地域で産前産後を支える人材を育成するプロ
豊田晴子
Mybestpro Interview
地域で産前産後を支える人材を育成するプロ
豊田晴子
#chapter1
訪れた母親は赤ちゃんをスタッフに預け、温かい食事を取り、安心して眠ることができる。そんな時間を過ごせるのが、福岡県小郡市にある産前産後サポートセンター「心ゆるり」です。運営するのは、「産前産後サポーター協会」代表理事で助産師の豊田晴子さん。福岡県内26市町と連携して産後ケア事業に携わっています。
豊田さんの原点は、看護師として勤務した新生児集中治療室でした。小さな命を支える中で、妊娠中からの経過を理解する必要性を感じ、助産師の道へ。産科では、赤ちゃんが入院した母親たちの自責の念にも接しました。
「赤ちゃんだけでなく、お母さんの心と体も支えなければならないと思いました」
大分県内の国立病院での勤務を経て、福岡市内の総合病院の産科管理職に。母乳外来の開設に向けた基盤づくりにも尽力しました。開業医のもとで地域の医療を学んだ後、1998年に助産院を開きました。退院後すぐに家事や上の子の世話に追われ、休む間もない母親たちの姿を見て、養生できる場所を構想します。
「産後にもっとゆっくり休めたら、心身の負担を減らせます。資金が十分ではなかったので、家のまわりの木は、自分でチェーンソーで伐採し元農家の空き家を改装しました」
2013年に「心ゆるり」を開設。産後ケア事業が市町村の努力義務となる前から、支援の拠点を形にしました。さらに、居住地を越えてサービスを利用できる仕組みづくりにも関わり、行政と現場をつなぎながら支援の機会を広げています。
#chapter2
一人の助産師が支援できる家庭には限りがあります。そこで豊田さんが力を入れているのが、産前産後を支える担い手を増やす「産前産後サポーター認定講座」です。子育て中の人や専門職だけでなく、出産経験のない人や男性も受講できます。産休中に学びたい人、自身の育児に役立てたい人、将来産後ケアに携わりたい人まで受け入れています。
「核家族化が進み、赤ちゃんを抱いた経験がないまま親になる方も珍しくありません。育児の悩みを受け止めてきた中で、ご家族の応援隊をもっと増やしたいと思い、この講座を始めました」
講座は4日間の対面授業と動画で構成。新生児の特徴や産後の心身、授乳、抱っこ、沐浴、栄養、発達を促す遊びなど、家庭で生かせる知識を多面的に学びます。講師には豊田さんのほか、歯科医師や発達支援の専門家、中国で中医学を学び普及に取り組む専門家、海外で母子手帳の普及に携わる実務者らが参加しています。
「何でも病院に頼るのではなく、家庭でできるケアや関わり方もあります。それを知ると、育児は苦しいだけではなくなります。赤ちゃんの声をどう受け止めるのか、その聞き方も伝えたいですね」
修了生は、産後ケアを行う整体院や家事支援事業、保育園、親子で過ごせるカフェなど、それぞれの形で活動を始めています。
「赤ちゃんが泣けば近所の人が手を貸す関係が、今は薄れています。その役割を、それぞれの得意分野を生かして担う時代です。修了後も学びを続けながら、地域に安心できる居場所を増やしてほしいと思っています」
#chapter3
眠れない夜が続く母親の隣で、何をすればよいのか分からず戸惑う父親。育児休業を取得しても、自分の役割を思い描けないままでは、支えようとする気持ちがすれ違うことがあります。豊田さんは、父親が出産後の生活を事前に知ることが欠かせないと考え、「育児休暇前のパパ向け準備講座」を立ち上げました。
「お母さんが、自分だけが頑張っていると感じてしまうと、育児を楽しむ余裕は生まれません。男性には、女性の体に何が起こるのか、赤ちゃんとの暮らしがどう始まるのかを、育休前に知ってほしいんです」
講座では、産後の母体や赤ちゃんの知識、パートナーとの対話、父親の心構えを伝えます。夫婦で育児を担う意味や、相手の変化まで学べる場はまだ十分ではないと感じています。
「育児に関わっていなければ、子どもが思春期になったとき、何を話せばいいか分からなくなることもあります。今の関わりは、将来の親子関係にもつながります。先が見えれば、目の前の大変さの受け止め方も変わるはずです」
豊田さんが思い描くのは、企業が福利厚生の一環として、育休を控えた社員へEラーニング講座を提供する仕組みです。個人任せにせず、職場も家族のスタートを後押しする文化を広げたいと語ります。
行政の産後ケアには、利用回数や対象月齢、自己負担などの壁もあります。必要な家庭が就学前まで継続して利用できる仕組みを目指し、資金づくりにも取り組んでいます。
「自分一人で奔走しても、仕組みは根づきません。多くの人の知恵と力が循環する形をつくりたいです。産後ケアは当たり前という文化を育て、孤独な育児をなくしていきたいですね」
(取材年月:2026年7月)
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Profile
地域で産前産後を支える人材を育成するプロ
豊田晴子プロ
助産師
一般社団法人産前産後サポーター協会
助産師として40年以上、母子と家族の相談や支援に携わり、現在は自治体と連携した産後ケアを実践。認定講座や父親向け講座を通じて、地域で産前産後を支える人材の育成に取り組んでいます。
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