相続不動産を売るべき?残すべき?判断のポイント

―「縁起でもない」ではなく、「家族を守るための時間」の話―
なぜ、相続の話はいつも後回しになるのか
相続の話をしようとすると、
ほとんどの場合、家族の誰かがこう言います。
「そんな話、まだ早いよ」
「お父さん(お母さん)は元気だから大丈夫だよ」
「縁起でもないからやめよう」
この言葉を聞くたびに、私は思うんです。
“まだ早い”と言える今こそ、実は一番良いタイミングなんだと。
私は静岡で不動産の相続相談を数多く受けていますが、
相続で苦しんだご家族のほとんどは、
「もっと早く話しておけばよかった」
と口をそろえて言います。
相続は、「いつか話そう」ですませてしまうと、
その“いつか”が突然来ます。
そしてそのときには、
“本人がもう話せない状態”になっていることが珍しくありません。
今回は、
「まだ早い」と言いたくなる家族心理
それでも今話すべき理由
そして、傷つけずに話し合う方法
を、私が現場で見てきたリアルを交えてお伝えします。
第1章 家族が「まだ早い」と言う本当の理由
相続の話を嫌がるのは、頑固だからでも、興味がないからでもありません。
“家族だからこそ”、話しにくいのです。
●1. 親は「弱ったと思われたくない」
親にとって相続の話は、自分の人生の終わりをイメージさせます。
・まだ子どもに心配をかけたくない
・自分はまだ元気だ
・弱ったと思われたくない
この気持ちが、ごく自然に「まだ早い」を生み出します。
だから、拒否されても落ち込む必要はありません。
むしろ“親らしさ”とも言えます。
●2. 話すべきことが多すぎて、本人も混乱する
相続の話題は実はとても幅広い。
・不動産
・預金
・保険
・年金
・実家の管理
・介護
・遺言
・お墓
「どこから話せばいいの?」
という気持ちのまま避けてしまう人は少なくありません。
●3. 子ども同士が揉めるのが怖い
親はいつもこう思っています。
「兄弟が揉める姿だけは見たくない」
だからこそ、
「まだ早い」
「また今度でいいよ」
と言って、自分が“矢面”に立つことを避けようとするのです。
でも本当は逆で、
話さないほど、揉める可能性は高くなります。
私は現場で何度も見てきました。
●4. 子ども側も、本当は怖い
親だけではありません。
子ども側も、相続の話は「本当は怖い」んです。
・お金の話は気まずい
・欲深いと思われたくない
・親の老いを認めたくない
・兄弟と価値観の違いが表面化するのが怖い
この心理が働くので、
双方が「また今度」「今じゃない」と言いながら、
あっという間に数年が過ぎてしまうのです。
第2章 “まだ早い”と言っているうちに起きる、3つの大きな問

ここからは、私が静岡で実際に見てきたケースを元にお話しします。
どれも実際に起きた“典型例”です。
●1. 本人が話せなくなった瞬間、相続は一気に難しくなる
判断能力が低下すると、
相続の準備はすべてストップします。
・不動産売却の意思確認
・名義変更の署名
・遺言書の作成
・施設の契約
・預金の管理
・相続登記
すべて、“本人の意思”が必要だからです。
認知症発症後に問題が起きるご家庭は非常に多く、
結果として後見制度を使うことになります。
後見制度は素晴らしい制度ですが、
・時間がかかる
・費用がかかる
・家族が自由に動けない
という大きなハードルがあります。
だからこそ、
元気な“今”が唯一の話し合いのチャンスなのです。
●2. 実家が突然「空き家」になり、家族が困る
静岡でも増え続けているのが“空き家問題”。
・親が退院せずそのまま施設へ
・実家が空き家に
・兄弟で管理を押し付け合う
・草が伸び苦情
・ご近所から連絡
・建物の傷みが急激に進む
ここでトラブルになるのは、
「実家の将来を誰も決めていなかった」という点です。
売る?
残す?
貸す?
解体?
維持費は誰が払う?
これらを決めないまま相続を迎えると、
家族は本当に大変です。
●3. 親の“本音”が永遠にわからなくなる
親には親なりの願いがあります。
・この家は守ってほしい
・この子に任せたい
・仏壇は残してほしい
・管理が大変なら売っていい
・同居の子に多めにあげたい
しかし、話していなければ、
その本音は誰にも伝わりません。
そして、
残された家族が“正解のわからない決断”を迫られるのです。
相続で一番つらいのは、
“正解がわからないまま決める苦しさ”です。
第3章 どう切り出せば「嫌がられず」に相続の話ができるのか

