介護環境の一般的概念を覆す、視点を変えた施設運営のプロ
芥田哲也
Mybestpro Interview
介護環境の一般的概念を覆す、視点を変えた施設運営のプロ
芥田哲也
#chapter1
いまや“人生100年時代”とも言われ、平均寿命の高さでも世界トップクラスを誇る日本。いっぽうで公的介護保険にかかる国や行政などの負担金は増え続けており、その対策の一環として、現在は、いかに健康寿命(元気に自立して過ごせる期間)を延ばすかもテーマとなっています。
延岡市と福岡県大川市に全部で3つのデイサービス施設を運営する「株式会社カイホウ」の代表取締役・芥田哲也さんは、介護保険のあり方をふくめ、介護事業の役割はもちろん、利用者の生活をもサポートできる新たな時代の施設運営を創生・提唱。自らが利用者と向き合い介護の仕事に携わってきた経験を生かした試みを次々と実践している一人です。
「約30年前、柔道整復師として整骨院を開業しましたが、患者それぞれの症状に対応するには整骨院では無理があると判断し、16年前に昼休みの時間を利用して介護事業をスタートしました。当時、介護の仕組みも知りませんでしたが、来所される方々のいろんな症状を看ながら1日数時間触れ合う間に、それぞれ人生や生き様を見ることができ、私個人としても勉強させていただきました。しばらくは整骨院と両立していたのですが、利用者が一日40~50人となり、来所者の生活全体を見る事の大切さや、もっと人生勉強もしたいという想いから思い切って整骨院のほうを閉鎖。本格的に介護事業に取り組みました」
#chapter2
芥田さんが介護の仕事で利用者の方々と向き合っていた当初から、疑問に思っていたことのひとつが、介護保険の目的と介護施設における固定概念的なサービス内容でした。
「機能訓練を行ううちに、ちょっと待てよ?と。機能訓練自体は大事ですが部分的な改善はみられても、普段どのような生活様式で暮らしているかなどを考えると、根本的な解決にはならない。これは生活全体をみないとダメだ!という気持ちが芽生えました」
それにより芥田さんは、サービス内容の改善に取り組みはじめ「デイサービスあくた・東海店」の規模を拡大。利用者がそれぞれ目標を持って1日のスケジュールを決め、動く「選択型サービス」を採用し始めました。施設内には階段や坂道・砂利道といった、一般家庭環境に見合った設備ほか、編み物や釣り堀などの趣味に至る活動場所まで、利用者の要望の度に増設。それぞれ訓練や活動をポイント制で溜めることも可能で、それを施設内で食事や買い物に活用できるという、一つの生活コミュニティが「デイサービスあくた」には形成されています。
「従来は、スタッフによるサポートも『お金を払っているから、やってもらって当たり前』という風な感覚があり、運動のない時は寝るなど、言ってみれば利用者がまるで“旅館のお客さん”のような、楽に甘んじたシステムでした。また介護保険の役割は、今までできた事ができなくなった故に、それをお手伝いする事で、1つでも自分でできるように改善していくのが目的のはずが、残念ながら受け入れ側もできていない所が多い。このままでは介護保険料の負担は上がるいっぽうで、本当に介護が必要な方々に届かなくなってしまうかもしれないという危機感を持ちました」
#chapter3
現在の介護認定は、段階によるものの、多くの方が「便利でもあるため、要介護・要支援認定から外れたくない」という概念も少なからずあるそうですが、いっぽうで利用者側の気持ちになってみると、「認定から外れたら、一人の生活が不便になる」という方や、働かざるを得ないという不安があるのも現状。そこで芥田さんは、介護認定から除外された方々も施設に通えるよう「視点を変えた受け皿作り」に着手。自ら決めた出勤日に施設の送迎付きで来所し、仕事をしていただく高齢者サポーター制度を採用しました。
「機能訓練の補助や、カルチャー教室の先生、掃除や調理など、少しでも『自分にできること』をすることで、役割や生きがいを持っていただく。若いスタッフも多いですが、みな私の趣旨に賛同してくれているので、AIを使った新たな試みなどもどんどん生まれています。また、7月『デイサービスあくた・南店』の隣に新設したスポーツジムもまた受け皿作りのひとつ。医療・介護保険に頼らず専門のトレーナー(理学療法士、作業療法士等)が個々に合ったプログラムを作成し、マンツーマンの指導が出来るジムをオープンさせました」
介護事業には、運営上さまざまな法律や制度の規制が付いて回ることも多いそうですが、「これまで法律なども一つひとつクリアしながらやってきた」という芥田さん。「まずはこの地区だけでいいから、いくつかある物事を足して、総合的な“まち”としての機能や流通が成り立てばいいなと思います。利用者の方々から『今度はなにするの?』と期待を込めて言われる事が楽しくてしょうがないです」と、介護の未来に明るい期待を膨らませているのです。
(取材年月:2020年6月)
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Profile
介護環境の一般的概念を覆す、視点を変えた施設運営のプロ
芥田哲也プロ
株式会社カイホウ 代表取締役
真和グループ 株式会社カイホウ
年ごとに変化する介護事業環境に対応すべく、介護従事者の人手不足解消にも効果をあげる「視点を変えた受け皿作り」に着手。機能訓練特化型のデイサービスほか、介護保険以外の受け皿作りにも取り組んでいます。
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