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着物に宿る人の思いを守る悉皆業、高い技術力で美しさ引き継ぐ

顧客目線のお直しサービスを確立した着物のプロ

田中久登

田中久登 たなかひさと
田中久登 たなかひさと

#chapter1

低価格・スピード・技術力で着物のクリーニングや修繕、仕立てなどに対応

 着物の丸洗いやシミ抜き、染め直しなどを行う悉皆業(しっかいぎょう)。語源は「ひとつ残らず」を意味する「みな(皆)ことごとく(悉く)」とされ、着物にまつわる相談をすべて引き受ける専門家を表します。

 「織信」の代表・田中久登さんも、悉皆業の一翼を担う一人。ECサイト「京のキモノお直し屋さん」を運営し、クリーニングやシミ・汚れ・汗取りのほか、傷んだ箇所の修繕、サイズ直し、仕立てまで幅広く対応。着物の受け渡しは配送で行い、日本中から依頼を受け付けています。

 「私どもは、お客さまの利用しやすさを第一に考えています。まずお値段。多店舗展開ではなくオンラインショップを主軸とし、仲介手数料ゼロによるコスト削減で業界最安クラスのメニュー価格を設定しています。また、パートナー工場と直結し、14営業日でご返送というスピードを実現しました」

 最大の特長は高い技術力。仕上がりの良さからリピーターが多く、特に日常的に着物をたしなむ目の肥えた愛用者から支持を得ているそう。和装のハードルを下げ、気軽に装いを楽しむ人を増やしたいと語ります。

 「サービスはプラスアルファの配慮を心掛けています。例えば、お預かりした着物は職人が1枚1枚検品するので、お客さまが認識していないほつれや汚れが見つかることも多いです。現状をお伝えしますが、無理にお直しは薦めません。ただ、これ以上劣化させないためのお手入れ方法についてアドバイスすることはありますね。大切な着物を、末長く慈しんでいただくことが当方の願いです」
 
 「織信」という社名には、人と人が織り重なりながら力を合わせ、強い信用で結ばれるようにという思いを込めているとい田中さん。さらに英語のorijin(始まり)の意味を掛け合わせ、着物業界に新しい価値を提供したいという決意も覗かせます。

#chapter2

顧客目線に立ったサービスを浸透させ、着物業界に一石を投じる

 田中さんはもとから着物を専業にしていたわけではなく、実は約30年にわたり運輸業を営む経営者です。荷物の到着を待つ人たちの満足度を高めたいと、接客に力を入れることで信頼を集め、「配送業者」と「配送先」の関係性を超えた温かな人間関係があったと言います。

 「最近では、置き配や宅配ボックスが増えるなど効率が重視されるようになり、お顔を合わせて手渡すことが減りました。時代のうねりの中で業務の工程などが変わるのは仕方ないことですが、また真心を込めて一人一人と向き合える仕事がしたいと思案し、たどり着いたのが悉皆業でした」

 京都を拠点に活動していたことから和装関係者との接点も多く、「大切な着物を預かり、腕の確かな職人に託し、持ち主の元へ届ける、という三つの点が結びついた」と振り返ります。

 さらに、着物業界に参入したのは「運輸事業で培ってきた、人とものをつなぐノウハウが生かせると考えたのもありますが、『消費者目線』を浸透させたいという挑戦心もありました」と続けます。

 「呉服店への入店は敷居が高く、金額を聞きにくい雰囲気があります。当店は明瞭会計かつ、お客さまにどんなささいな不安も残らないよう分かりやすい説明を徹底しています」

 運輸業の最前線で顧客との邂逅(かいこう)を繰り返してきた田中さん。「思いやりの精神」で、着物業界に新しい風を吹き込みます。

田中久登 たなかひさと

#chapter3

着物に込められた人と人の絆 美しく整え、次世代へ引き継ぐ手伝いを

 田中さんの元には、変色した半世紀前の振り袖や、金箔がはげ跡になってしまった訪問着、カビが点在する産着など、職人の技量が試される品が数多く舞い込みます。

 「コンディションが悪くとも諦めたくはないので、金粉などを施す金彩加工でシミを隠す、染料を配合して色を入れ直す、手書きで柄を書き足すなど、再びお召しいただける方法を考えます。毎回『お客さまなら、どう直してほしいか?』を職人と熟考しますね」

 多くの人の手を介して息吹をもたらし、次世代へと受け継がれる着物の生涯に、神秘性を感じることがあるとか。

 「特に親や祖父母から譲り受けた場合、お客さまが守りたいのは表面的な美観でなく、着物を通して子や孫へと引き継がれる思いでしょう。新しい服を買う方がよほど簡単なところ、手間をかけてでも直したいという強いお気持ちに胸を打たれるのです。悉皆業は、人の機微に触れ、心に寄り添う仕事だと身が引き締まります」

 移ろいゆく時の中でも変わらず美しい着物に、色あせない人の記憶を見る田中さん。今後も、日本の古き良き伝統を継承しつつ、時代に応じた感性や世界観を融合させることで、着物の価値を高めていきたいと語ります。

 「近年はリユース着物も販売しています。不要になったものを引き取り、当店が責任を持ってクリーニングしています。ほぼ利益の出ない価格ですが、着物に興味を持つ人が増える足がかりになれば幸いです。これからも、人から人へ紡がれる尊い絆を守っていきたいですね」

(取材年月:2023年12月)

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専門家プロフィール

田中久登

顧客目線のお直しサービスを確立した着物のプロ

田中久登プロ

悉皆業

京のキモノお直し屋さん(株式会社織信)

着物のクリーニング、メンテナンスなどを提供する「京のキモノお直し屋さん」を運営。明朗会計や仕上がりの早さなど、利便性の高いサービスを実現。着物に込められた思いを尊び、美しい仕上がりを追及する。

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