プランがまとまらないという壁
以前、ダンス教室を2室と事務所を備えた建物を計画したい、というお客様がいらっしゃいました。弊社にご相談に来られる前に他社でもあれこれとプランを検討されていたようです。
2階建てで考えると、1階と2階の面積のバランスがどうしても悪くなってしまう。それなら1階で余る空間を駐車場にできないか?と考えたものの、そこには法規制上、難しい面積の制限がありました。かといって駐車場をやめて3階建てにすれば、天井高の高いダンススタジオを設けるために必要な高さが、今度は軒高の規制に引っかかってしまう…。
駐車場の問題を避けようとすると軒高の問題が出てきて、軒高の問題を避けようとすると駐車場の問題に戻ってしまうという、堂々巡りのような検討を重ねた末に、気に入ったプランがまとまらないまま、私のところにいらっしゃいました。
ダンス教室は天井を高く取らなければ用途として成り立ちませんし、2室分の面積と事務所の面積を同じ建物の中でどう配分するかという問題も、一つを立てればもう一つが崩れるという関係になっていました。
最初にお話をうかがったときには、駐車場をあきらめるべきか、それとも天井高を妥協するべきか、その二択で悩んでいらっしゃる様子でしたが、駐車場もダンス教室の使い勝手も、どちらもお客様にとって譲れない条件だと感じました。
なぜ行き詰まってしまうのか?
この壁にぶつかってしまった一番の理由は、間取りと構造、それに法規制を、それぞれ別々に検討していたことにあると考えています。法規制があってもコストを度外視すれば、建築は何でもできる点も問題です。
1階の余剰空間を駐車場にするという発想は間取りの都合から出てきたものですが、実際に駐車場にできるかどうかは法規制(=コスト)の話になりますし、3階建てにして天井高を確保するという発想も、軒高の制限という別の規制とぶつかります。
間取りの希望、法規制(=コスト)、それに建物を支える骨組みという三つの条件を切り離したまま一つずつ検討していくと、どこかでどれかがはみ出してしまいます。
そのため、私が普段の設計で意識しているのは、構造理論や骨組みの通し方を理解したうえで、無駄なにコストをかけない骨組みを先に考えてから間取りを組み立てるという順番です。この順番を踏まずに間取りの希望から先に固めてしまうと、あとから構造や法規制の壁にぶつかったときに、間取りごと作り直さなければならなくなります。
実は、矛盾しているように感じられる状況は、希望そのものが無理なのではなく、検討する順番や切り口の問題であることが少なくないというのが、私がこれまでの経験から感じていることです。
面積の配分も、高さの制限も、単独では動かせない条件ですが、骨組みという共通の土台に立ち返ることで、初めて同時に検討できるようになります。
骨組みから複数の選択肢を比較する
この案件では、駐車場にする案と3階建てにする案のそれぞれについて、柱や梁の通し方、屋根の骨組みまで含めて図面レベルで並べて比較しました。鉄骨造だけでなく木造やその他の構造も選択肢に入れて検討したのは、構造の種類によって部材同士の通し方、いわゆる納まりが変わり、天井高や軒高の確保しやすさも変わってくるためです。
鉄骨の納まりは分かっても木造の納まりが分からない、あるいはその逆という技術者も少なくありませんが、木造、鉄骨造、RC造のいずれも扱ってきた経験があったからこそ、構造の種類にとらわれずに複数の案を並べて比較することができました。
また、構造計算を専門とする事務所の多くは意匠設計を扱わないため、案ごとに構造計算を依頼しては待つという時間がかかりがちですが、意匠と構造を分けずに一貫して検討できることが、限られた時間の中で複数の案を並べられた理由だと感じています。
柱一本、梁一本の位置をずらすだけで天井高や軒の出方が変わってくるので、細かい部材の配置まで含めて比較する必要がありました。
無駄なコストをかけずに骨組みを考えることは、法規制という動かせない条件と、お客様の希望という譲れない条件を両立させる土台になります。この場合、骨組みとは建物を支える構造部材だけでなく、各部屋の面積といった意匠上の概要も含まれます。
お客様の希望は、その場で否定しない
弊社では、お客様のご希望に対してその場で「それはできません」とお答えすることは基本的にありません。法律上どうしても無理な場合を除き、いったん持ち帰って事務所で検討し、次の打ち合わせで理由とともに代替案をお伝えするようにしています。
この案件でも、駐車場をあきらめるべきか天井高を妥協するべきかというその場での即答は避け、駐車場の配置とスタジオの高さ、両方を成り立たせる骨組みの通し方を一度持ち帰ってから複数案として整理し、次の打ち合わせで一つずつ説明しました。
お客様の考え方を自分の中に映し取るように理解し、お客様が考えることを自分が実行するという感覚を大切にしながら向き合うよう心掛けていますが、この案件でも、駐車場とスタジオの高さのどちらも同じくらい優先したいという要望の重みをできるだけ汲み取ったうえで、案をまとめるようにしました。
持ち帰って考える時間は、遠回りに見えて、実は一番の近道になる時間だと考えています。
結果とお客様への向き合い方
検討を重ねた結果、駐車場については法規制に抵触しない面積範囲で必要な台数を確保できる配置に落ち着き、3階建てにする案についても、屋根の骨組みを見直すことで軒高の制限内に天井高の高いスタジオを納めるプランが見えてきました。
当初、二択で悩んでいらっしゃったところから、どちらも諦めなくてよいプランにたどり着けたのは、間取りだけでなく骨組みまで含めて検討を重ねたからだと思っています。
建築物には用途があり機能があり、さらにお客様の財産ですので、見た目や自分の作品性にこだわって仕様を落とせないと突っぱねるようなことはせず、あくまでお客様の希望と使いやすさを優先するようにしています。
一つの希望を通すためにもう一つを切り捨てるのではなく、骨組みまで戻って考え直すことで両方を残せる道が見つかることは、この案件に限らず少なくありません。矛盾しているように感じる希望ほど、遠慮せずに全部お聞かせいただいたほうが、結果として満足のいくプランに近づくというのが、これまでの経験を通じて実感していることです。
この案件を通じて、条件が矛盾して見えるときほど、間取りだけを見直すのではなく、骨組みまで立ち返って考えることの大切さを改めて感じました。面積や高さの数字だけを見て諦めてしまう前に、骨組みまで含めて相談してみる価値はあると思います。
まとめ
建築は用途と機能があり、お客様の財産であることが最優先です。矛盾しているように見える希望も、骨組みの理解と丁寧なすり合わせによって両立できる場合が多いというのが、これまでの経験を通じて私が実感していることです。
・気に入ったプランがまとまらず、複数の希望をどう両立させればよいか悩んでいる方
・駐車場や軒高など、法規制と希望する間取りが両立するか不安な方
・希望を伝えても実現できるか分からず、相談をためらっている方
お問い合わせは弊社公式サイトから承っています。
https://archilibra.jp/



