アドレナリンよりもセロトニンで状況を打開する
富士市富士宮市にて在宅医療に携わっている薬剤師の栗原です。
今日は「介護保険」について紹介をしたいと思いました。
1)介護保険と在宅医療
介護保険といっても、多くの方にとっては身近でないものかもしれません。けれども在宅医療を受ける多くの方にとって、介護保険は多くの福祉的なメリットを受ける最後の手形となっています。
在宅医療を受けるにあたることにおいても当然、介護保険法によって国の社会福祉事業としてのメリットを多く受けることが出来るのです。被保険者が要支援・要介護支援対象として認められたら役所から介護保険証が届くことになります。
2)介護保険法とは
介護保険制度は1997年に介護保険法というものが成立することによって成立しました。これは日本が高齢化社会の時代を迎えるにあたって避けられないことだったとも言えます。介護保険法によって、介護、もしくは介助の必要になった人たちを、公のサービス(社会としての相互扶助)として支えること。これは社会福祉の理念を私たち一人ひとりの手に届けることが時代の要請だったのです。
この制度は、介護や介助を受ける人たちに限らず、そのご家族(ならびにその生活)を支える法制度と言うこともできます。仕事、学校と社会活動をしている私たちにとっては、親の支援に割くことの出来る時間も体力も限られることになるからです。
介護保険制度は社会福祉の事業でありますが、これを支えるのは国の税収入です。すなわち介護保険は社会保険の1つであり、公的保険とも呼ばれるものですが、被保険者(具体的には40歳以上かつ、住民票を持ち医療保険を受けている者)から保険料という形でお金を集めることによって、互扶助の恩恵を制度として受けることのできるものです。
3)5つの社会保険
社会保険には「医療、年金、雇用、労災」そして介護の分野があります。
①医療保険は、医療費を保険として賄うことで、安価で質の良い医療を受けることのできる、日本が世界に誇る「皆保険制度」の1つと言えます。
②年金保険は下の世代の労働者が高齢者の生活を支えると同時に、自分が高齢者となった場合の生活を支えてくれる保険となっています。
③雇用保険は、もしも職を失った際に生活を支えることの出来る一定以上の生活の糧を得ることのできる制度です。日本の労働者は労働法によってかなり職の安定を得ることのできる国ですが、現代は転職をしたり、副業で生活を支えることの多くなってきたため、雇用保険は以前に増して重要な保険制度になってきていると思います。
④労災は仕事上で受けた医療的事故に対する補償制度です。これを使う場合、医療保険で受ける以上の手厚い補償を受けることができます。
「保険」の恩恵を受けるのは日常的なことではないため身近に感じる人も限られると思いますが、自分や家族が「要介護」もしくは「要支援」の状態になった場合にさまざまな国のサービスを受ける事のできるのが介護保険制度になります。
4)介護保険の目的
介護保険法の第1条で定められている目的は大きく3つあります。
1)利用者の尊厳を守る
2)自立した生活の支援
3)国民の共同連帯
要介護状態になったとしても国民として基本的人権が守られるべきなのは当然のことです。介護保険法は特に要支援、要介護状態になった利用者のそれを具体的に守る法律といえます。
要支援、要介護の状態なのですから、自分の力だけでは生活を成り立たせ得る状態ではありません。そのためヘルパーや看護、機能訓練士など種々の資格を持った医療従事者のサービスを受ける必要があります。そのことで、1人の人間としての尊厳を保証するのが介護保険法です。
5)介護保険の具体的内容
第2条では、介護保険の内容が記載されています。
1)要介護度の上昇を防止する
2)医療との連携
3)利用者の選択による、総合的かつ効率的なサービス
4)居宅での自立した生活を基本とする
ここに記載されていることは、介護保険というものが有機的に利用者にメリットを与え、中身を伴い具体性を持つための規程と言えます。「介護保険」が名ばかりのものにならないためにこの第2条はとても大切な規定ということができます。
介護保険は利用者の介護度が上がらないためにさまざまな面から生活をサポートをして、その生活の自立性を支援します。要支援の状態から要介護の状態に行くのを未然に防ぐことも当然大事です1)。
介護の現場で、医療的補助を利用して利用者の生活の自立性を守るという、当然のことを謳っています2)。たとえば利用者が腰痛を持っている場合などには、その通院の補助のためにヘルパーや介護士が助けることもあります。
利用者(もしくはそのご家族)は、自分の選択で介護サービスを受けることが大事3)です。利用者が選択権を持つことは、生活の主体性を維持することに有効です。
そして普段の生活を支える現場(居宅)でこのサービスを受けることができるということが大切4)です。本人の意図に反して施設に入らなければサービスを受けれないといったことではなく、自らが望む形に近い形でサービスを受けるということがとても大事です。
6)健康であることは義務?
介護保険法の第4条のポイントは以下の2点です。
1)国民の努力義務
2)共同連帯の理念に基づく保険料負担
4条では「加齢に伴って生ずる心身の変化を自覚して常に健康の保持増進に努める」と謳われています。健康は自分の財産であることに間違いはありません。でもここでは、健康であることが義務的なものであるとも言われているのです。不健康な状態は、周囲の人々への負担を生じさせます。本人が「自分の健康状態は自分のもの」と考えていたとしても、周りはそれを放っておくことはできないのです。
それは後半の「納税義務」にも繋がってきます。納税者は税金を納めることで、介護が必要になる人への義務を担っています。そしてそのメリットを誰もが受けることができます。
それを受けるということは周りに負担をかけることになります。よって健康であり続けること、具体的には自立性、主体性を持って日常生活を維持していくことは国民全ての(努力)義務ということができるのです。
また人が健康であることは行政側にとっての義務であるという理解も大切です。健康であり続ける権利を人は持つ。だからそれを支えるために業績の責務が謳われていると理解することも間違いではないのです。
7)特に取り上げられた「認知機能低下」
第5条では認知機能低下による生活維持の困難さが生じた場合を特に取り上げて扱われてます。
「アルツハイマー病その他の神経変性疾患、脳血管疾患その他の疾患により日常生活に支障が生じる程度にまで認知機能が低下した状態として政令で定める状態をいう」
実はこの文面は2021年度に改訂が行われており、新たに「神経変性疾患」が組み込まれてます。神経変性疾患の多くは指定難病に加えられています。これは神経性の病気の原因の解明が遅れていること、並びに、その医療的対応の進化が反映されていると言えます。
また同時に、以前はあった「記憶機能・・の低下」という文面が削られてます。「記憶力」といっても、疾病を抱えていなくても個人差があることから「低下」の判断が難しいという現実的な側面を考慮して、法の条文がより実践的なことに向けられているような良い改訂と思われます。
実は介護保険法は3年に1度のペースで改定されており、より現場に即した法制度の改正が試みられていると言えましょう。
8)介護保険法を理解するメリット
介護保険法を理解することは、社会の構成員の1人として自分の収めている税金がどのように用いられているのかを知り、社会を支える1人としての自覚を育てることに繋がります。また同時に介護保険法を理解することは、いざという時にこの制度から迅速に利益を享受することができるための下準備であると思います。