里山の自然体験を通じて子どもの成長をうながすプロ上野一美

里山の自然体験を通じて子どもの成長をうながすプロ

上野一美

農村体験型民宿「えびすさんち」を運営し、多彩なアクティビティーを展開

　「優美な姿から『越後富士』と呼ばれる霊峰・米山の麓に広がる里山で、四季折々の風情を体感したり、野山や清流にすむ多様な生き物に触れたり、旬の味覚も存分に味わってください」

　そう語るのは「百姓や本舗」の代表・上野一美さん。田園風景が広がる新潟県上越市で、農村体験型民宿「えびすさんち」を運営しています。

　「田植え、稲刈り、野菜や果物の収穫といった農作業をはじめ、魚釣り、専門家を招いての山菜・キノコ狩り、星空観察など、多彩なアクティビティーを用意しています。食事は田畑や山で採った季節の作物を自分たちで調理する自炊スタイルで、『子どもの食育にもぴったり』と好評です」

　宿泊は1日1組限定。友人同士やカップル、外国人観光客などが訪れ、特に家族連れに人気だと言います。

　「時間に追われる日常の中では、保護者の方が『こうしなさい』とお子さまに指示を出したり、先回りしてやってしまうことが多いと思います。しかし大人が考える以上に、子どもには決断力や行動力といった“生きる力”が備わっています。刻々と変化する自然は、個々の秘めた力を引き出す絶好の舞台です」

　約30年にわたり、自然体験を通じた青少年の育成に尽力してきた上野さん。野外活動におけるエキスパートで“えびすさん”の愛称で親しまれています。

　「子どもたちが伸び伸びと過ごせるように私たちスタッフがサポートしますので、どうか大人の方にはゆったりとした気持ちで見守っていただきたいですね。お子さまが小学校高学年以上なら、子どもだけで宿泊する“冒険旅行”もおすすめです」

青少年の育成に携わり、多くの子どもに自然体験を届けるため民宿を開業

　上野さんが青少年の育成に関わり始めたきっかけは、長男が参加した地域の子ども会。指導員を経て会長を務めました。

　「地域の行事などでボランティアを行う中高生らで構成される、ジュニアリーダークラブ（JLC）の活動にも携わりました。便利な生活とは異なるキャンプを通して、子どもたちが創意工夫したり、リーダーシップを育んだり、たくましく成長する姿を目にしてきました」

　また、農山村に滞在するグリーンツーリズムや、都会の子どもが農家などに宿泊して地域の歴史・文化・自然を体験し、住民と交流する教育民泊にも取り組みます。

　「生徒の中には『手持ち花火をしたことがない』と話す子もいて驚きました。街の喧騒を離れ、自分で収穫した野菜を調理して食べ、浴衣を着て花火をし、寝袋で寝ると、最後には『宝物みたいな思い出ができた』と目を輝かせます。達成感と同時に、課外授業だけでなく、もっと自由に子どもたちが田舎に訪れる機会を届けたいと考えるようになりました」

　40代初めには勤めていた半導体メーカーを退社して実家の農業を継ぎ、法人化。民泊で毎年100人ほどの児童生徒を受け入れ、子どもの発達や心理、野外プログラムに関する資格も取得します。

　企画のブラッシュアップに努めていた折、「えびすさんに活用してほしい」と知人から一軒家を譲り受け、2020年に念願の農村体験型民宿を開業。「えびすさんち」は、「友だちの家に遊びに来るように気軽に訪れてほしい」との願いから名付けました。

栄養豊富なキクイモの栽培を普及し、地域の活性化や農福連携を目指す

　「当方は生産者として、キクイモを手掛けています。水溶性の食物繊維『イヌリン』や水分量を調節するミネラル『カリウム』が含まれ、腸内環境の改善やむくみの予防などが期待できる健康野菜として注目されています」

　上野さんはキクイモの漬物やチップスを開発し、上越市の特産品販売サイトなどで展開。2023年には市から、地域ブランド「メイド・イン上越」に認証されました。

　「栽培しやすく栄養も豊富なキクイモづくりを普及して、地域の農業を盛り上げていくのが目標です。多くの方に知ってもらうため、イベントへの出店や料理教室の開催などで魅力をPRしています。また、高齢者や障がい者の方々に仕事をお手伝いしてもらい、農福連携も進めたいと考えています」

　JLCの卒業生や教育・行政関係者、料理家、アーティスト、ITエンジニアなど、さまざまな人と縁を紡ぎながら、事業を展開する上野さん。地元のシンガーやダンスチーム、和太鼓グループなどを招いて、夏祭りや収穫祭、音楽祭といった催しも開いています。

　「敷地内にはキャンプ場もあり、テントを張ってバーベキューを楽しむこともできます。日々の食卓に並ぶ食材がどこからやってくるのか、自然がもたらす恩恵や、大事に育てられた作物をおいしくいただく喜びを子どもたちに伝え、日本の農村文化と美しい里山を守っていきたいですね」

　培った知見で、地域活性化や農業ビジネスの相談にも応じる上野さん。七福神の恵比寿神のような笑顔で訪れる人を迎えます。

（取材年月：2024年10月）

季節感あふれる里山で農村文化に触れ、子どもがたくましく育つ楽しい自然体験を

農村体験型民宿「えびすさんち」を運営し、多彩なアクティビティーを展開

青少年の育成に携わり、多くの子どもに自然体験を届けるため民宿を開業

栄養豊富なキクイモの栽培を普及し、地域の活性化や農福連携を目指す

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