中小の動物病院が獣医師を採用するには —「学び重視型」と「働き方重視型」の2タイプで考える—

木戸伸英

木戸伸英


いま、獣医師採用が難しい理由

動物病院業界では、獣医師の採用に悩む経営者が増えています。かつては自院のホームページで求人を出せば応募がありましたが、現在は人材紹介エージェント経由の採用が主流になり、中小の動物病院ほど採用が難しくなりました。
本記事では、エージェントに過度に依存せず、自院の魅力を高めて獣医師を確保するための考え方を、私自身が獣医師の視点から整理してお伝えします。

求職者は大きく「2タイプ」
獣医師が動物病院を選ぶ基準は、主に次の2つのパターンに分かれます。

1)学び重視型(卒後まもない時期)
目的:知識・技術の習得、経験を積むこと
重視点:症例の多様性、教育体制、指導・フィードバック、学会発表の機会
比較的重視しない:初期の給与水準、細かなシフト条件

この段階では、給与や勤務時間よりも「いかに多くの知識や経験を得られるか」が重要な判断材料となります。幅広い症例を経験できるか、指導体制が整っているか、学会や研究会への参加や発表の機会があるかといった点が魅力になり、応募の動機につながります。病院としては、実際に学べる環境を可視化して示すことが大切です。例えば、症例数や得意分野を具体的に示したり、先輩獣医師がどのように指導しているかを紹介したりすることです。また、学会や研究会での発表実績を発信することも効果的です。こうした実績は「ここで働けば成長できる」という安心感を与えるだけでなく、病院自体のPRにもつながります。

2)働き方重視型(経験者・家庭持ちなど)
目的:安定した働き方と収入、裁量・専門性の活かし方
重視点:勤務時間・日数・給与・オンコール体制・残業の有無、柔軟なシフト
比較的重視しない:基礎的な教育(すでに自学自習で補える領域)

この段階では、勤務日数や勤務時間、給与といった条件面が最優先されます。もちろんすべての病院が高額な給与を提示できるわけではありませんが、その場合でも勤務時間や日数に柔軟性を持たせることで魅力を高めることが可能です。たとえば、週三日の勤務や短時間正社員制度、オンコール免除といった働き方を提案することによって、求職者にとって「自分の生活に合った働き方ができる病院」と感じてもらえます。また、給与や勤務条件については、曖昧にせず数字で明示することが信頼につながります。

タイプ別アプローチ
A. 学び重視型への訴求
ポイントは「ここでどれだけ成長できるか」を具体的に見せること。

学べる環境を“可視化”する
週次カンファレンス、症例検討会、OJTの流れ
先輩獣医師の指導体制(メンターの担当制・評価とフィードバック頻度)
学会・研究会での発表実績を紹介

自院の採用ページを充実させ、症例や教育体制、勤務条件などを具体的に紹介することが欠かせません。見学や実習を常時受け入れる体制を整えれば、病院の雰囲気を実際に感じてもらえるため、応募につながりやすくなります。さらに、学会や研究会での活動を積極的に発信することも有効です。

B. 働き方重視型への訴求
ポイントは「条件のわかりやすさ」と「柔軟性」。

柔軟な勤務設計
週3~4日勤務、短時間正社員、時短・固定シフト、オンコール免除枠
夕方まで勤務/土日どちらか休み等、生活リズムに合わせた選択肢
報酬と評価の透明化
固定給+インセンティブ(手術件数、売上割合、指導・発表貢献など)
残業代支給の方針、有給取得率、賞与基準の明記

「短時間でしっかり稼げる」モデルの提示することが重要です。仕事以外の様々なライフイベントが重なる時期ですので、そういった方々の気持ちに寄り添える環境が整っていることをアピールすることが大切になります。また、条件提示は最初から正直に行い、数字でしっかり示しておきましょう。最初から条件を示すことで他所と比較されることが懸念されますが、この部分を曖昧にしておくと、そもそも病院を選んでもらえないことになってしまいます。

エージェントに頼らず採用力を上げる
若手獣医師には「ここでどれだけ学べるか」という成長の設計図を示し、経験者には「生活に合った柔軟な働き方ができる」という条件を明示することが大切です。中小の動物病院であっても、この二つの方向性を意識した工夫を行えば、新しい人材を確保する道は十分に開けてきます。

学会・研究会での発表実績の発信は、学びの場としての魅力と病院PRの両立に大変有効です。また、勤務日数・時間の柔軟設計や「短時間で収入を得やすい枠」の用意は、経験者層の関心を高めることにつながります。待ちの姿勢ではなく、積極的な情報発信によって、獣医師採用に結びつくことを願っています。

次回は、「獣医師に長く働いてもらうための定着・育成の仕組み」について掘り下げます。引き続きご覧ください。

動物病院における人材育成研修や、学会・研究会での発表、論文投稿といった取り組みをサポートすることが可能です。さらに、経営に関するご相談にも対応しております。ご興味をお持ちの方は、ぜひホームページまたはお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。
HP:https://www.abumi-stirrup.com/

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木戸伸英
専門家

木戸伸英(獣医師・中小企業診断士)

獣医師と中小企業診断士の専門知識を生かし、動物関連事業者の経営課題に応じたコンサルティングを提供します。動物園での約17年の現場経験から、ヒューマンエラー対策研修や事業者向けの往診サービスにも対応。

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