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栗原憲二

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栗原憲二(くりはらけんじ) / 薬剤師

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コラム

胃のむかつき、不調の原因はアレ。予防と対策を教えてほしい。

2023年9月16日 公開 / 2023年9月19日更新

テーマ:かかりつけ薬剤師

コラムカテゴリ:くらし

胃腸の不調

 胃の状態は精神的なバランスに深く関わっていると言われいます。たとえば胃薬として今も用いられているスルピリドは、飲むと精神的にも落ち着くということでそれを元に新しい薬の研究が進み、現在流通する精神系のお薬の原型になりました。それだけ、胃の状態は私たちの日常生活にとって身近な問題といえます。
 ここでは、①胃の不調の原因と、②代表的な疾病、それらに対する③有効な対処法について紹介していきたいと思います。

 胃腸の不調の理由について考えてみましょう

①胃腸の不調の原因

1)胃酸が出過ぎの原因

 胃は体において、生命維持に必要な栄養素を分解して消化吸収しやすくする目的を持っています。食物が胃に入ってきた時、食物中のミネラルや、体にとって異物である食物が体内に入ることを刺激として反応を起こし、胃酸やタンパク質を分解するペプシンが胃の中に放出されます。胃酸は大変酸性度が高く、口から入った食物を分解するもので人間の胃にも攻撃性を持つものですが、通常胃粘膜を覆う粘液が胃酸やペプシンから胃を守っています。
 しかし自律神経の乱れなどに交感神経が優位の状態が続くと、胃腸に張り巡らされた血管が収縮し、血流量が減ると同時に胃酸産生も抑制されます。しかし自律神経は交感神経と副交感神経のバランスによって成り立っているため、反射的に副交感神経も働き胃腸の活動が不安定な形で継続されることになります。これにより、胃酸と胃粘液産生のバランスが崩れて胃腸が痛む原因となるのです。

2)胃を守る成分が不足してる

 胃の表面はただの粘膜ですが、その粘膜を覆うのが胃粘液です。胃酸が賛成されると同時に胃粘液も産生され、この胃粘液によって、かなり強い酸性度(pH1~2という強酸)をもつ胃酸やタンパク質を分解するペプシンから胃自身を守っているわけです。しかし交感神経が優位になり続けることでこの胃粘液の産生が遅れ、その結果胃酸から胃を守ることが出来なくなるのです。

3)精神的な失調

 緊張状態が続くことで交感神経が優位になり自律神経の乱れが生じます。精神的な緊張が身体的な兆候として現れるに際して、胃腸の変調が現れることが多いので、この点でも胃腸の調子を整え管理することは、心身の健康を保つためにとても大切な注意点であることが分かるでしょう。

4)食生活・生活習慣・嗜好品

 夏場には暑さのせいもあり食欲が低下し、水分補給が多くなり、胃もたれを感じる方も出てきます。水分を摂りすぎると胃酸が薄まり消化能が低下することで長時間食物が胃に留まり、胃が疲れる→胃もたれするといった症状が出ます。又キャンプや外食などで肉類など脂っこいものを摂ると胃内に植物が長く留まり、同様に胃の疲れが生じて心身の不調につながります
 食欲の秋を迎えても、今度は食べ過ぎにより膨満感が日常的になり、胃酸の逆流による不快感、また食道炎が生じることもあります。胃腸の不調は季節に寄らず注意が必要で日常的な心がけが大切となっています。
 たとえば激辛食が好きな方も今は多くいらっしゃると思います。しかし胃に過度の刺激のある辛いもの、またタバコなどの刺激因子は胃の保護粘膜を痛め、胃酸による侵害を起こしやすいものです。
 また塩分の取りすぎも胃に良くないことがわかっています。塩分はもちろん生体にとって必須なミネラルですが、濃度が高すぎたり摂取量が多いと胃に炎症をもたらし胃がんの発生頻度を高めることが統計的にわかっています。
 またアルコールも同じく注意が必要です。少量の軽いアルコール(食前酒)は胃酸酸性を刺激することが知られており、後に摂られる食事の消化を進めることが知られていますが、空腹時に過度のアルコールを摂取すると胃の粘膜にダメージを与えることが知られており、胃炎の原因になっています。

