青森と沖縄の海を知りつくし、釣りと食の楽しみを発信するプロ根元陽介

青森と沖縄の海を知りつくし、釣りと食の楽しみを発信するプロ

根元陽介

「青森と沖縄の架け橋に」海人（うみんちゅ）が北国で営む沖縄ダイニング

　全国有数の豪雪地帯として知られる青森市の中心部。青森県庁から歩いて10分ほどの場所に“小さな沖縄”があります。「海の隠れ家NI-NI（にーにー）」。新鮮な魚介類と沖縄料理、泡盛が人気のダイニングバーです。大きな水槽の中で揺れる沖縄特産の海藻・海ぶどうとブルーの間接照明が、南国の透き通る海を感じさせます。

　「青森と沖縄の架け橋として、それぞれの海と地域の魅力を伝えたい」と話すのは、オーナーの根元陽介さん。一級小型船舶操縦士免許を持つ海のスペシャリストです。青森で釣り好きの祖父のもと育った根元さんは、高校を出た後、広島県尾道市にある船員養成の専門学校へ。卒業後は20歳で沖縄県石垣市に移住し、約8年間、釣り船船長やダイビングインストラクターを務めました。

　「三方を海に囲まれた青森には、暖流が北上する日本海と寒流が南下する太平洋、それらが入り交じる津軽海峡があります。さらに、しけが少なく養殖にも適している陸奥湾もあります。春のサクラマスに始まり、タイ、ヒラメ、マグロなど、季節や場所によってさまざまな魚がとれる豊かな漁場です。一方、沖縄の海はエメラルドグリーンに輝き、開放感があります。気候が温暖でほぼ通年でアクティビティが体験できますし、琉球王国時代の流れをくむなど食文化も独特です」

　根元さんが故郷で開いたこの店では、遠く離れた南の島の雰囲気を満喫できるのが大きな特徴。現地にも足を運んでほしいと沖縄旅行を企画し、添乗員兼アドバイザーとして同行もしています。

“緑のキャビア”プチプチ触感の海ぶどうに、美ら海が育む熟成古酒。沖縄の海の恵みを味わって

　沖縄の味を知ってもらうために力を入れているのが、特産品の販売。沖縄に住んでいた時、海ぶどうの養殖業にも携わっていた根元さんは、かつての同僚が営む養殖場と提携し、海ぶどう、もずく、島らっきょうなどを取り扱っています。卸売りと小売りに対応し、仕入れを希望する企業の相談にも応じます。

　「海ぶどうの特長であるプチプチとした食感を保つためには、鮮度が命です。養殖場では天然の海水を使い、水温、水質、水中酸素濃度や光合成のための光量などを徹底して管理しています」。発送翌日には海ぶどうが届き、店内の海洋深層水を張った大水槽で保管。現地環境の再現に努め、空輸の際に容器にまぎれこんだ小エビやカニが生息できるほどの精度だと言います。

　またダイバーでもある根元さんは、15年以上にわたり泡盛の海底熟成に取り組んでいます。「沖縄では3年以上寝かせた泡盛を『古酒』と呼び、新酒にはない深い味わいが愛されています。当方では、この古酒を酒蔵ではなく海の底で貯蔵します。酒造所で作ってもらったオリジナル銘柄を水深30mほどの場所に置き、1年以上たってから引き上げます。『海の1年は陸の10年』とも言われ、芳醇でまろやかな口あたりになります」

　あわせて酒造所に眠る古酒の発掘も進めており、店内には40年以上も前の希少な古酒も並びます。「沖縄特産のシークワーサーを絞ったり、カクテルにしたり。強いお酒に慣れていない方にも親しんでいただけるよう、いろんな飲み方を用意しています」

津軽海峡でも古酒の熟成をスタート。夢は青森と沖縄で釣りツアー

　「店でお出ししている青森の海の幸は、ほぼ全て自身でとったもの」と語る根元さんは、釣りの腕を生かしフィッシングガイドも担います。

　県内外から訪れる釣り客のアテンドで海に出ることも多く、1年で通算2カ月ほどを船の上で過ごします。「初心者の道具選びから上級者向けのディープなスポット紹介まで、お客さまのご要望にお応えしています。その日の釣果を私の店で料理し、食事をしていただくこともできます」

　中でもおすすめは熟成魚の刺し身だとか。「釣り上げた直後に、血抜き、神経締めなどの下処理をしっかり行い、真空状態にして低温で1～2週間寝かせると身が柔らかくなりますし、うま味みが増します。可能なら何日かかけて召し上がると、味の変化が楽しめますよ」
　根元さんは衛星放送の専門チャンネルにも出演。釣りのテクニックからおいしくいただく調理の手順まで、愛好家に向けて情報発信をしています。

　「数年前から、津軽海峡でも泡盛の海底熟成を始めました。2024年頃から店に登場する予定です。今後は地酒も海でじっくりと育て、青森近海の魚介とセットで提供していきたいですね」。他にも、青森と沖縄を巡る釣りツアーも考えているそうです。

　「沖縄で学んだのは、人生は一度きりだから楽しまなきゃ！というポジティブシンキング。青森も沖縄も大好きなので、私なりのやり方で活性化したい。食を入り口にして、お客さまが人生を楽しむための案内役、サポート役になれたらうれしいですね」

（取材年月：2022年3月）

釣って料理して食べて飲む！海のスペシャリストが人生の楽しみ方を提案

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