子育てと仕事の両立 ―不登校について―

西野薫

西野薫

テーマ:仕事・生き方・モチベーション

不登校と離職率

子どもが不登校になったとき、保護者の離職率は4~5人に1人

令和5年度、不登校の児童・生徒が過去最多の約41万5千人に上ることが文部科学省の「令和5年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」において明らかになっています。
社内でアンケートを取れば、ほとんどの職場にお子さんが学校に行けなくなっているという社員様がいらっしゃる可能性があります。

不登校そのものはマイナスではないと実りの森は考えています。
心身が整うまでしっかり休むことは大切ですし、自分の居場所を自分で選ぶことも大事なことだと考えます。
現に、今、子どもの居場所や学ぶ場の多様性は広がっています。
それぞれの居場所や学びの場につながり、年齢に応じた様々な経験・体験を十分得られているなら、不登校に何の問題もないと言えます。

ただ、気がかりなのは、不登校になった児童・生徒の大半が自己肯定感の低下や強い不安を感じていることです。
時に、自己肯定感の低下や強い不安のために外に出ることも苦痛になり、長期のひきこもりに至ることもあります。
年齢によっては自宅に子どもを一人で置いておけませんし、年齢が高くても情緒不安定な様子が見られたら、やはり一人にはしておけません。

NPO法人キーデザインの調査(2024年2月)によると子どもの不登校を理由とした保護者の離職は4人に1人。SOZOW株式会社の調査(2024年10月)では5人に1人と算出されています。
離職した保護者のうち8割は女性(母親)という結果もあります。

これまで、私が心理士として関わらせていただいた不登校児童・生徒の保護者様のお声を聴くと、相談機関につながるまでは先の見通しの立たなさから不安になり、子どもにつらく当たってしまうこともあった…というお話もうかがいます。
子どもの不登校において重要なのは、子どもの一番近くで子どもを支えている保護者様がしっかり支えられていることだと思います。

不登校と社会

井出草平氏(大阪大学非常勤講師)の2010年の論文『不登校がその後の生活に与える影響 (統計分析)』によると、不登校を経験すると「学歴達成が下がる傾向」「雇用形態は正規雇用より非正規雇用や無職になる傾向」「暮らし向きが悪くなる傾向」「婚姻率が下がる傾向」が確認できたとあります。
現在は、2010年よりも不登校の児童・生徒の「居場所支援」や「学習の保障」が、多少進んでいるため、当時とは少しずつ違う結果が得られるようになっていくと思われますが、不登校は、不登校の児童・生徒がいるご家庭だけが背負う問題ではなく、社会課題であることを、わたしたちは忘れないようにしたいと思います。

少子化に加え、不登校がこれだけ増えると、学校教育の在り方も変わっていくと思われます。明治の時代から、学校教育は国の施策として成り立ってきました。その根本が問い直されようとしている時代なのだと思います。その狭間にあって、不登校を他人事ではなく、自分事として考えていく人が一人でも増えていかないと、国そのものが先細る可能性もあります。

企業においてできることとしては、不登校のお子さんを持つ保護者様の「働き方」についてご相談に乗っていただいたり、そもそもの未然防止として、不登校が増える前思春期(10歳頃)から思春期の子どもを持つ社員様に向けて、不登校の初期段階でのケアの方法や親子関係をより良くするための研修など、メンタルヘルスの社員研修のひとつに「子育て支援研修」を取り入れていただけると良いと思います。
繰り返しになりますが、何よりも、不登校や不登校のお子さんを持つご家庭を他人事と思わず、社会全体で見守り手当てする課題と考えていただくことが大切だと思います。

おわりに

かつて、人間は「群れ」や「地域社会全体」で子育てをしていました。核家族化の今、子育てはとても不自然な環境になっています。不登校は、歯車がたまたま噛み合わなくなったとき、どのご家庭にも起こり得ることです。縦横ななめの関係がたくさんあった時代なら、ひとつふたつ、歯車がかみ合わなくても回っていたものが、今は、そうはいきません。
縦横ななめの関係をほんの少し補うものとして、企業・会社も、社員様のご家族とのつながりを想像してみることが、これまで以上に必要になっているのではないでしょうか…

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西野薫
専門家

西野薫(臨床心理士・公認心理師)

一般社団法人 実りの森

子どもから大人まで生き生きと暮らせる社会を目指し、25年間、心理士として心の課題に向き合ってきた知見をもとに、各種講演会・セミナー、途切れることのない心理支援や企業・地域のメンタルヘルスを行っている。

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