5)薬による副作用は軽視できない

 お薬には必ずといって良いほどに副作用があります。副作用とは、本来は望んでいないお薬の働きです(逆に言うと、良いお薬は副作用が少ないとも言えます)。
 特に痛み止めとして処方されることの多いセレコキシブやアスピリンまたロキソニンは、分類で言うとNSAIDsと呼ばれる仲間に入ります。これらの仲間の働きは、痛みの原因となるプロスタグランジンという生理物質の産生を阻害するというものです。ところがこのプロスタグランジンは同時に、胃の粘膜保護作用に関わる因子なのです。薬局でも痛み止めを受け取った時、薬剤師から「胃の痛みなどの症状はありませんか?」と聞かれることがあると思います。継続的な痛み止めの服用は胃の障害の有無について注視していく必要があるわけです。
 その他、膀胱炎や何かしらの感染症にかかった時に服用する抗菌剤を服用した後で、出血症状(便が黒っぽく見えたり鮮血を認める)が起こることがあります。原因は不明な部分もありますが、抗菌剤によって腸内細菌のバランスが崩れることや、抗菌剤そのものによって腸内に異変が生じ炎症が起きるなどの可能性が考えられます。

6)ピロリ菌感染は胃炎、胃がんの最も大きな原因

 20世紀に入り、のちにノーベル医学生理賞を受賞することになる大きな発見がありました(受賞そのものは21世紀に入ってから)。それは驚くべきことに、pH1~2という過酷な胃酸で満たされている胃内でも生存が可能な菌がいて、それが胃がんや胃炎を引き起こしているという、当時は誰もが信じがたい発表でした。ピロリ菌という名称は、「胃の幽門にいる螺旋状の菌体」を意味する言葉が由来となっています。
 胃の中は強烈な胃酸が存在していますから、その中に細菌がいるとは俄かには信じられないことでしたが、オーストラリアのロビン・ウォーレン氏とバリー・マーシャル氏がこれを発見する偉業を成し遂げました。胃潰瘍や胃がんの疾病を持つ患者の胃からこのピロリ菌が高い確率で発見されており、特に胃がん患者の胃内にはほとんどの症例でこのピロリ菌が発見されています。
 どうして胃の中の強酸の中でもこの菌は生きていることができるのでしょうか?実はこの菌は、食物中に存在する尿素を分解し、胃酸を中和することのできるアンモニアで自分の身を守っているのです。ところがこのピロリ菌自身を守るアンモニアは人間にとっては有害性を持ち、これが胃壁への攻撃因子になっているのです。

②胃や消化器の代表的な症状にはどのようなものがあるでしょうか?

1)逆流性食道炎

 胃は食物を分解し、小腸からの吸収を進める役割を持つ器官です。そのため消化を進めるために一時的に食物を胃の中に保つため、小腸入口に「幽門」、胃の入り口に「噴門」という開閉式の扉を持っています。輪状の筋肉層によってこの門を開いたり閉じたりしていますが、過度の胃酸によってこれらの門が傷んでしまうことがあります。
 特に噴門部はこれが起こりやすく、そうなると閉じようと思っても完全に閉じることができず、胃の中の胃液が食道に「逆流」し、食道を胃液が痛めつけるようなことが起こります。
 胃壁が傷んだりするだけなら一時的に胃酸を抑えたり胃の保護作用を持つお薬を投与して症状を抑えることができますが、この逆流性食道炎の場合、元々胃酸に弱い食道に生じるので再発を起こしやすく、長期的に胃薬を飲む場合が少なくありません。胃酸の逆流によるゲップ症状が続いたりする場合、できるだけ早めに消化器内科の受診をお勧めします

2)胃潰瘍、十二指腸潰瘍

 胃や十二指腸潰瘍の粘膜だけでなく、その下層にある筋膜層などにも障害が生じた状態を「潰瘍」と言います。そこに至らず粘膜層にとどまる場合を「びらん性」の炎症と呼び、一般的に胃炎と呼ばれたりしています。
 びらん性の「炎症」か、それとも「潰瘍」かの違いは、要するに障害が起きている深さによって見分けているわけで、当然、潰瘍はびらん性の炎症よりも治るのに時間がかかり、根治に手間を要します。そのため、できるだけ早い段階で然るべき薬物療法や、生活習慣を改めたりするなどの対策が必要です。

3)胃痛、胸焼け

 胃は臓器としては伸縮性を持ち、食べればお腹の中心部に落ち込んだりします。そのため「胃痛」といっても、その自覚症状が現れる部位には幅がありますが、痛みが現れる場所はみぞおちの場合が多いと言われています。自覚症状が現れた時には、早めに消化器内科でバリウム検査や胃カメラでの診断を早めに受けることが大事です。逆に胸が焼けるような自覚症状がある場合は逆流性食道炎の可能性も考えなければなりません。

4)機能性ディスペプシア

 胃炎などの症状はないものの、それと似た自覚症状で胸焼けや胃痛を感じる症例です。原因は特定されてはいませんが、ストレスや生活習慣などの要因が複合的に関係して胃腸の運動機能が低下していると考えられています。胃腸の運動は自律神経である交感神経と副交感神経の切り替えによってコントロールされていますが、自律神経の乱れによって胃腸に疲弊が生じることもあります。

どのようにして胃炎、胃潰瘍を治すか?

