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英国で学んだニットデザイナーが、手動式横編み機による優しくも洗練されたニットを提案

素材を生かし着心地にこだわるオリジナルニットのプロ

川久保康子

川久保康子 かわくぼやすこ
川久保康子 かわくぼやすこ

#chapter1

セーターやカーディガンなどニットアイテムを展開。世界に一つのオーダーメードも人気

 ブランド名であり、スタジオ兼ショップの名前でもある「Retrospective(レトロスペクティブ)」は英語で「回顧」の意。ニットデザイナーの川久保康子さんはこの言葉に、「古いものを、大事に使い継いでいくことで生まれる良いものを次世代に残したい」という思いを込めました。

 川久保さんが提案するのは、シンプルでありながらも洗練された雰囲気で、流行に左右されず長く愛用できるもの。デザイン、素材選び、パターンから制作まで、全工程を自ら手掛け、着心地のいい一品に仕上げます。
 国内ではすでに製造されていない貴重な手動式横編み機、通称“手横編み機”を使い、セーターやカーディガン、ベレー帽、キャップなど多彩なアイテムを生み出しています。

 「今、主流の自動式と比べて時間も手間もかかりますが、ふっくらと柔らかで、優しい肌触りは手横編み機だけのもの。商品を手に取って、その質感に感動するお客さまもいらっしゃいますね。ニットは1本の糸からいろいろな形を作り出せるのでロスが少なく、環境に優しいのも特長です。コットンや麻であれば年間を通してお使いいただけます」

 オーダーメードにも対応し、来店のほかオンラインでも世界に一つだけのニットが作れるとあって、全国から注文が入ります。大切な人へのプレゼントにする人も多いとか。
 「お客さまがどんなシーンで着るのか、体形で気になるところがないかなどを伺い、さまざまな角度から素材・デザインを考えます。その方に似合うよう、ご年齢やライフスタイル、好みのテイストなどもお聞きしています」

#chapter2

イギリス留学で培ったものづくりの技術と日本で学んだ引き算のデザインを糧に独立

 川久保さんは短大を卒業後、単身渡英。国立ロンドン芸術大学でファッションとニットデザインを学び、コレクションブランドのアシスタントに。
 「小さく切った生地をつないで糸にして編むとか、トルソーの上で布にピンを打ちデザインするとか。デザイナーが手を動かしながら発想を膨らませ、服を作り上げていくんです。ものづくりの面白さを体感しました」

 25歳で帰国してからは、大手アパレルメーカーでレディースなどを担当。納期に合わせるため、効率ばかりが重視される現場に戸惑い、「どんどんものづくりの本質から離れていくような感覚がありました」と当時を振り返ります。

 2009年に結婚。3人の子どもに恵まれ子育てをする中で、「留学時代の経験を糧に、自分らしく服作りをしたい」と独立を決意します。準備のため、さらにキャリアを重ねました。
 「デザインの意味を追求するブランドに勤めた時は、線1本でもそこに入れる意味を突き詰めました。無駄をそぎ落としていく潔さを教わりましたね」

 2017年、次女・三女が保育園の待機児童問題に直面したことから、夫の実家に近い長野市に移住。念願だったオリジナルブランドを立ち上げます。
 「イギリスで覚えた素材からこだわる丁寧なものづくりと、日本で身に付けた “引き算”の美学。これらが、ブランドの個性を織りなしてくれていると感じます。また、長野は自然に恵まれ、都市部とは違う穏やかな時間の流れで、私の仕事にも子どもたちにもゆとりをくれて、感謝です」

川久保康子 かわくぼやすこ

#chapter3

職人の技をつなぐため編み機の体験会を開くほか、自身の個展販売会も実現

 独立に当たり、手横編み機を探し回ったという川久保さん。都内の廃業した工場で眠っていたものを譲り受けると、職人に使い方を習いました。
 「過去、現在、そして未来へ。人と人とのつながりを実感できるのが古い物の良さ。先人が残してくれた機械や技術を受け継ぎ、次の世代に伝えることも私にとって喜びです」

 編み機を扱える職人が高齢化し、技を継承するのが難しくなっている状況を変えようと、予約制で編み機の体験会を実施。糸選びに始まり、手ほどきを受けながら進めるので、ストールなら1~2時間で完成するとか。
 「制作に一から携わることで、ハンドメードの自由さや無限に広がる可能性を知ってもらえればと思います」

 中には、「実家に家庭用編み機があり、とても懐かしく自分でも使えるようになりたくて」という人も。
 「実際、参加したことをきっかけにニット作り始めた方もいらっしゃるんですよ。仲間が増えたら、みなさんの作品を披露する機会も設けていきたいですね」

 厳選した素材で紡いだ毛糸の販売もスタートし、ニットをまとうだけでなく、作る楽しさも届けていきたいと笑顔を見せます。

 また、2022年には東京で初の個展販売会を実現。フォックスやアルパカなど天然素材を用いた上質な風合いと、落ち着いた色合い、細部まで計算された上品なデザインが、アパレル関係者から高評価を受けたそう。
 「今後もマーケット出店や展示会開催などを通じて出会いの場を増やし、ニットの魅力を伝えていきたいですね」

(取材年月:2023年6月)

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川久保康子

素材を生かし着心地にこだわるオリジナルニットのプロ

川久保康子プロ

ニットデザイナー

Retrospective(レトロスペクティブ)

英国で学んだニットデザイナーが素材選びから編みまで一貫して制作しフルオーダーメードも可能。50年以上動き続ける貴重な手動式横編み機を使い、優しい肌触りとシンプルで美しいデザインを持つニットを届けます。

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