山に行くと、家づくりのヒントが見えてくる

養老孟司さんは、
「人間は自然と触れ合わなければならない」と語っています。
それは精神論ではなく、
人間の身体そのものが、もともと自然の中で生きる前提で
つくられているからだそうです。
光や風、温度の変化、音の遠さや近さ。
自然の中には、同じ状態が続くことはほとんどありません。
揺らぎや不均一さの中で、
人の身体や感覚は本来の働きを取り戻していく。
山を歩き、川に立ち、海に入る。
京都では庭に腰を下ろして、ただ眺める。
そうした時間を過ごしていると、
考えすぎていたことが、すっと静まっていくのを感じます。
自然は何かを教えてくれるわけではありません。
正解も、答えも示してくれない。
ただ、人を「受け入れる側」に戻してくれます。
思い通りにならない状況を前にして、
無理に動かそうとするのをやめる。
その瞬間に、身体や気持ちが整っていく。
建築の仕事でも、
この感覚はとても大切だと思っています。
すべてを管理し、整えすぎるのではなく、
その土地や環境の声に耳を傾けながら、
人が無理なく身を置ける場所を考える。
自然に触れる時間は、
建築のヒントを探すためというより、
自分自身の感覚を確かめる時間なのかもしれません。
年の終わりに、
そんなことをあらためて思い返していました。
今年を締めくくるコラム、最後まで読んでいただきありがとうございました。
みなさま、良いお年をお迎えください。



