相続不動産を売るべき?残すべき?判断のポイント
―知らないと揉める、“土地が自分のものではない相続”の話―
相続のご相談を受けていると、
「土地は借り物なんですが、建物だけ父名義なんです」
「地主さんにどう伝えればいいかわからない」
という声をよくいただきます。
これは、借地権付き建物(借地権)が相続財産になっているケースです。
相続と聞くと“土地と建物を一緒に相続する”イメージを持つ方が多いですが、
借地の場合、土地は他人のもの・建物は自分のものという構造。
つまり、建物だけが財産として相続の対象になります。
ところが、相続人がこの仕組みを正しく理解していないと、
地主との関係がこじれたり、売却や名義変更が進まなかったりすることがあります。
今回は、不動産の現場で多くの借地物件を見てきた立場から、
「借地権を相続したときの注意点」について、
制度・手続き・実務の両面から詳しく解説します。
目次
第1章 借地権とは何か?基本を正しく理解する

まずは前提として、借地権とは何かを整理しましょう。
借地権とは、他人の土地を借りて自分の建物を所有する権利のこと。
地主(土地所有者)と借地人(建物所有者)との間に「土地賃貸借契約」があり、
借地人は地主に地代を払いながら、その土地を使うことができます。
つまり、
●建物は自分の所有物(相続財産)
●土地は地主の所有(相続できない)
という状態です。
借地権には大きく分けて2つの形があります。
①普通借地権(更新が基本)
期間満了後も借地人が希望すれば更新される。
長期間の利用が前提。
②定期借地権(更新なし)
期間満了で確実に返還する契約。
相続しても、契約期間が切れれば返す必要がある。
この2つでは、相続後の取り扱いがまったく違います。
第2章 相続の対象になるのは「建物と借地権」

借地権を持つ人が亡くなった場合、
相続の対象になるのは以下の2つです。
①借地権そのもの(使用する権利)
②借地上の建物(所有する財産)
このため、相続登記を行う際には、
土地の登記はそのままで、建物の名義だけを変更します。
ただし、地主への通知を忘れてはいけません。
地主との契約は、借地人本人を前提にしているため、
相続によって借地人が変わった場合は、速やかに名義変更を届け出る必要があります。
地主に無断で建物の名義を変更したり、
相続人が勝手に売却しようとしたりすると、
契約違反とみなされる可能性もあるため注意が必要です。
第3章 地主への「承諾」が必要になるケース

借地権の相続自体は、地主の承諾がなくても自動的に引き継がれます。
ただし、以下のような場合は地主の承諾が必要になります。
1. 相続後に売却・贈与したい場合
相続した借地権を第三者に売る場合は、
地主の承諾(または承諾料の支払い)が必要です。
このとき、地主は「承諾しない自由」も持っています。
そのため、実際の取引では、**承諾料(名義書換料)**を支払って了承を得るのが一般的です。
承諾料の相場は地域や契約内容によって異なりますが、
概ね借地権価格の5~10%程度とされます。
2. 相続人が複数いて、誰か一人に名義をまとめたい場合
兄弟で建物を共有名義にしたり、
一人が引き取って名義を変更したりする場合も、
地主の承諾が必要になることがあります。
なぜなら、地主にとって“借地人が誰か”は契約上の信用問題だからです。
地代の支払い義務者が変わることになるため、
事前に説明・同意を得ておくことが信頼関係を保つ第一歩です。
3. 建て替えやリフォームを行う場合
老朽化した建物を建て替える場合、
多くの契約書には「建替え時は地主の承諾を得ること」と明記されています。
無断で工事を行うと契約違反となり、
最悪の場合、借地契約が解除されることも。
また、相続後に「誰が費用を出すか」「建替え後の名義をどうするか」などで
兄弟間のトラブルが起きやすい点にも注意が必要です。
第4章 借地権の相続で起こりやすいトラブル

借地権の相続は、相続人同士の問題と地主との関係――
この2つの軸でトラブルが起きます。
1. 相続人同士のトラブル
代表的なのは、
「誰が地代を払うのか」「建物を誰が使うのか」「売るのか残すのか」
といった意見の対立です。
特に借地権は“土地が自分のものではない”ため、
売却価格が低く評価されることもあり、
「こんなに安いなら売らない方がいい」という感情的な対立も起きがちです。
対策:早めに「管理代表者」を決めておくこと。
1人が中心となって地代支払い・連絡・修繕などを行うことで、
地主との関係も円滑に保てます。
2. 地主とのトラブル
地主が代替わりして若い世代になると、
「契約内容を見直したい」「地代を上げたい」と言われることがあります。
旧法の借地契約では、借地人に非常に強い権利がありましたが、
新法(平成4年施行)以降は期間や条件が明確化されています。
対策:契約書を確認し、どの法律に基づいているかを把握すること。
契約書が古い場合や紛失している場合は、
専門家に確認してもらうことで、今後の対応を判断できます。
第5章 借地権付き建物を「売る」「残す」判断基準

相続した借地権付き建物をどうするか。
大きく分けると3つの選択肢があります。
1. 売却する
借地権の市場価値は、土地の価値・借地条件・残存期間で決まります。
地主の承諾を得られれば、第三者への売却も可能です。
ただし、借地権の売却は通常の不動産より複雑で、
買主が見つかりにくいケースもあります。
ポイント:借地権の取引に慣れた不動産会社に依頼すること。
売却には、地主との調整・契約書の再作成・登記の知識が欠かせません。
2. そのまま保有し、地代を払い続ける
建物を維持し、地代を払いながら保有する方法。
ただし、長期間空き家にすると地代の支払いだけが続き、
“使わないのにお金が出る”という状態に陥ります。
対策:使用しない期間は空き家管理サービスを活用し、
建物を良好に保つことで、将来の選択肢を残せます。
エステージの空き家管理サービス
3. 借地権を地主に返す
老朽化や資産整理のタイミングで、
地主に建物を譲渡して借地契約を終了させる方法もあります。
この場合、建物を取り壊して更地で返すケースが多く、
「建物買取請求権」(旧借地法)を行使できる場合もあります。
ただし、地主が買取を拒否することもあるため、
事前に専門家のアドバイスを受けることが重要です。
第6章 借地権相続で失敗しないための3つのポイント

①契約内容を確認することから始める
借地期間、更新条件、承諾事項を把握。古い契約書ほど要注意。
②地主との関係を良好に保つ
連絡を怠らず、地代支払いを確実に。人間関係が最強の防御策。
③専門家を交えて話を進める
司法書士・不動産会社・税理士を含めて「法・契約・税」の三方向から確認。
これらを押さえておけば、
借地権相続は決して難しいものではありません。
まとめ
借地権の相続は、
「土地が自分のものではない」という特殊性から、
通常の不動産相続よりも慎重な確認と調整が求められます。
手続きを誤れば、
地主との信頼関係を損ねたり、権利を失ったりするリスクもありますが、
正しい理解と誠実な対応で、十分に円満に引き継ぐことができます。
静岡でも、古い住宅地には借地物件が多く、
「どう扱えばいいかわからない」と悩む方が少なくありません。
そうしたときこそ、現場で借地取引に精通した不動産会社にご相談ください。
私たち株式会社エステージ(不動産買取売却センター静岡)では、
借地権の売却・管理・地主との調整まで、ワンストップでサポートしています。
借地も、大切な「財産」のひとつ。
次の世代へ安心して引き継ぐために、
早めに現状を整理し、信頼できる専門家と一緒に進めていきましょう。



