相続財産に「借地権」がある場合の注意点

相続のご相談を受けていると、「兄弟で意見が合わなくて…」という言葉を本当によく耳にします。
「売りたい兄」と「残したい弟」、「早く整理したい姉」と「まだ決めたくない妹」。
どちらも悪くありません。けれど、その“温度差”が放っておくと関係を壊してしまうことがあります。
私は静岡で長年、相続不動産のご相談を受けてきましたが、最初は「お金の問題」だったはずが、途中から
「感情の問題」に変わっていく場面を何度も見てきました。
このコラムでは、兄弟間で意見が割れたときに、どうすれば気持ちをこじらせずに話を進められるか――。
現場で実際に感じた“話し方のコツ”をお伝えします。
目次
第1章 感情がすれ違うのは「立場」ではなく「思い出」の違い

兄弟の間で意見が分かれると、つい「性格の問題」と捉えがちですが、
実はそうではありません。
多くの場合、“その家に対する思い出の重さ”が違うだけです。
長男は「親が建てた家を守らなきゃ」と思い
次男は「今の生活を考えると早く整理した方がいい」と思う。
どちらも正しいのに、価値観の違いが“対立”に見えてしまうのです。
私が印象に残っているご相談に、清水区で相続された姉弟のケースがあります。
お姉さんは「母の家を売るなんて気が進まない」とおっしゃり
弟さんは「固定資産税を払い続けるのは現実的じゃない」と悩んでいました。
二人の言葉の奥には、お姉さんには“感情”が、弟さんには“責任”があった。
立場の違いではなく、“心のベクトルの違い”だったのです。
第2章 言い方一つで結果は変わる――感情を刺激しない話し方

話がこじれるとき、多くは「正論」が原因です。
正しいことを伝えたつもりが、相手には“責められた”と受け取られる。
その瞬間、話し合いは止まります。
① 「あなたが」ではなく「私は」から話す
「あなたは何もしてくれない」ではなく、
「私は少し不安なんだ」「こう思っている」と自分を主語にする。
この小さな違いが、相手の心の防御を和らげます。
実際、あるご兄弟は意見が真っ二つに分かれていましたが、
弟さんが「俺も本当は母さんの家を残したい気持ちはある」と一言添えただけで、
お姉さんの表情がやわらぎました。
“気持ちを理解してくれた”と感じるだけで、人は素直になります。
② 話すよりも“聞く”が先
人は、反対意見を言われると、内容より先に“感情”が反応します。
だからまずは、「そう思ってるんだね」と一度受け止めることが大切です。
静岡の方は特に、人情深く、遠慮がちな分、
心の中では「わかってもらえない」と感じやすい傾向があります。
一方が話し、一方が聞く――
この順番を守るだけで、驚くほど話が進むことがあります。
③ 直接会って話す時間を作る
最近はLINEやメールでやり取りする方も多いですが、
相続の話だけは、直接顔を合わせて話す方がいい。
文面では温度が伝わらず、
「冷たい」「怒っている」と誤解されやすいからです。
できれば、喫茶店や誰かの家など、落ち着いた場所で「感情を置ける空気」を作る。
それが円満な話し合いの基本です。
第3章 感情的になったら「一度時間を置く」勇気

兄弟の話し合いが難しくなる最大の理由は、お互いが“早く決めなければ”と焦ってしまうことです。
感情が高ぶった状態では、どんな正しい意見も届きません。
そのときに必要なのは、「言い負かす力」ではなく、「待つ力」です。
私が以前対応した三姉妹のケースでは、最初の話し合いはまさに嵐のようでした。
長女は「母の形見を勝手に処分しないで」と怒り、
次女は「もう限界、早く片付けたい」と涙し、
三女は「どっちの気持ちもわかるけど…」と板挟みになっていました。
そのとき私は、「今日は結論を出さずに、また2週間後に話しましょう」と提案しました。
結果、次の話し合いでは空気がまったく違っていました。
「母の仏壇だけは残そう」「荷物の整理は私がやるから」と、自然に役割が決まったのです。
時間を置くことは、“冷静さを取り戻すための準備期間”。
感情が熱くなったときほど、一度立ち止まる勇気が必要です。
第4章 専門家を交えて“第三者の視点”を入れる