ここからは、私が実際にお客様にアドバイスし、
「これで話せました」と言われた方法だけをご紹介します。
●1. 「相続の話」ではなく、「困らないための話」をする
もっとも成功率が高い切り出しがこれです。
「お父さん(お母さん)が元気なうちに、
将来困らないように、実家のことだけ聞いておきたいんだ。」
ポイントは、
親を心配しているのではなく、
“自分が迷惑をかけないようにしたい”
という姿勢で伝えること。
これは親のプライドを傷つけず、
一番素直に耳に入る伝え方です。
●2. 「今日決めなくていいよ」と前置きする
相続の話を嫌がる理由の半分は、
“今日全部決めろと言われる気がするから”です。
「今日は方向だけ教えてほしい。結論はいつでもいいよ。」
この一言で、親の表情が変わります。
●3. 実家にいるタイミングで話す
家の中には、親の思い出が詰まっています。
その場所にいるからこそ出てくる言葉があります。
「ここの部屋は残してほしいんだよ」
「ここは売ってもいいよ」
喫茶店や電話では絶対に出てきません。
“家の記憶”が背中を押してくれるからです。
●4. 相続の話ではなく「昔の話」から入る
「相続」の言葉をいきなり出すのは重すぎます。
「この家、最初に建てたときどうだった?」
「昔ここでどんなことがあった?」
思い出話には“心をやわらかくする力”があります。
その延長で話すと、自然に本題に入れます。
第4章 相続の話をした後にやるべき「3つの整理」

話すだけでは不十分です。
“最低限の整理”をすると、家族の負担は驚くほど軽くなります。
●1. 財産の種類だけ把握する(完璧じゃなくてOK)
金額は不要。
種類だけで十分です。
・家
・土地
・預金
・保険
・借入
・負債
・年金
・名義
これだけでも“相続の迷い”が半分消えます。
●2. 本人の意思が必要なものは早めに動く
特に重要なのは、
・不動産の名義
・遺言
・保険の受取人
・貸金庫
・契約しているサービス
ここは本人の意思確認が必要になるため、
“元気な今”しか動けません。
●3. 実家の方向性を「売る・残す・貸す」の3つで決めておく
結論はいりません。
方向性だけで十分。
これだけで、
兄弟同士の衝突が格段に減ります。
第5章 専門家の役割は「答えを出す」よりも「迷いを消すこと」

相続というのは、
法律・税金・不動産…
専門分野が入り組んでいて、
家族だけでは整理が難しいテーマです。
でも、だからこそ私は思います。
“わからない”という状態こそ、相談すべきタイミングだと。
エステージに来る相談の多くは
「何から始めていいかわからない」
「まず何を決めればいいの?」
という段階です。
専門家が入ることで、
・話す順番
・決める順番
・整理の順番
が明確になり、家族の負担が大きく減ります。
相続の相談は、早ければ早いほど、家族が救われます。
■まとめ:相続の話は“まだ早い”うちにしかできない

相続の話は、
誰かが弱ってからでは、ほとんどの場合、間に合いません。
「まだ早いよ」
と言われる今こそが、
家族が最も落ち着いて話せる時間です。
相続の話は、
家族の絆を壊すためのものではなく、
家族の未来の不安を減らすための準備です。
後で苦しまないために、
そして親の本当の気持ちを聞くために、
“今”少しだけ勇気を出して、話してみてください。
もし、どこから手を付けて良いかわからないときは、
どうか私たちに相談してください。
静岡でたくさんのご家族の相続と向き合ってきた経験から、
あなたの家庭に合った進め方を一緒に考えます。




