「法定相続人が一人もいない方」のための遺言書の書き方
「親族に事業承継する方」のための遺言書の書き方
こんにちは、「遺言作成・相続サポート」宮城県名取市まさる行政書士事務所 菅野勝(かんのまさる)です。
今回は、【遺言書の書き方講座 仕事編 vol.3】として、『「親族に事業承継する方」のための遺言書の書き方』についてご案内します。
遺言書を作成する皆様共通のメリット・理由は、相続開始時に面倒な遺産分割協議書が不要となり、相続手続きを円滑に進められることです。
遺言を作成しようと思った時に知っておきたいチェックポイントを解説します。
株式についての確認
会社経営を行っている場合、当該会社の株式の全部又は大部分を保有していることが多いですが、事業承継に当たり会社の株式が分散してしまっては会社の経営が困難になりかねません。
したがって、保有する当該会社株式を後継者に承継させる必要があります。
会社の定款、登記事項証明書や株式名簿、確定申告書における同族会社等の判定に関する明細書等により、会社が発行している株式の種類や数、遺言者が保有している株式の種類や数を確認することができますので、これらを利用して確認することが有益です。
会社経営に供している個人資産について
個人資産である土地上に会社所有の建物がある、または会社に対して貸し付けをしている等、会社経営のために遺言者の個人資産を供していることがあります。
このような資産を後継者以外の相続人が相続することになると、場合によっては会社経営に支障が生じかねません。
会社経営に必要なものについては後継者に確実に承継させる必要があります。
その他の資産について
会社の株式や、会社経営に供している個人資産を後継者に承継させると、他の相続人とのバランスを著しく欠いたり、他の相続人の遺留分を侵害して後に後継者が遺留分侵害額請求される可能性があります。
その場合、遺留分算定の基礎となる財産を確認した上で遺留分侵害について事前に検討しておく必要があります。
負債について
会社経営を行っている場合、会社の金融機関の借入債務について個人保証をしていることが多いかと思います。
金融機関の借入れについての個人保証は後継者に承継させることが相当なことが多いところ、特定の相続人が債務を負担する旨の定めは相続人間の求償関係においては効力を有しますが、債権者には対抗できません。
したがって、遺言書作成時に金融機関に相談しておくことが望ましいです。
株式の評価と対策について
遺言作成時点において遺留分算定の基礎となる財産を把握して評価をしたとしても、現実に相続が発生した場合、遺留分算定の基礎となる財産は相続開始時点を基準に評価され、遺留分が算定されることになります。
それゆえ、遺言作成後に会社の株式の価値が大きくなった場合、想定していなかった遺留分侵害が生じる可能性があり、場合によっては会社の株式が分散してしまうこともあり得ます。
これに関して、経営承継円滑化法の定めにより、会社の株式を承継者に生前贈与する場合に一定の要件を満たすと、推定相続人と合意することにより、生前贈与した株式を遺留分算定の基礎財産から除外したり(除外合意)、生前贈与した株式の評価を合意時点の評価に固定したりすることができます(固定合意)。
中小企業の事業承継の際には、経営承継円滑化法に定める除外合意や固定合意の利用も検討する必要があります。