幼児期の靴選びが未来の姿勢を決める

荒川大輔

荒川大輔

テーマ:小児歯科・お子さんの健康全般について

こんにちわ。
名古屋市港区にあります、オリーブ歯科こども歯科クリニックです。

子どもの成長において「足」が果たす役割は、想像以上に大きなものです。
歩行が始まる1歳前後の幼児期は、骨格・筋肉・感覚統合といった発達が著しく進む時期であり、
身体の土台である足の機能とその支持環境としての「靴」が、全身の姿勢形成と運動発達に与える影響は極めて深いと考えられています。

医療現場においても、外反扁平足や内反足、つま先立ち歩行、過度なX脚傾向など、歩行の異常を呈する小児が増えており、その背景には合わない靴や不適切な履物の使用が一因として関与しているケースが散見されます。
今回は、小児の足の成長と靴の選び方の重要性、そして近年多く見かける「クロックスタイプのサンダル」が引き起こすリスクについて、医学的観点から整理してみたいと思います。

【足は「感覚器官」である】
足は単に身体を支えるだけではなく、「第2の脳」とも呼ばれるほど高度な感覚機能を備えています。
足底には豊富な感覚受容器が分布しており、地面との接触を通じて得られる情報は、バランスの維持、姿勢制御、空間認識、さらには自律神経系の安定にも寄与します。

また、歩行時には足部からのフィードバックが脳の運動野や小脳に送られ、全身の運動パターンに影響を及ぼします。
これは乳幼児の発達において特に重要で、足部の不安定性が前庭系・固有感覚系・視覚系の連携不良を引き起こし、姿勢不良や集中力の低下、さらには落ち着きのなさや学習困難の原因ともなりうるのです。

【成長過程における「正しい靴」とは】
では、幼児期においてどのような靴が望ましいのでしょうか。
理学療法や小児整形の見地からは、以下のような条件が推奨されています。

・かかとがしっかりとホールドされている(ヒールカウンターが硬め)
・つま先部分は適度な広さと高さがあり、足指の動きが制限されない
・靴底は柔らかすぎず、適度な屈曲性がある(特に母趾の付け根で曲がる)
・面ファスナーなどで足にしっかり固定でき、脱げにくい

こうした靴は、足部の骨格形成やアーチの発達を支え、外反扁平足や開張足などの予防にも寄与します。
反対に、サイズが大きすぎる、柔らかすぎる、固定力が弱い靴は、筋肉の発達を妨げ、歩容の異常を引き起こすリスクがあります。

【クロックスタイプのサンダルの危険性】
近年、外来でも保護者の方から「履きやすくて便利なのでクロックスタイプのサンダルを子どもに使わせている」という声を頻繁に耳にします。
確かに軽量で水洗いもしやすく、見た目にも可愛らしいデザインが多いため、日常使いには便利な面があります。
しかし、医療者の立場からは、特に成長途上の子どもにこれを「日常的に履かせる」ことには強く警鐘を鳴らさざるを得ません。

クロックスタイプのサンダルは、一般に以下の点で問題があります。

・かかとが固定されず、足部が靴の中で前後に動いてしまう
・底が柔らかく、足底筋群への負荷がかかりづらい
・左右の動きに対する支持性が弱く、足関節の捻挫リスクが高まる
・足指で地面をしっかり掴む感覚が養われず、浮き指や歩行時の蹴り出しの弱さに繋がる

特に、こうした靴を履いた状態で長時間歩いたり、公園などで走ったりすることは、骨格の形成に悪影響を及ぼすばかりか、転倒や関節トラブルの要因にもなりえます。

【靴は「治療器具」の一種である】
歯科医療の立場からも、姿勢と噛み合わせ、呼吸機能、顎顔面の成長とは密接な相関関係があります。
当院では、足・骨盤・背骨・頸椎のアライメント(配列)が崩れることで、舌位の低下、口呼吸、顎の発育不全、さらには歯列不正へと波及するケースを多数経験しています。
つまり、足元の不安定さがそのまま口腔機能の発達不全にまでつながるということです。

靴は単なるファッションアイテムではなく、成長期の子どもにとっては「医療的介入」の一部でもあるのです。
日々の靴選びや履き方ひとつが、将来の身体能力や学習効率、全身の健康にまで影響を及ぼすという事実を、ぜひ多くの保護者の方に知っていただきたいと願っています。

子どもの足元から、未来の姿勢と健康を支える――。その第一歩は、今日の靴選びから始まります。

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荒川大輔
専門家

荒川大輔(歯科医師)

オリーブ歯科こども歯科クリニック

保険診療から先進的な自由診療まで幅広く対応、家族全員で通える地域のかかりつけ歯科医院です。全身の健康に悪影響を及ぼすお子さんの口腔機能発達不全症の治療に県内外から多くの患者様が通院しております。

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