止まらない口の動きに気づいたら―オーラルディスキネジアって知っていますか?
こんにちわ。名古屋市港区のオリーブ歯科こども歯科クリニックです。
私たちは日々、患者さんのお口の中を診ながら、「清潔にしているつもりなのに、なぜ問題が起きているのか」という違和感に何度も向き合ってきました。
今回のテーマは、少し刺激的ですが、多くの日本人が無意識に避けてきた現実を正面から扱います。
「日本人は清潔好き」という評価は、世界的にも定着しています。
毎日お風呂に入り、身なりに気を配り、公共の場をきれいに使う。
その一方で、「日本人の口臭が気になる」と感じた外国人が多いという調査結果が存在するのも事実です。
なぜ、このようなギャップが生まれるのでしょうか。
まず押さえておくべきなのは、日本人は歯を磨いていないわけではない、という点です。
実際、日本では毎日2回以上歯磨きをする人が多数派です。
しかし問題は、「歯磨きをしている=口の中がきれい」という誤解にあります。
歯ブラシだけで落とせる汚れには限界があり、歯と歯の間、被せ物の縁、歯ぐきの境目、そして舌の表面には、磨き残しが確実に残ります。
これらの場所に停滞した汚れが分解されることで、口臭の原因となるガスが発生します。
予防歯科が進んでいる国では、フロスや歯間ブラシを使うこと、定期的に歯科医院でメンテナンスを受けることが生活習慣として定着しています。
対して日本では、「痛くなったら歯医者に行く」「歯磨きをしていれば大丈夫」という意識が今も根強く残っています。
この意識の差が、口臭や歯周病の発見の遅れにつながっています。
もう一つ、避けて通れないのが日本の歯科保険制度の構造です。
日本の保険診療は、誰でも一定水準の治療を受けられるという点で、非常に優れた制度です。
しかし同時に、「最低限の機能回復」を目的とした制度でもあります。
時間、材料、工程には明確な制約があり、精度を極限まで追求する設計にはなっていません。
保険診療で一般的に使われる詰め物や被せ物は、経年劣化や変形が起こりやすく、歯との境目にわずかな段差や隙間が生じやすいという特性があります。
このミクロな隙間に細菌が入り込み、内部で再び虫歯や炎症が進行します。
外からは見えず、痛みも出にくいまま、内部では腐敗が進み、強い臭いを発生させる。
この構造が、いわゆる「原因不明の口臭」を生み出します。
さらに、日本では同じ歯を何度も治療し直すケースが少なくありません。
削って詰めて、また外して削って詰める。この繰り返しは歯の寿命を確実に縮め、歯周病を悪化させ、口臭のリスクを積み重ねていきます。
世界的な視点で見ると、この「再治療前提のサイクル」は、決して先進国の歯科治療とは言えません。
そこに重なるのが、日本人に非常に多い歯周病です。
成人の多くが、軽度を含めると歯周病の状態にあるとされています。
歯周病菌が産生するガスは、強い腐敗臭を伴い、本人が気づきにくいのが特徴です。
古い被せ物の隙間、歯周ポケット、舌苔。これらが重なったとき、口臭は単一ではなく、層状に強くなっていきます。
では、どうすればこの問題から抜け出せるのでしょうか。
答えは単純ですが、実行する人は多くありません。
まず、自分の口の中の現実を正しく知ること。
そのために定期検診があります。痛みがなくても、数か月に一度プロの目で確認し、歯石やプラークを除去する。これは保険診療の範囲でも十分に価値があります。
その上で、もし再治療が必要な歯が見つかった場合、「もう繰り返さない治療」を選ぶという判断が重要になります。
精度の高い被せ物や詰め物は、汚れが付着しにくく、細菌が入り込む隙間を最小限に抑えます。
治療に時間と手間をかけることで、結果として再発リスクを下げ、清掃しやすい環境を長期的に維持できます。
私たちは、歯科医療を「歯を削って詰める作業」だとは考えていません。
本来、歯科医療は、食べる、話す、笑う、眠るという人生の根幹を支えるための手段であるべきだと考えています。口臭は単なるマナーの問題ではなく、健康状態のサインです。
日本人が本当に「清潔」と胸を張るためには、見える部分だけでなく、見えないお口の中にも目を向ける必要があります。
保険診療のメリットと限界を理解した上で、自分の将来にどんな選択をするのか。
それが10年後、20年後の自分の人生の質を左右します。
すべては、患者さんのよりよい人生のために。
私たちは選択肢を正しく示し、納得と信頼をもって治療に臨んでいただくことを大切にしています。
世界一清潔な日本人であるために、まずはお口の中から見直してみませんか。



