無名であること

木戸伸英

木戸伸英

自分が築き上げてきたものを一気に失う時が、恐らくほとんどの人にあります。それが40代、50代で来る人もいるでしょう。定年退職という時と共に訪れるかもしれません。あるいは、死の間際。
多くの人にとって、この時を越えた先にも命が続いていきます。それは決して意味のないものではないはずです。

《原詩:ある無名兵士の詩》
大きなことを成し遂げるために力を与えて欲しいと神に求めたのに
謙虚を学ぶようにと 弱さを授かった。

偉大なことができるように健康を求めたのに
より良きことをするようにと 病気をたまわった

幸せになろうと富を求めたのに
賢明であるようにと 貧困を授かった

世の人々の賞賛を得ようとして成功を求めたのに
得意にならないようにと 失敗を授かった

人生を楽しもうとして あらゆるものを求めたのに
あらゆることを喜べるようにと 命を授かった

求められたものはひとつとして与えられなかったが願いはすべて聞き届けられた
神の意にそわぬものであるにもかかわらず心の中に言い表せない祈りはすべて叶えられた
私はあらゆる人の中で 最も豊かに祝福されたのだ
 
今日はそんなお話です。




あるところにほぼ同時期に生まれた3匹のサルがいました。子供の頃は、子ザルの群れの中で、3匹は仲良く過ごしました。そのうち、3匹には差がでてきました。

1匹は体も大きく力持ち。小さい頃からみんなの期待を一身に集め、やがて群れのボスになりました。やさしさと強さをあわせもった非常に優れたボスであり、常に群れのためを思って行動しました。みんなこのボスを尊敬しました。

もう1匹のサルは、すべてが並。力も、知恵も、人望も並。可もなく不可もなく。大きく目立つこともなければ、みんなからいじめられることもなく、ボスに従い、群れの中で豊かに過ごしました。

最期の1匹のサル。こちらは何をやってもテンデン駄目。いつも群れの足を引っ張っていました。群れのみんなについていくのが必死で、それだけで毎日が過ぎていくようなありさまでした。

さて、この3匹のサルはその後どうなったでしょうか。ボスは転落、並は豊かに、足でまどいは大逆転、そんなことにはなりませんでした。

彼らはみな一様に老い、群れの中で老いたサルの地位になりました。3匹は互いを労わりながら過ごし、そして死んでいきました。死の間際、彼らはみな、自分の生きた足跡を思い返し、豊かな気持ちで死を迎えることができました。

この地に棲むサルの歴史において、3匹が過ごした時はほんの一瞬の出来事でした。

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木戸伸英
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木戸伸英(獣医師・中小企業診断士)

獣医師と中小企業診断士の専門知識を生かし、動物の専門用語と経営・行政の用語を両立し、現場の声を意思決定に変換。組織内外の摩擦を減らし、職員が本来の専門業務に集中できる環境をつくるお手伝いをします。

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