歯科医から見たBLW(赤ちゃん主導の離乳)への考え方
こんにちわ。名古屋市港区のオリーブ歯科こども歯科クリニックです。
生命を維持するために必要なものは何か。
それは呼吸、食事、睡眠です。
そして、この三つはすべて「口」を通して行われています。
呼吸は鼻と口から始まり、食事は口から取り込み、睡眠中も口腔と気道の状態が生命維持に大きく関わっています。口は単なる器官ではなく、生命活動の入り口です。
では、その入口が正しく育たなかった場合、何が起こるのでしょうか。
【脳は頭蓋骨という「容れ物」に守られている】
脳は頭蓋骨の中に収まる臓器です。
これは解剖学的な事実であり、脳の発育と頭蓋骨の成長は密接に関係しています。
小児期には、脳の成長が頭蓋骨の成長を牽引し、同時に頭蓋骨の形態が脳の配置や空間構造に影響を与えることが知られています。
実際に、頭蓋縫合が早期に癒合する頭蓋縫合早期癒合症では、脳の発育や認知機能に影響が出ることがあり、頭蓋の形態が脳に影響を及ぼすことは医学的に確立された事実です。
【頭蓋骨の発育と口腔の関係】
頭蓋骨は一つの塊ではなく、顔面骨と脳頭蓋に分かれます。上顎骨、下顎骨、口蓋骨といった顔面骨は、咀嚼、嚥下、発音、呼吸といった「機能的刺激」によって成長が促されます。
動物実験および人の発育研究では、咀嚼刺激が顎顔面の骨成長に影響を与えることが示されています。柔らかい食事中心の環境では、上顎の幅が狭くなりやすく、口腔容積が小さくなる傾向が報告されています。これは咀嚼負荷と骨成長の関連を示す比較的エビデンスの強い領域です。
上顎の発育は、鼻腔や副鼻腔の容積にも影響します。上顎が十分に発育しない場合、鼻腔が狭くなり、結果として口呼吸が助長されることがあります。
【呼吸様式と脳発達の関係】
慢性的な口呼吸や睡眠時の呼吸障害が、子どもの注意力、学習能力、行動特性に影響を与える可能性があることは、多数の臨床研究で報告されています。小児の睡眠時無呼吸症候群では、記憶力や実行機能の低下、情緒面への影響が指摘されています。
これは「口の形が直接脳を歪める」という単純な因果関係ではありません。しかし、口腔形態の未発達が気道の狭窄を引き起こし、睡眠の質を低下させ、その結果として脳機能の発達に悪影響を及ぼす、という連鎖は医学的に十分に説明可能です。
【食べる・噛むことと脳刺激】
咀嚼は、単なる栄養摂取行動ではありません。噛むという行為は、三叉神経を介して脳幹や大脳皮質を刺激し、脳血流を増加させることが知られています。高齢者では、咀嚼能力の低下と認知機能低下の関連が多く報告されていますが、発育期においても「噛む刺激」が神経発達に重要であるという考え方は、神経科学的にも妥当です。
ただし、幼少期の咀嚼不足が直接的に脳の形態異常を引き起こすという強いエビデンスは存在していません。ここで重要なのは、「機能刺激が不足した環境が、発育の選択肢を狭める可能性がある」という点です。
【口は生命の入口である】
口は、呼吸、摂食、発音、表情、そして睡眠に関わる器官です。これらはすべて、生命維持と社会性、学習能力の基盤となる機能です。
入口が狭く、歪み、正しく使われなければ、その先にある構造や機能が最適化されない可能性がある。これは構造工学的にも、生物学的にも自然な考え方です。
「口が歪めば、すべてが歪む。脳までも。」
この表現は比喩ではありますが、呼吸・睡眠・咀嚼という生命活動を介して脳機能に影響が及ぶという点において、完全に的外れな主張ではありません。
【当院が口腔機能発達を重視する理由】
私たちは、口腔機能発達不全を「歯並びの問題」や「癖の問題」としてだけ捉えていません。口は生命活動の入り口であり、その発育は全身、ひいては人生の質に関わる重要な要素です。
歯科医療は、歯を削ることでも、並べることでも終わりません。正しい発育の選択肢を示し、将来の可能性を広げることこそが、私たちの役割だと考えています。
すべては、患者さまのよりよい人生のために。
私たちは、口から生命全体を診る歯科医療を実践していきます。