1)胃酸の産生を抑える

 胃炎に対して最も直接的に効果を発揮するのが、胃酸の産生そのものを抑えるお薬を投与することです。胃酸の産生のために働く幾つかの経路が判明しており、ヒスタミンの働きを抑えたり(抗ヒスタミン薬)、胃酸酸性をもたらすポンプ機能を阻害する(プロトンポンプ阻害役)対策などが知られています。

2)胃の保護作用を強める

 この対策は、それ自身が胃を守る働きをもったり、胃粘液を体につくらせる成分を胃に取り入れることです。下剤として今も多く用いられている酸化マグネシウム(いわゆる化マグ、あるいはマグミット)も過度な胃酸を中和する「制酸剤」としてかつて胃炎に用いられていましたし、粘液産生を促したり胃の炎症を修復するテプレノンやレバミピド(胃内の血流増進にも寄与する)、マーズレンなどが用いられています。
 その他、それ自身が胃壁の防御因子となるアルロイドGゲル剤や、創傷部の再生には亜鉛が必要であることからポラプレジンクなどの亜鉛含有製剤が処方されることもあります。
 お薬でなくても、納豆やオクラ、山芋やメカブなど水溶性の食物繊維を多く含んでいる食べ物を摂ると、それ自身が胃の粘膜を保護してくれたり、糖やコレステロールの吸収を抑えてくれるという良い面もあります。糖分やコレステロールをはじめとした脂分は、穏やかに吸収される事で小腸や膵臓の疲弊を防いでくれるのです。  

3)胃腸の運動を促す

 直接に胃炎などの症状を軽減させる働きを持つものではありませんが、胃腸の運動を促進し胃から腸に食べ物の排出を促進させることで胃の負担を軽減させるモサプリドやアコファイドなどが用いられています。漢方薬の大建中湯も、冷えたお腹を温め胃腸の働きを助けてくれるため高齢者に出されることの多いお薬です。
 便秘は腸内にある排泄物が固く滞っている状態ですから、それ自身胃腸の運動を妨げるものです。便秘にはマグミットやモビコールのように便を膨らますことで出やすくさせるお薬や、腸内を刺激することで排泄を促進するセンノヒドや漢方の大黄甘草湯などが広く医療現場で用いられています。
 慢性的に腸の動きが低下している高齢者は少なくありません。便秘や、特定の疾病がないのに不安や不眠、体調不良が認められる不定愁訴なども多く、本人だけが抱え込んでいることも珍しくありません。それが全てではありませんが、胃腸の動きが滞る事はそれらの症状の大きな原因と考えられます。
 適度な運動は一時的に交感神経の働きを高めますが、反対に休息した時には副交感神経が優位に立ちます。「自律神経が整っている」とは、つまるところは交感神経と副交感神経が絶えず行ったり来たり優位性を競っている状態ではなく、お互いがお互いの優位をある程度時間的に保っている状態です(サウナで交感神経を高め、冷水で体を休める時間を持つなどは典型的な「整う」時間ですね)。
 日中に休息を繰り返していると夜間の睡眠が妨げられますし、夜更かしをすれば日中でも眠気が襲ってきます。それは胃腸にとっては、休む時間と活動する時間が中途半端になることを意味しており、消化不全に陥ったり胃腸内の炎症を生じさせる大きな原因になるのです。

4)除菌する

 ここで言う「除菌」とは、胃内にピロリ菌が存在する場合にそれを抗菌剤を用いてなくすことを意味します。方法としては一週間程度かけて抗菌剤の服用をしますが、胃酸が抗菌剤の効果を失活させてしまうために一緒に胃酸を抑える胃薬も服用します。それでもピロリ菌が無くならなければ抗菌剤の種類を変えて再度除菌します。除菌のためには正しい服用がとても大事で、どんなに効果的なお薬を飲んでも服用方法に問題があれば効果は半減し除菌に失敗してしまうでしょう。ぜひ薬剤師の指導に注意深く耳を傾け、疑問点があればその場で解決していただきたいと思います。

③胃潰瘍、胃炎、胃がんをどのように予防するか?

