江戸時代の歯科医
和田はつ子先生インタビューなのですが、「アニマ・ソラリス」に掲載されたものとは別に、岡山県歯科医師会会報に載る予定の、ショートバージョンがあります。2000字以内との制限があるため、半分以上新たにインタビューし直したものです(県歯会報、平成26年新年号に掲載予定)
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「江戸の歯科医が謎を解く《口中医桂助事件帖》著者和田はつ子先生インタビュー」
『春告げ花』安里英晴カバーイラスト《口中医桂助事件帖》最新13巻、小学館文庫
大店のお転婆娘、彼女はお嬢様から町娘に変身するために利用している寺で死体に出くわしたり、連続殺人犯に狙われたり、親戚の叔母夫婦の家の怪奇現象に関わったり。果ては店の庭からお宝が出てきたり――。そんな彼女と知り合った桂助、鋼次は、次々に事件に巻き込まれていく……
『大江戸ドクター』ヤマモトマサアキ装画、幻冬舎
幕末の江戸、大の親友であった据物師と同心と医師の三人。ある日、医術を極めに長崎に行った医師克生が、かつての居宅に戻ってきたとの報を聞き、二人が訪れた診療所では、神薬と呼ばれる麻酔を駆使して歯を抜く克生の姿があった。密かに愛した恩師の娘の面影を胸に、自分が守れなかった命だけを数えてきた克生と患者との交流。両替商の舌癌、人気噺家の痔瘻、梅毒で鼻がもげた大名家のお世継ぎ等々、蘭方医克生の技が冴え渡る。
[雀部]
昨年末に『大江戸ドクター』、年初に《口中医桂助事件帖》シリーズ最新作『春告げ花』と立て続けに上梓されましたが、この二作とも、麻酔下の無痛抜歯のシーンが冒頭で出てくるのが面白いですね。(麻酔の方法は違いますが)
[和田]
『大江戸ドクター』の方はアメリカで発明され、イギリスで改良されたクロロフォルム吸入麻酔ですが、『春告げ花』の方はトリカブトや細辛を擂り潰して混ぜて抜歯部分の歯茎に塗る塗布麻酔です。この塗布麻酔はかなり以前からあったようです。
[雀部]
《口中医桂助事件帖》シリーズ各巻の後書きで、愛知学院の故榊原先生と中垣先生、“歯の博物館”館長の大野先生、また主人公のモデルになられた池袋歯科の市村先生と須田先生に謝辞を書かれてますが。、
[和田]
歯科の先生たちとの素晴らしい出会いが口中医桂助シリーズの血肉になっているのです。
[雀部]
第21回日本歯科医学学会総会で講演されて、WBCの星野仙一監督の講演と同時刻だったのにも関わらず大盛況だったそうですね。
[和田]
わたしは当日まで星野監督の講演を知らなかったのですが、後で聞かされて座長でわたしを推挙してくださった市村先生はひやひやものだったと申し訳なく思っています。どこから聞きつけたのか、読売新聞の記者の方も来てくれました。江戸期の歯科事情はそれほど知られていなかった研究なのでしょう
[雀部]
3・11のあと“物語を通して、絶対的な希望や自信を多くの人に届けられないだろうかとの思いから筆を執りました”とのことなのですが、一番苦労されたところは?
[和田]
医師である義兄の書架にあったトールワルドというドイツの作家が書いた『外科の夜明け』という本を読んだのがきっかけです。医師たちの苦闘が小説の手法で描かれているのですが、その本を19歳の時、一気に読んでとても感銘を受けました。麻酔なしの手術で、患者は痛みで死んでいく。手術する医師の精神的苦痛も相当なものです。
アメリカの歯科医による麻酔の発見は、まさに近代医学の夜明けでした。小説家になってから、いつかは書きたいとずっと温めていた題材だったのです。
[雀部]
出てくる数々の手術も、歯科麻酔、腎臓摘出、帝王切開、心臓手術と幅広い。
[和田]
江戸時代の外科手術は『JIN - 仁』のようなSFの手法を使わずに、どこまで可能なのか、読者に伝えられるかが、『大江戸ドクター』の一つの読み応えにつながると思ってのことです。
[雀部]
どちらも歯科医・外科医という“職業小説”であると同時に良くできたミステリとしても読むことが出来て面白さも倍増です。
[和田]
江戸時代の人たちにとって、怖かったのは実はお上ではなく、身分の差とは無関係に襲いかかってくる病だったろうと思うのです。あの頃は治る病の方が稀な時代でしたから――。ですから、読み手の方々にこの本を読みながら江戸時代にタイムトリップして、主人公と一緒に、病を魔物に見たてて果敢に闘ってほしいです。きっと現代を生きる活力が沸いてくることと思います。
[雀部]
歯科医としては頑張らねばなりませんね。(インタビュー全文を読むには「アニマ・ソラリス 和田はつ子」で検索。《口中医桂助事件帖》シリーズ全巻の粗筋紹介できます。県歯事務局までリクエスト下さい)