袴田事件を裁いた悲運の人
1、ロシアによる侵攻が続くウクライナであるが、来るべき戦後復興のための費用がどのように賄われるべきかを考えておかなければならい。復興費用は、世界銀行などの試算によると推定5000億ドル(約63兆円)以上が必要になるとされている。このような膨大な費用は、国際機関や支援する国の資金だけでは限りがあることから、民間投資が鍵になると言われている。しかし、ここでその活用が考えられなければならないのが凍結されているロシアの中央銀行とオリガルヒ(新興財閥)の資産である。
2、国際法上、オリガルヒなどの個人の資産は通常は手を付けられないが、犯罪による没収の場合は没収が可能とされている。しかし、国家は外国の裁判権に服さないとする「主権免除」の原則があることから、ロシアの中央銀行など国の資産の没収は国際法違反になることから、ロシアがウクライナ侵攻で生じた損害分を支払うまで凍結するものとされている。そうは言っても、ロシアの資産をウクライナ復興に使うことには「道理」があることから、米欧諸国はいろいろと知恵を絞っているところであり、欧州連合(EU)ではロシアの資産から生じる利子を復興に充てる案が出ている。カナダではオリガルヒの資産を差し押さえ、没収の手続を始めている。2022年に可決した予算関連法の中で、没収したオリガルヒの資産をウクライナ復興に転用できるようにしている。
3、米国では、広範囲に及ぶ民事不法行為法を使い、ウクライナがオリガルヒの米国資産から損害賠償を請求できるようにする案やロシアの外貨資産押収を可能にする新法を制定するために議会に緊急立法権限を求めることも考えられているが、80年代に対イラン制裁で確立された前例にならうような形で、凍結資産を米銀に移し替えられる、77年制定の「国際緊急経済権限法(IEEPA)」を米バイデン大統領が使うかもしれないとされている。ウクライナとしては、1990年代にロシアとの間で結ばれたほとんど知られていない直接投資条約に関連する仲裁プロセスで、経済的な損害が生じた場合に相手に損害賠償金を科す道が設けられているのを使う案もあるが、武力侵攻に関与した人が所有する資産に関して「憲法と法に基づき、透明で効果的な」資産封鎖・押収に取り組む新たな国連委員会の設置を求める案も出ているようである。
4、しかしながら、国連安全保障理事会の常任理事国であるロシアは拒否権を持っていることから国連委員会の設置は難しいし、米政府のIEEPA発動には法的に賛否両論がある上、ロシアの資産を押収する新法などの法案を米議会が迅速にさせることも困難が予想される。
(2022.6.1 日本経済新聞 FINANCIAL TIMES等の記事参照)