若者たちを蝕むオーバードーズ
富士市にて在宅医療に携わっているふじやま薬局の薬剤師栗原です。
今日はドラえもんとお薬というテーマで書きたいと思いますが、まず初めに私とドラえもんの関係について書きます。
1)私とドラえもん
私の子供たちはドラえもんが大好き。・・というか、最近の漫画がよく分からないので親として安心して子供達に渡せる漫画としてドラえもんを選んでおり、幸い子供たちもそれを喜んで読んでくれているというのが実際かもしれません。私も子供の頃にはドラえもんの世界にどっぷりハマりました。
ドラえもんの世界はしっかりとお話が構成されているものが多くて、観ていてだらけるという感覚は子供ながらにありませんでした。内容がしっかりとあるものだからこその楽しみだったと思います。
最近、ふと車中でたまたま放送されていたドラえもんを観ましたが、昔と比べてその内容の科学性の進歩にびっくりしました。学校でもこんなにわかりやすく教えてくれないんじゃないかと感じました。しかもそれが子供心をくすぐるストーリーの中に組み込まれているのですから、親としてもやっぱり安心して子供たちに手渡せる本だと実感しました。
2)大人と子供の視点の二重性
最近、それとは別に漫画評論家の岡田斗司夫さんが『クレヨンしんちゃん』を評して、作品の中に込められた「大人と子供の視点の二重性」とYouTube番組の中で解説されていて、なるほどと思わされました。https://www.youtube.com/watch?v=PaGHJ4bkWUs
親も子も楽しめる番組・・。確かに、子供を映画館に連れて行った親御さんも、大人として楽しめる中身があれば、親自身も大好きになりますね。
そういう「大人と子供の視点の二重性」というものが、果たしてドラえもんにあるかと考えてみるに、ちょっとクレヨンしんちゃんとは違うかな?と思いました。
3)クレヨンしんちゃんとドラえもんの違い
クレヨンしんちゃんを、親が子供として楽しんだとすると、ちょっと問題ですね・・。ちょっと大丈夫かなと心配になります。クレヨンしんちゃんの作品には、作品の中に親も楽しめる作品性がある。クレヨンしんちゃんにおける大人と子供の視点は決して交わることのない平行線を辿ります。
それに対してドラえもんの場合は、親が子供の視点に立って楽しめる、健全な子供心の世界が担保されているのではないかな?と感じます。つまり親が子供の視線まで降りて、子供の視線を確認しつつ関係性を保てるような関係性が成立するのではないかと思います。
クレヨンしんちゃんは、大人も子供もそれぞれの視点から楽しめます(たとえば 『爆発!温泉わくわく大決戦』は、温泉好き人間の心くすぐるドラマと匂いがありますね)。
一方、ドラえもんの世界は、大人の視点から見て「ここは子供に分かってて欲しい事」がストーリーの中に組み込まれていて安心するという感じです。色々と仕掛けがあって、子供の知識が広がるチャンスが広がっていて、いわば教養小説のような子供の成長のチャンスが広がっている感じです。
ではここからが今日の本題の「ドラえもんとお薬」の関係です。
4)ドラえもんとお薬
①お薬はドラえもんの夢
お薬はドラえもん的な夢が土台にあります。言い換えると、飲めばどんな病気も治る、そういう夢です。もちろん不老不死のお薬がないのと同様、なんでも効くような万能薬は今の所ありません。そこで特定の疾病に対してその原因を取り除くようなお薬の開発を製薬会社は目指します。
今現在、処方薬局で調剤されるようなお薬(西洋薬)の走りは、解熱鎮痛剤のアセトアミノフェン(カロナール)と言われています。柳の木から抽出された成分で、脳内の痛覚の閾値を高めたり、体温を調節する中枢に働きかける解熱作用を持っています。最近では新型コロナ感染症の対症療法薬として用いられ、一時は流通不足が生じたこともありました。
アセトアミノフェンの成分が抽出分離された時、世の中から風邪がなくなると期待されたとも学んだことがあります。
