袴田事件を裁いた悲運の人
第1、はじめに
政治とカネについては、元衆議院議員河井克行氏による大規模買収事件が想起され、政治資金規 正法と公職選挙法の問題として取り上げられるが、より身近な地方議会議員についても、2014(平成26)年7月の野々村竜太郎兵庫県議会議員や2020(令和2)年2月の熊本憲三広島市議会議員による「政務活動費」の不正支出が問題となっており、来年は統一地方選挙が施行されることもあるので、この「政務活動費」の問題を取り上げることとする。
第2、「政務活動費」の成り立ちと現状
1,「政務調査費」として導入
・きっかけは、国会議員の「立法事務費」を規定した法律が1953(昭和28)年に施行されたことか ら、「国会議員に出るなら地方議員もほしい」ということになり、地方自治法には国会の立法事務費の交付に当たるような条文も条例への委任もなかったが、同法232条の2の「公益上の必要がある場合」の補助として公費を支給してもらうことになり、この補助金支給が「調査研究費」として都道府県から政令指定都市、一般市へと広がっていった。
・しかし、「公益上の必要がある場合」の補助を出すかどうかの権限は首長にあり、首長がその使途に厳格な基準を設け、領収書の添付や報告書を求めることを徹底すると、執行機関の監視機能を果たす議会活動への干渉と言われるおそれがあったので、公費支出でありながらノーチェック同然になり、市民オンブズマンから廃止の要求や訴訟が起こされることになった。
・地方議会としては世間的にも堂々と使えるようにしてほしいと国に要請した結果、議員立法により、2000(平成12)年に地方自治法100条の中に14項が新設され、「地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務調査費を交付することができる」として、条例に基づいて政務調査費を支給できる措置が取られることになった。
2,「政務調査費」から「政務活動費」へ改称
・「政務調査費」の使途に関して住民から批判が絶えない一方で、議員の間には「調査」に関わらせることが使途を窮屈にしていると不満が少なくなかったことから、2012(平成24)年の改正によって、「政務調査費」を「政務活動費」に改称し、100条14項に「議員の調査研究その他の活動に資するため」と「その他の活動」という6文字が付加された。
・地方議員の行う政務活動とは何なのかということについては、国の場合の意味からすると、「政務」は政策の立案・企画にかかわる調査研究ということになるが、地方自治法で政務活動費の規定が議会の調査にかかわらせているということは、政策形成機能というより、首長等の事務執行をめぐる不透明、不適切なこと、住民との関係で問題が発生していることなどの調査機能であることを窺がわせるが、住民との意見交換会など民意の把握・吸収のための活動に要する経費のすべてに充てられるわけではない。
3,「政務活動費」の使途の問題
・政務活動費の使途は、各議会の手引きで細かく定められており、各種研修の参加費、調査研究費、広聴広報費、書籍などの資料費などの資料費に使用可能であるが、政党活動、選挙活動、後援会活動、慶弔餞別、飲食を主目的とする会合などには使えず、議員は1年分の収支報告書を提出し、議会事務局がチェック、修正した後、閲覧可能な状態で公開される。
・政務活動は議員活動の一部であることは確かなので、そのための公費支出が議員活動そのものに規制を加えることになっているとすると問題があるが、政務活動費を議員活動そのものを規制しないで使えるようにしようとすれば、議員活動なら何でも使える公金支出となってこれも問題である。
・政務活動費の使途について、私用のガソリン代、家族を伴った出張旅行、水増し請求、すり替え請求、架空請求、着服、会派議員団の宿泊研修など不正の手口による不祥事が絶えないことは、制度自体に欠陥があるともいえることになる。
4,「政務活動費」の厳正適用論ないし廃止論
・兵庫県議会は、野々村県議の不正支出の問題をうけて、議長の責務と調査、是正勧告等の権限を相当拡張するとともに、議会事務局にも政務活動費の収支報告書のチェックなどを行う専門部署を新設して厳正適用している。
・大阪府泉南市議会では、政務活動費と称して費用を支弁されることが議員活動そのものに規制を加えることになり、議員の自主的活動の中で自律的な政策提言を行うことのほうが、より柔軟な政治活動を行えるのではないかなどの理由で政策活動費を廃止している。
第3,「政務活動費」の今後
・政策活動費は既得権益視されているため、これを議員報酬に組み込むことは議員の納得が得られないし、議員報酬の引き上げになることから住民の理解も得られにくい。
・議員報酬も各自治体によって相当多寡があることから、一律の議論はできず各自治体議会の自覚と自律に委ねざるを得ない。