お薬って実はすごい
富士市にて在宅医療に携わっているふじやま薬局の薬剤師栗原です。
薬剤師の働きを皆様はどのように受け止められているでしょうか。
薬剤師の信頼性
10年近く前のデータだったと思いますが、薬剤師は消防士と同様の社会的信頼性の高い職種だったと記憶しています。それだけ薬剤師の先輩方が頑張ってこられたおかげということもあるでしょう。
でも反面で、それ以前は薬剤師は対物の、お薬とだけにらめっこしている働きという面が少なくなかったので、それほど不祥事が目立ちにくかったからだとも言われることもあります。
患者様と向かい合う(対物から対人へ)
それに対して現在は薬学部も6年制と変わり修士の取得が必須になり、患者様としっかりと向かい合える前提知識(病態学や生理学など)を持つことが当たり前になっています。そのため、たとえば薬剤師が間違ったお薬を出したとすれば、仮にそれが医師の指示通りだったとしても、半分は薬剤師の責任が問われる可能性が出てきている時代となっています。
つまり薬剤師の今の働き方は、対物という、お薬そのものに向かい合う知識と、対人、つまり患者様の疾病についての知見や、生理学、衛生学的知見なども求められるようになってきたわけです。言い換えると、お薬の知識だけでなく、お薬が患者様の体内に入ってから排出されるまで、お薬の影響を考えつつ患者様の体調を管理する専門性を薬剤師が担うということです。
そのため、薬剤師がお薬を取り揃えてお出しするということに伴う判断の数は、意外と?結構な判断事項を含む事になります。
お薬手帳と聴取内容から判断する
まず、そのお薬が患者様の疾病に合っているか?薬局では病院内ではないので患者様のカルテは見れません。そのためお薬手帳の過去の記録や患者様からの聴取内容と照らし合わせつつ、そのお薬がその患者様にとって適当かどうかを判断していかなければなりません。
併用薬に問題はないか?
また併用薬と照らし合わせて飲み合わせには問題ないか?併用には「禁忌」と「注意」など、併用に注意すべきレベルの違いもあります。場合によっては併用禁忌でありながら、医師がそれを知っていて処方箋を書いている場合もあります。よって、そういった場合は、処方元の病院の処方医に疑義紹介で聴き取りさせていただくことが一般的です。
お薬の取り揃え
そもそも、薬局内で取り揃えられているお薬が処方箋通りであるか?についてのチェックも、当然重要な要件です。
調剤薬局に処方箋を持っていったけど、理由も分からず30分も1時間も待たされたといった経験はないでしょうか?通常の薬局では1000種類近いお薬が用意されており、規格の違い(有効成分の含有量の違う錠剤)もありますから、お薬の取り揃えだけでもかなり注意が必要になってきます。
一包化は細心の注意が必要
さらには、お薬の飲み残しなど多い患者様の場合、一包化と言って、朝昼晩に一緒に飲むお薬を一緒にあらかじめ小分けして患者様にお渡しすることがあります。その場合、その患者様のお薬を準備して、一包化された中身に相違はないかのチェックもすると、お一人のお薬を準備するだけでも30分近くかかることは珍しくありません。いえ、むしろ通常と言って良いレベルです。
お薬は間違って一旦患者様のお口に入ると、服用による影響が小さくないので、かなり気を使う作業です(間違うと、場合によっては訴訟問題に発展します)。
機械化すれば済む話ではない
なんでも機械化してしまえば、もしかしたら薬剤師の仕事もかなり簡略化されるかもしれません。
もちろん機械化の恩恵をかなり受けていることは事実です。処方箋の内容もQRコードで機械に読み取らせば、かなり間違いの可能性を少なく出来ます。完全には自動化出来ないにしても、少なくとも8割方の作業は機械の力を借りています。それでも、機械のしたことが「本当に間違っていないか?」のチェックは人間がしなければならない事に変わりありません(責任を機械が担ってくれるわけではないからです)。機械化は、薬剤師が利用するものであれ、それが薬剤師の責任を担えるものではないのです。
要するに薬剤師に求められる判断の数はかなりのレベルだと言えます。
判断することはそれなりのエネルギーを使う
人間が1日に判断できる数には限界があるという考えが今は一般的です。著名なパソコンの開発者(スティーブ・ジョブズですが)は、いつも自分が着る服を同じにすることで朝に下さなければならない判断の数を減らしているという話もあります。
それなのに、薬剤師のしなければならない判断の数、また処理しなければならない情報量は、今後も減ることはないでしょう。
判断することが薬剤師の仕事
でも、ある意味薬剤師は、頻繁に判断していくことが本分な職種とも言えます。病院内で化学系の修士を持っている職種は薬剤師とその他一部の職種(放射線技師など)に限られます。化学者は、判断し続けることを訓練された職能と言えるのです。
患者様が処方箋を持ってきてお薬をお渡しするまで、内容にはよりますが最短では5分から10分でしょうか。その短期間に薬剤師が「判断」しなければならないことは、患者様から見たら見えない部分かもしれませんが、それを回避しては薬剤師の仕事は決して果たし得ません。
私も普段から自分の体調(精神面含めて)を管理し、可能な限りヒヤリハットや医療過誤を回避していきたいと思います。
今度、薬局で待たされることがありましたら、少しで良いので局内で動いている薬剤師の仕事ぶりについて思いを馳せていただけたらと思います(というか嬉しいです)。
在宅医療にご興味がありましたら一度ご連絡をよろしくお願いします。