②お薬にも限界がある
でも実際は、アセトアミノフェンの作用は対症療法に過ぎません。根本から病気を治す働きではなく、言ってみれば病気を治す体の働きをコントロールして良い方向に持っていくことを目的としたお薬です。
色々な疾病が医学の発展によって特定されてきた事で、その病気を治すお薬の開発も進みます。「万能薬」の夢は一旦脇に置いて、少なくともその疾病に作用するお薬の開発が進められてきたわけです。言ってみれば、ドラえもんのポケットの開発は諦めたけども、ポケットの中から取り出される(多少は欠点もある)道具の開発としてお薬の開発は行われてきたと言えるわけです。
ドラえもんの道具に欠点があるように(それがドラえもんの定番のオチですね)、お薬にも副作用という欠点があります。
どうしてこういうお話をするかというと、薬剤師が患者様にお渡しするお薬も、その飲み方によって効果が十分に発揮されたりする一方で、間違った使い方をすれば副作用が生じてしまうからです。
③薬剤師はドラえもん
薬剤師はお薬を専門的に勉強しているのですから、患者様よりお薬の理解があるのは当然です。そこから、薬剤師は、一人一人の患者様の理解度に合わせてお薬の効果や副作用を説明するという務めが与えられています。お薬について全てを患者様に説明することはありません。でもその患者様にとって必要で十分と思える説明を、一人一人の理解力に対応しカスタマイズしていく必要があるのです。
これが、ドラえもんにおける大人と子供のアプローチの仕方に近いと思うのです。
のび太はドラえもんの道具を貰った時、彼自身の全ての問題が解決するようなそういった期待を持って受け取ります。でも調子に乗って、ドラえもんがその道具をのび太に渡した時に与えもする「戒め」なども忘れて痛い目に遭います。
それと同じように、お薬の飲み方も間違ってしまうと、本来の効果が得られないどころか、副作用ばかりが患者様の体内に生じてしまうような事態に陥ります。
④秘密文書「添付文書」
あまり皆さんの目に触れることはないはずですが、医療者向けのお薬の説明書に「添付文書」というものがあります。これはお薬の効能効果だけでなく、およそデータとして出ている副作用症状について、原因(因果関係)が不明なものも含めて可能性があれば全て記載された文書です。
でもそういうものを一般の、実際にお薬を飲んでいる患者様が読んだらどうでしょうか?少なくない人が怖くなって、飲めば本来得られるであろうそのお薬からの利益を受けれなくなってしまいます。
⑤服薬指導は匙加減が大事
ですから薬剤師は、患者様のデータ(年齢、受け答え、家族構成など)を総合判断しながら、その患者様にとって必要と思える情報を、時に応じて提供していく手続きをとります。詳しく情報を提供することがその患者様にとってメリットがあると判断すれば、当然、情報を詳細に提供するでしょう。経験豊かな薬剤師はその辺の判断力に長けているものです。ドラえもんがのび太に、道具について(その危険性も含めて)説明しないのと同様、薬剤師も情報提供については匙加減をしているわけです。
5)ドラえもん薬剤師
薬剤師がドラえもんで患者様がのび太だなんて、患者を馬鹿にしていると思われるでしょうか?私はそうではないと思います。私も自動車屋さんに行けば自動車屋さんが私のドラえもんですし、料理屋さんに行けば料理の作り方や調味料の量などは料理人さんに信頼して聞いたりしません(何か味がおかしければ当然聞くでしょう)。
私も患者様にとってのドラえもんになりたい。しかも無知による失敗を回避するための人生訓をもたらす喜劇話を起こすのではなく、自分の提供する道具(お薬)を使いこなしてハッピーエンドしかないドラえもん物語(言ってみれば映画版ドラえもんかな??)を作り出したいのです。そういう想いでこの働きをしています。
在宅医療、お薬についての質問などあればぜひ一度お問い合わせください。今後ともよろしくお願いします。