PROFESSIONAL
STORIES

Mybestpro Interview

古の技を現代に活かし、ゆとりを生む住まいを届けます

伝統の技を現代に再生する大工仕事のプロ

後藤史樹

後藤史樹 ごとうふみき
後藤史樹 ごとうふみき

#chapter1

宮大工の紹介で伝統技術を学ぶ

 後藤史樹さんは木造建築のプロです。宮大工として、日本でも指折りの環境で社寺建築の修行をした後、安来市伯太町で家業の住宅建築の大工としての経験も積んでいます。双方に詳しい後藤さんは、高い技術力を武器に、昔ながらの家づくりの良いところを取り入れ、現代の私たちが住みやすい家を建てています。

 家業は150年を越える歴史があり、後藤さんで五代目です。住宅を建てる父の喜郎さんを見て、自分もその世界に入るのだと思っていた中学生の頃、テレビで法隆寺などを手掛けた宮大工、西岡常一棟梁
を知りました。「こんな世界もあるんだ」と後藤さんがもらした一言に、喜郎さんが動きます。テレビ局経由で西岡さんに連絡を取り、直接会いに行って後藤さんの弟子入りを願い出たのです。

 西岡さんは当時、新たな内弟子は取っていませんでしたが、後藤さん親子の熱意を汲み、東京の工務店を紹介してくれました。そこでは文化庁関連の工事や史跡の復元などを手掛けており、日本の最高峰の
技術を学ぶことが出来ました。

 東京で7年間の修行を終えた後藤さんは、帰郷し数多くの文化財の修理や復原工事に携わりました。清水寺(安来市)本堂の修理では、建立年代の墨書を発見し、阪神大震災で被災した明石城(兵庫県明石
市)の櫓の復旧や、松江城(松江市)の櫓復元、出雲大社(出雲市)本殿修理のほか、令和元年に焼失した首里城(沖縄県)正殿工事に携わり、琉球建築の奥深さを追求しています。

#chapter2

昔の工法をお手本に、自然素材を取り入れた家を

 宮大工の現場と平行して、父と共に一般の住宅工事にも取組みましたが、二つは「まったく異なる世界」だそうです。社寺建築では、材料の品質もサイズも特別な上に、木材を手作業で加工し、釘などをほとんど使わず組みあげるなど、技術も専門的です。

 とはいえ父の喜郎さんは、戦後に広がり、主流となった現代工法には流されず、昔ながらの家づくりを大切にしていました。自ら山に入って、使う木を見定めることも得意で、ノコギリの入れ方ひとつで材木の価値が変わってしまうことなども熟知していました。平成19年に喜郎さんが亡くなるまで、後藤さんは多くのことを学んだといいます。

 昔と今の家づくりを比べると、時間のかけ方や自然素材の使い方が大きく違います。かつては、長い時間をかけて家を建てていました。建て直しが決まると、まずは家の前に田を作ったそうです。山から運んだ土を寝かせて水を張り、藁を入れては腐らせ、数年かけて繊維を含んだ強い壁土を作りました。その手間を省かない実直な工程が、ゆとりある暮らしにつながっていた、と後藤さんは考えています。

 自然素材をふんだんに使い、昔の工法で建てた家は、解体して別の土地で元通りに再現することができます。実際に後藤屋の本社は、安来市広瀬町にあった住宅を移築したもの。広瀬藩の士族の家柄で、明治末期の大火で焼失し、その後復興した歴史ある屋敷です。移築工事の試金石にと、そのままでの移築に拘りました。その一つとして、玄関の壁の落書きを丸ごと移築しました。その復原ぶりは魔法のようで、昔から伝わるあらゆる工法を再現しその強みを証明しています。

後藤史樹 ごとうふみき

#chapter3

愛着の持てる住宅を 仲間を増やし技術を世界へ

 今では、昔のように時間をかけて家を建てるのは難しくなりました。それでも後藤さんは、古の技と今の暮らしとの融合を目指し、木造ならではの手触りやぬくもりを残しながら、耐久性や耐震性にも配慮した家づくりに奔走しています。

 後藤屋で家を建てる人は、スピード重視の家づくりに疑問を持った人が多いといいます。後藤さんは、施主になる人が住宅に求めるものを聞き取り、後藤屋の家づくりを十分に説明します。さらに、職人と共に作業になるべく加わってもらい、家造りの面白さを伝えています。棟上げの餅まきや土壁の塗りなど、少し参加するだけで、家への愛着が増し、住み始めてからの満足度が違うそうです。

 後藤さんは、ゆくゆくは、伝統工法を世界に広めたいと考えています。世界各国に木造建築がありますが、日本の技術力には定評があり「特に加工技術の繊細さには感服される」そうです。実際にアメリカや北欧などで、日本の技術力を生かし、古い木造建築を残したいとの動きがあるそうです。

 技術の継承には人作りも欠かせないと、若い大工さんたちの指導にも力を入れています。さらに、左官や屋根葺の職人など、各地で活躍する様々な業種のプロと繋がり、活動の和を広げています。

 数多くの現場を経験してきた後藤さん。古い建物を解体すると、建築当時の大工の仕事やその技量が手に取るようにわかるそうです。先人の仕事ぶりを感じる度に、「自分はまだまだと実感します。一生、修行ですね」。立ち止まらず技術を磨き、さらなる高みを目指しています。

(取材年月:2020年4月)

リンクをコピーしました

Profile

専門家プロフィール

後藤史樹

伝統の技を現代に再生する大工仕事のプロ

後藤史樹プロ

有限会社 後藤屋

社寺や城など伝統建築を手掛ける宮大工としての腕と経験を活かし、住む人と共に、納得した住まいを提供します。世界に誇る木造建築を次世代に伝えるため、伝統建築職人集団を育て、技術の向上に努めています。

\ 詳しいプロフィールやコラムをチェック /

掲載専門家について

マイベストプロ山陰・島根に掲載されている専門家は、新聞社・放送局の広告審査基準に基づいた一定の基準を満たした方たちです。 審査基準は、業界における専門的な知識・技術を有していること、プロフェッショナルとして活動していること、適切な資格や許認可を取得していること、消費者に安心してご利用いただけるよう一定の信頼性・実績を有していること、 プロとしての倫理観・社会的責任を理解し、適切な行動ができることとし、人となり、仕事への考え方、取り組み方などをお聞きした上で、基準を満たした方のみを掲載しています。 インタビュー記事は、株式会社ファーストブランド・マイベストプロ事務局、または山陰中央新報社が取材しています。[→審査基準

MYBESTPRO