他者を通じて深まる自己理解
「相手が変わってくれたら、うまくいくのに」
夫婦の関係がうまくいかない時、こう思うことはありませんか。
「夫がもっと話を聞いてくれたら」
「妻が文句ばかり言わなければ」
「相手が変わってくれたら、すべてうまくいくのに」
確かに、相手の行動が変われば楽になるかもしれません。しかし、相手を変えることはできません。そして、「相手が変わってくれたら」と待ち続けることは、とても疲れることです。
この記事では、相手を変えようとする前に試してほしいことをお伝えします。
「相手を変えよう」とすることの問題
1. 相手を変えることはできない
当たり前のことですが、他人を変えることはできません。変えられるのは、自分だけです。
「もっとこうしてほしい」「こうあるべきだ」と言い続けても、相手は変わりません。むしろ、言えば言うほど、相手は頑なになることがあります。
2. 疲弊する
相手を変えようとすることは、とても疲れます。
何度言っても変わらない。変わらないから、また言う。また言っても変わらない。この繰り返しで、疲れ果ててしまいます。
「どうして分かってくれないの」という怒りと、「私の言い方が悪いのかも」という自責の間で揺れ動きます。
3. 悪循環を作る
「相手を変えよう」とする試みが、逆に問題を悪化させることがあります。
例えば、夫に「もっと話してほしい」と妻が繰り返し言う。夫はプレッシャーを感じて、ますます黙る。妻はさらに「どうして話してくれないの」と言う。夫はもっと黙る。
良かれと思ってやっていることが、問題を維持してしまうのです。
視点を変える:「自分の関わり方」に注目する
相手を変えることはできません。しかし、相手への関わり方は変えられます。
ブリーフセラピーでは、「相手を変えよう」ではなく「自分の関わり方を変える」ことに焦点を当てます。
なぜ関わり方を変えると効果があるのか
前回の記事で説明したように、夫婦はシステムです。あなたの行動が変われば、相手の反応も変わります。
「相手を変えよう」とするのではなく、「いつもと違う関わり方」を試してみる。すると、相手の反応が変わることがあります。
相手を変えたのではありません。あなたの関わり方が変わったことで、相手の反応が自然に変わったのです。
具体例:「いつもと違うこと」を試してみる
ケース1:「話を聞いてくれない」夫
<いつものパターン>
妻:「ねえ、聞いてる?」
夫:「聞いてるよ」(スマホを見ながら)
妻:「聞いてないじゃない!」
夫:「......」(黙る)
妻は「ちゃんと聞いて」と何度も言いますが、夫の態度は変わりません。
<「いつもと違うこと」を試してみる>
- タイミングを変える:夫が疲れている時ではなく、休日の朝に話しかける
- 短く伝える:長々と話すのではなく、1分で要点だけ伝える
- 聞けない時は聞かない:「今は疲れてるから後で」と言われたら、素直に引き下がる
これらを試してみると、夫の反応が変わることがあります。タイミングが良ければ、夫が顔を上げて聞いてくれる。短く伝えれば、最後まで聞いてくれる。
ケース2:「家事をしてくれない」夫
<いつものパターン>
妻:「どうして家事を手伝ってくれないの」
夫:「仕事で疲れているんだ」
妻:「私だって疲れてる!」
夫:「......」(逃げる)
妻は「やってほしい」と言い続けますが、夫は動きません。
<「いつもと違うこと」を試してみる>
- 責めない:「どうして〜しないの」ではなく、「〜してくれると嬉しい」と伝える
- 具体的に頼む:「家事を手伝って」ではなく「ゴミ出しをお願いできる?」と具体的に
- 感謝を伝える:やってくれた時に「ありがとう、助かった」と伝える
これらを試してみると、夫の行動が変わることがあります。責められないと、防衛する必要がなくなります。具体的に頼まれると、何をすれば良いか分かります。感謝されると、また手伝おうという気持ちになります。
ケース3:「文句ばかり言う」妻
<いつものパターン>
妻:「またゴミ出し忘れたでしょ」
夫:「忙しかったんだ」(言い訳)
妻:「いつも言い訳ばかり」
夫:「そっちだって」(反撃)
夫は妻の文句にうんざりしています。しかし、言い返すと余計に悪化します。
<「いつもと違うこと」を試してみる>
- 反論しない:言い訳や反論をせず、「そうだね、忘れちゃった」と認める
- 先に謝る:文句を言われる前に「ゴミ出し忘れてごめん」と先に謝る
- お願いする:「次は忘れないように声かけてもらえる?」と協力を求める
これらを試してみると、妻の態度が変わることがあります。言い訳しないと、妻は追い詰める必要がなくなります。先に謝ると、妻の怒りが和らぎます。
小さな変化でいい
「いつもと違うこと」は、小さなことで構いません。
大きく変わる必要はありません。劇的な変化を起こす必要もありません。
いつもなら10回言うところを、1回だけにしてみる。いつもなら言い返すところを、黙って聞いてみる。いつもなら責めるところを、お願いしてみる。
このような小さな変化が、パターンに「くさび」を打ち込みます。そして、小さな変化が、やがて大きな変化につながっていきます。
「うまくいかなかったら?」
試してみたけれど、うまくいかないこともあります。それは当然のことです。
大切なのは、一つの方法にこだわらないことです。うまくいかなければ、別の「いつもと違うこと」を試してみる。
カウンセリングでは、試した結果を一緒に振り返ります。うまくいったことは続け、うまくいかなかったことは別の方法を考えます。この試行錯誤が、解決への道を開きます。
「でも、相手も変わるべきでは?」
もちろん、お互いが変わることが理想です。
しかし、相手が変わるかどうかは、コントロールできません。あなたにコントロールできるのは、自分の行動だけです。
まず、あなたが変わってみる。あなたの関わり方が変わると、相手の反応も変わります。相手の反応が変わると、関係性全体が変わっていきます。
そして時には、あなたの変化を見た相手が、「自分も変わろう」と思うこともあります。
カウンセリングでできること
ブリーフセラピーでは、「いつもと違うこと」を一緒に考えていきます。
あなたとパートナーの間にどのようなパターンがあるのか。そのパターンの中で、あなたができる「いつもと違うこと」は何か。
試してみた結果を次回のカウンセリングで振り返り、うまくいったことは続け、うまくいかなかったことは調整していきます。
この積み重ねが、少しずつ関係性を変えていきます。
まとめ
相手を変えることはできません。しかし、自分の関わり方は変えられます。
「いつもと違うこと」を試してみる。この小さな変化が、相手の反応を変え、関係性全体を変えていきます。
「相手が変わってくれたら」と待つのではなく、「自分から変わってみる」。これが、関係性を変える最も確実な方法です。
「いつもと違うこと」について、より詳しく知りたい方は、当カウンセリングルームのWebサイトもご覧ください。
ご相談やご質問がありましたら、お気軽にお問い合わせください。



