特許出願の発明人は人でなければならない。法人は権利の譲渡を受ける
特許の権利者が亡くなった場合どうなるのか
特許権などの知的財産権を持っている方が亡くなった場合、その権利は相続の対象となります。出願手続きの最中である場合や、これから出願するという場合にも相続可能です。
特許は、まず前提として特許を受ける権利(職務発明)は企業自体に帰属するものではなく、個人に帰属とするというルールがあります。
そのうえで、職務規定に則り「企業のもの」として譲渡する仕組みとしているケースも多いですが、中小企業などでは、職務規定で規定されておらず、職務発明の特許を受ける権利が発明者に帰属したままの場合も少なくありません(なお現在、当初から権利が企業に帰属するよう改正案が進められています)。この場合、企業は発明者から適切に特許を受ける権利の譲渡を受けていないと、企業が特許出願しても、発明者が亡くなられた場合、遺族からその権利の返還を求められる可能性もありますので、注意が必要です。
また、中小企業などでは、社長が出願人となり、特許権も社長が持っているケースも多くあります。社長が不幸にして亡くなった場合、権利は社長の遺族に承継されることとなりますので、会社はその権利を継続使用できるかどうかについて、遺族からの承諾が必要になります。
どちらのケースも、企業の製品に特許権を使用している場合、その製品の販売などに影響が出る可能性がありますので、事前に対策をしておかなければなりません。
特許権の相続手続きの方法
実際に、特許の相続手続きが必要となった場合には、どのようにすればいいのでしょうか。
まずは遺族による、遺産分割協議などにおいて当該特許の相続をどのようにするかを取り決めてもらう必要があります。そして相続人が確定したら、速やかにその旨を特許庁に届け出る必要があります。
その際には、移転登録申請書、被相続人の除籍謄本、相続人の戸籍謄本・住民票、遺産分割協議書が必要となります。
もしも、権利の移転登録を申請せず相続が宙に浮いてしまった場合にはどうなるのでしょうか。
その場合は、家庭裁判所より「相続人は名乗り出るように」との催促が出されます。そのまま相続人が名乗り出ない場合には、特許権は消滅してしまいます。
一般的に、相続財産は相続人の不在時には国庫に帰属するようになっていますが、特許については権利を失効させ一般開放するほうが産業振興の促進に繋がることから、そのようなルールになっているのです。
特許権を失うと多大な事業リスクに
相続の手続きが正しく行われず、特許権を失ってしまうと、会社にとって大きなリスクとなることは想像に難くありません。当該技術を採用した競合製品の出現などにより、自社の利益が大きく脅かされる可能性は極めて高くなります。
そうした事態に陥らないよう、特許権の相続手続きについての社内教育、あるいは特許権の会社への譲渡の仕組みづくり等の手を打っておく必要があります。万が一の事態への備えとなりますが、せっかくの知的財産を守りぬくためにも、怠りなく取り組んでおくべき課題と言えます。