1)ストレスを溜め込まないこと

 ストレスは交感神経を刺激し、自律神経の乱れを生じさせます。趣味に興じたり、3つ以上の人間関係を構築すること(近親者、職場、サークル、近所付き合いなど)がストレスに効果的と言われています。要するにうまく気分を切り替えてストレスを貯める前にシャットダウンさせることが重要です。
 ストレスそのものは集中力を高めたり活動量を上げるといった良い面もありますが、常にそれに晒される事で体も精神も休むことが出来なくなることがあります。暴飲暴食でストレスを誤魔化すようになると、肥満や高血糖による血管障害、また心臓にも負担が生じることになります。
 習慣的な運動はアルコールやタバコから自分を遠ざける理由にもなるでしょう。最近の研究では、身体に意識を向けるマインドフルネスや、1日30分程度、週3回の軽いランニングなども心身の健康維持に大きな力を持っていると言われています。お薬を服用する薬物療法よりも効果が大きいと考える研究者もいます。

2)胃粘膜に刺激性の高い激辛食品や過度のアルコール摂取など

 辛いものや塩っ辛いもの、アルコールやタバコは、好きな人にとってはある程度避けられないものです。でも少なくとも胃腸にとっては負担のかかるものですので、それらから胃腸を守るための一工夫は大切です。
 緑黄色野菜には含まれる食物繊維は胃に優しく、胃の負担を軽くします。キャベツに含まれるビタミンUも、胃の働きや胃粘膜を正常に保つ働きを持っています
 牛乳に含まれる乳タンパクは胃の保護作用を持つので、塩っ辛いものを食べる時に一緒に摂ると効果的です。胃酸を中和する作用も持ちます(ただし冷たい牛乳は胃腸の血管を収縮させるため、飲んだ後に胃もたれ感を生じさせることがあるため、暖かくして飲むことがお勧めです)。
 アルコールだけ飲むと、アルコールの細かい分子が胃壁に直接刺激を与え、胃が焼けるような感覚を覚えることがあると思います。そのような場合、少なからずアルコールによる胃への侵害が生じていると考えられます。そのためおつまみを一緒に口にしたり、食事にうまく絡ませて摂取することがお勧めです。キャベツに酢醤油をかけた付け合わせはとてもお勧めです。

3)食生活

 脂っこいものの摂りすぎは消化吸収に時間がかかり胃に負担をかけるだけでなく、脂質異常症や肥満にも繋がります。また水っぽいものばかり摂ることも胃酸が薄まると同時に胃粘液を薄めて消化不全に陥りるきっかけになります。食事時の水分補給は喉をスッキリさせる程度に抑えることが大事です。
 胃に入った食物は2時間前後の時間をかけてゆっくり消化され、小腸に送られ吸収されます。効果的に消化吸収を進めるために、脂っこいものの摂りすぎと水分摂取量に気をつけることが大切です。

4)胃の失調を感じたら消化器内科に迷わず相談すること

 前述の通り胃がん患者の大多数にはピロリ菌が胃内に存在していると言われています。ピロリ菌の産生するアンモニアは胃壁の収斂をもたらし適正な胃粘膜の維持を難しくします。それに伴い胃潰瘍や胃がんの発生に繋がっていると考えられています。特に幼少期に近親者からピロリ菌が感染していた場合、症状が現れた時にはすで胃粘膜の侵害が進んでいる場合が考えられます。両親に胃腸障害があったり自分自身がそうである場合には、子供たちの検査も含めて一度検査してみるのが良いでしょう

5)服用しているお薬について専門家の力を借りる

 鎮痛剤のNSAIDs を代表として、胃の粘膜の働きを阻害するお薬もあります。貼り薬にこれらの成分が含まれている場合、飲み薬ほどにはその副作用は考えにくいですが、10年単位での長期的な使用を繰り返している人には、胃腸への副作用発現を疑う必要があると言えるでしょう。
 また感染症にかかった時に抗菌剤が処方された時には、多くの場合一緒に整腸剤が処方されます。それは抗菌剤によって腸内環境が悪い方向に傾くことを防ぐためです。お薬は自分勝手な服用は避け、基本は処方通りに服用しましょう。その上でお薬の内容について不明な点があれば遠慮なく薬剤師に相談してください。お薬の内容に何かしらの問題が生じている場合も考えられます。それをチェックしてくれるのが薬剤師だからです。

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