健診も制度も整っているのに、なぜ現場では不調が続くのか
健康経営に取り組む企業は、この数年で着実に増えています。健診を実施し、相談窓口や休暇制度を整え、社内の体制づくりに力を入れている会社も珍しくありません。
それでも現場では、体調不良や休職、パフォーマンスの低下などに悩むケースがあります。制度を整えていても、なぜこうした課題が起こるのでしょうか。
*健診で確認できるのは「ある時点」の状態
健診は、体の状態を数値として確認できる、健康管理における大切な仕組みです。一方で、健診で確認できるのは、あくまでその時点での状態です。
前回の健診から今回の健診までに、仕事や生活の状況がどのように変化してきたのかなど、日々の様子まですべてを数値から把握できるわけではありません。そのため、健診による確認に加えて、日頃から自身の体調や生活を振り返る機会を持つことも大切です。
*日常の中にある3つの負荷
働く人が抱える負荷を考える際には、例えば次のような視点があります。
- ワークバランス:仕事量・緊張・休息のバランス
- 役割や期待:責務の重なりや、求められる役割の変化
- 生活リズムや基盤:睡眠や食事など、日常生活の土台
それぞれは大きな問題に見えなくても、複数の要因が重なることで負担が大きくなる場合があります。だからこそ、一人ひとりの状況を見ながら、日常の中でどのような負担を感じているのかを整理していくことが大切です。
*制度だけでなく、日常にも目を向ける
健康経営を考えるうえでは、健診や制度を整えることに加えて、従業員が日頃の体調や生活習慣について振り返る機会をつくることも一つの方法です。
健診によって確認する「点」
の情報と、日々の生活や仕事という「線」
の情報。その両方に目を向けることで、より継続的な健康支援につなげていくことができます。
健診は「点」、日々の変化は「線」――健康管理をどう補い合うか
*「点」で捉えられるもの
健診やストレスチェックは、ある時点での健康状態を確認するための大切な仕組みです。
年に1回、あるいは決められたタイミングで自身の状態を確認することで、健康について考える機会にもなります。
一方で、その間にどのような生活を送り、仕事や体調にどのような変化があったのかについては、数値だけでは把握しにくい部分もあります。
*「線」で捉えるもの
睡眠時間が短くなった、食生活が乱れている、仕事の負担を感じるようになったなど、日々の生活の中ではさまざまな変化があります。
こうした日常の状況について、定期的な面談などを通じて振り返り、生活や仕事の状況とあわせて整理していくことも、健康管理の一つの方法です。健診がある時点の状態を確認する「点」だとすれば、日常について継続的に振り返ることは、その点と点をつなぐ「線」のような役割といえるかもしれません。
*「点」と「線」を組み合わせる
健診などによる定期的な確認と、日々の生活について振り返る機会は、どちらか一方だけで完結するものではありません。
それぞれの役割を生かしながら組み合わせることで、従業員が自身の健康について継続的に考える環境づくりにつながります。
健康経営で大切にしたい、不調が表面化する前の日常への関わり
*日常の小さな変化にも目を向ける
働いている中で、
「以前より疲れを感じるようになった」
「睡眠時間が短くなっている」
「食事の時間が不規則になっている」
「仕事の負担を感じることが増えた」
といった変化を感じることがあります。
こうした変化が必ずしも病気や不調につながるわけではありませんが、日頃から自身の状態について振り返ることは、健康を維持していくうえで大切です。
健診などによる定期的な健康状態の確認に加えて、生活リズムや仕事の状況について定期的に話す機会を設けることで、従業員自身が健康について考えるきっかけにもなります。
*対象を分けるのではなく、状況に応じた関わりを
健康状態や生活状況は、一人ひとり異なります。そのため、「健康な人」「不調を抱えている人」と単純に分けるのではなく、それぞれの状況に応じてどのような支援が必要なのかを考えることが重要です。
例えば、
・全従業員を対象とした健康に関する情報提供
・日常の体調や生活について振り返る機会
・状況に応じた個別のサポート
・必要に応じて医療機関等への相談を促す
など、段階に応じた関わり方が考えられます。
*診断や数値改善だけを目的にしない
私が企業の健康支援で大切にしているのは、診断を行うことや、短期間で健診数値を変えることを目的とするのではなく、一人ひとりが自身の健康について考える機会をつくることです。
無理に生活を変えてもらうのではなく、本人が自身の状況を整理し、できることから取り組めるよう支援していく。こうした継続的な関わりも、健康経営を進めていくうえで大切ではないかと考えています。
継続3年目、従業員40名の企業で見えてきたこと
健康経営は、制度を導入することだけでなく、それを無理なく継続していくことも重要です。
ここでは、私が3年間にわたり健康経営のサポートに関わっている、従業員約40名の企業
での取り組みをご紹介します。
*月1回、従業員との個別面談を実施
ある企業では、月1回の訪問を基本として、毎月5名程度の従業員と個別に面談しています。面談では、健診結果も参考にしながら、生活リズムや仕事の状況、日頃感じている体調の変化などについて一緒に振り返ります。
そこで把握した内容については、必要な範囲で衛生管理者と共有し、企業側が今後の健康管理を考える際の参考情報として活用いただいています。
また、腸に関するアンケートや栄養面のチェックなども継続的に行い、単発のイベントではなく、日常的に健康について考える機会をつくることを意識しています。
*3年間継続していること自体も一つの成果
こうした取り組みを3年間続ける中で、経営者自身も健康管理に継続的に取り組み、全従業員を対象とした健康支援を続けています。ここで重要なのは、「この取り組みによって病気が減った」「数値が改善した」といった因果関係を示すことではありません。月1回という無理のない頻度で、従業員が自身の健康について考える機会を継続してきたことに、一つの意味があると考えています。
*続けられる仕組みにする
健康経営では、新しい制度や施策を取り入れても、現場の負担が大きければ継続が難しくなることがあります。こちらの企業では、月1回・数名との面談という規模で取り組むことで、3年間継続することができています。
人材不足やコスト増に悩む中小企業でも、無理なく続けられる方法を考えること。それも健康経営を定着させていくうえで、制度設計以上に大切な視点ではないでしょうか