家族の話し合いでは、つい昔の関係性に引きずられてしまいます。
「子どものころから我慢してきた」「あの時もあなたは…」――。
相続とは関係のない過去の感情が顔を出すと、もう前には進めません。
そういうときにこそ、第三者の存在が必要です。
専門家という“中立の人”が入ることで、会話の焦点が“感情”から“事実”に戻ります。
私が入ったあるご家庭では、兄弟の間で金額の話が出るたびに空気が険しくなっていました。
そこで私はこう伝えました。
「少し整理しましょう。今日の目的は“どちらが正しいか”ではなく、“何が一番現実的か”です。」
すると、話が静かに整っていきました。
数字や書類という“共通の言葉”を挟むことで、兄弟の表情から緊張が消えたのです。
司法書士や税理士、相続診断士、不動産会社――。
誰でもいいわけではなく、“家族の想いに寄り添える専門家”に出会えるかどうかが鍵です。
私たちの役割は、単に手続きを進めることではなく、家族の関係を守ることでもあると思っています。
第5章 “納得”は平等ではなく、“理解”の積み重ね

相続の場面でよく聞く言葉に「平等に」というものがあります。
けれど、本当の意味で平等に分けることは不可能です。
お金の額をそろえることはできても、そこに費やした時間や思いまでは揃えられません。
たとえば、長男が親の介護を続けてきたケースと、遠方で何もできなかった弟。
数字の上では半分ずつでも、気持ちの上では釣り合いが取れないこともあります。
だからこそ大切なのは、“理解の平等”です。
「兄が母の面倒を見てくれたから、この分は兄に」
「私は遠くに住んでいて何もできなかったから、それでいい」
そうやって“なぜその形になったのか”をお互いが理解し合うこと。
金額よりも、「その理由に納得できるか」が関係を保つ鍵になります。
私が関わったご家族の中には、「結果的に兄の取り分が多くなったけど、話し合いの時間が長かったから納得できた」と話す方もいました。
話し合いの時間は、金額の調整ではなく、心のバランスを整える時間なのです。
第6章 「家族が壊れる前に」動くという決断

くの方が、「話すと揉めそう」「今は忙しい」と言って、相続の話を後回しにします。
でも、時間が経てば経つほど、問題は複雑になります。
固定資産税の支払いが滞り、建物が老朽化し、いざ売却しようとしたときには価値が下がっていた――。
そんなケースを何度も見てきました。
そして何より怖いのは、“感情の距離”が広がっていくことです。
一度話し合いがこじれると、数年間連絡を取らなくなるご兄弟もいます。
けれど、ほんの少し勇気を出して動き出せば、状況は変わります。
「家をどうするか」ではなく、「家族の関係をどう残すか」と考えてみる。
そうすると、行動の目的が変わります。
もし今、話が進まない状況にあるなら、「話し合う勇気」ではなく「一歩引く勇気」を持ってください。
そして、冷静になれたときに、もう一度テーブルにつく。
相続で本当に守るべきものは、“家”ではなく“家族”です。
そのことを忘れなければ、どんな形でもきっと前に進めます。
まとめ

兄弟で意見が割れるのは、当たり前のことです。
人それぞれ生活も考え方も違いますから、“違い”があること自体は悪いことではありません。
大切なのは、違いを否定せず、どう受け止めるか。
そして、言葉の使い方一つで相手の心が動くことを忘れないことです。
「どうしてわかってくれない」と思ったときこそ、
一歩引いて、「相手は何を守ろうとしているのか」と考えてみてください。
相手が守りたいのは、たいてい“お金”ではなく、“想い”です。
私たち「不動産買取売却センター静岡」は、
そうした“家族の想い”と“不動産の現実”の間に立ち、
円満に次のステップへ進めるようお手伝いしています。
不動産の問題は、書類ではなく“対話”で解決できることが多い。
もし今、兄弟で話が進まない状況なら、
ぜひ一度、専門家という“第三の中立な耳”を頼ってください。
「誰も悪くない」――
そう感じながら、家族が次の関係に進める。
それが本当の“相続の成功”だと、私は思います。



