セントジョーンズワートはちょっとした有名人
最近は手軽にドラッグストアにて健康ハーブの一種として購入出来る西洋ハーブです。
「気分スッキリ」といったキャッチコピーで売られているため、手軽な気持ちで買われる方も結構いるかもしれません。
でもこのセントジョーンズワートは薬剤師の業界ではちょっとした有名人です。
なぜなら薬剤師国家試験のトピックとして用いられたため、薬剤師になろうとする人なら国家試験対策の中で必ず「セントジョーンズワートって何?」と思う機会に出くわすからです。
2)体内の代謝酵素に影響をもたらしてしまう
国家試験対策で有名なのにはそれなりの理由があります。実はこのハーブは、人間の体の中でちょっとしたイタズラをする事があるからです。
人がお薬を飲んだ時、そのお薬は体にとっては異物なので、体内の代謝酵素がそのお薬を分解させようと働くのですが、実はこのセントジョーンズワートは、その代謝酵素を誘導させ、結果としてお薬の効きを悪くする事があるからです。
薬剤師が学ぶべき事柄は単にお薬そのものに限らず、体に入ってからの「動態」までも含むので、セントジョーンズワートは、国家試験のトピックとして有用というわけです。
3)グレープフルーツにも注意が必要
お薬の代謝に関係してもう一つ有名な食べ物があります。それがグレープフルーツです。最近、病院食としてグレープフルーツが出なくなったのはご存知でしょうか?グレープフルーツは、セントジョーンズワートとは反対に、体内の代謝酵素を無力化してしまうため、飲んでいるお薬の効きを過剰にしてしまう事があるからです(ちなみにグレープフルーツを食べると丸1日以上、代謝酵素への影響が残ると言われています)。
グレープフルーツといえば柑橘類なので、では日本のミカンとか甘夏とかどうなんだ?と心配になるかもしれません。100%大丈夫とは言い切れませんが、少なくとも日本に昔からある柑橘系は基本的には大丈夫くらいの理解で良いと思います。
4)ヨナを喜ばせた唐胡麻(トウゴマ)
セントジョーンズワートの名前の由来は、キリスト教の聖人の1人、聖(セイント)ヨハネ(ジョーンズ)に由来するようです。
でもキリスト教関係で言うなら、私が最近気になっているのは、旧約聖書のヨナ書の中のエピソードです。
神様の使命に逆らって船で逃げたヨナは、魚に飲み込まれ三日三晩過ごし、その後悔い改めて言われた通りニネベの町に向かいます。そこで人々に悔い改めを迫るのですが、ヨナは、人々が悔い改めないだろうとたかを括って小高い丘の上からニネベの街に神の裁きが降るのを見物します。
その時、ヒョロヒョロとヨナの後ろから唐胡麻の若枝が伸びて、ビーチパラソルの如くヨナに日陰をもたらしヨナはそれを喜ぶのです。
ヨナ書にはそのくらいしか書いていないのですが、実は唐胡麻にはリシンという猛毒があり、体内のタンパク質の合成を阻害することでほんの1mgで成人男性が死に至る可能性があると言われています。
ヨナは、悔い改めないニネベの街を前に、唐胡麻を使っての良からぬ考えを抱いていたのではないか?と私は思ってます(今のところ、この私の読み方に賛同してくれる人はいませんが・・)。
(ところでニネベの人々はすぐさま大いに悔い改め、神の裁きを逃れたのでした。)
5)健康食への無防備な信頼は避けよう
ともあれ自然由来の植物成分(ハーブ)であれ柑橘類であれ、飲み合わせによっては人体に危険をもたらす事があります。最近では機能性補助食品で大変な事故が起こったこともあり、健康食品についての正しい理解を持つよう心がけ、無防備な信頼は避けなければならないと言えるでしょう。