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古さを“味わい”に変え、趣ある築五十余年のビルをひととまちを紡ぐ場所へと活用

古さを味わいに変え、レトロビルを拠点に町を盛り上げるプロ

西島美幸

西島美幸 にしじまみゆき
西島美幸 にしじまみゆき

#chapter1

1970年に建設された西繊ビルでレンタルスペースを提供し、イベントも開催

 江戸時代に加賀藩前田家の城下町として栄えた富山県高岡市。重厚な土蔵造りの家々が軒を連ね、文化庁により重要伝統的建造物群保存地区に選定された歴史ある町の一角で、新たな人の流れを生み出すのは1970年に建設された西繊ビルです。この町づくりの仕掛け人であり、ビルを管理するのが、問屋町で不動産業を営む西島美幸さんです。

 「以前は保有する物件の管理・運営をメインに行っていましたが、町内の主要産業であった繊維業が落ち込み、一時は町そのものに活気がなくなってしまったんです。とにかく人を呼び、市外の方にも高岡の魅力を知ってもらわなくてはと思い、ビルを地域のために活用することにしました」

 2017年にリノベーションし、1階と3階をレンタルスペースとして提供。地元アーティストによる展示やワークショップ、セミナー会場として使用することで、再び人が集う場所となりました。

 「地域行事に合わせてキッチンカーや着物店、クラフト作家などを招き、定期的にイベントを実施しています。数人の同志と始めたささやかな活動が、今は大きな渦となり、近隣住民のみならず外国人観光客まで来てくれるようになりました」
 
 また「Nissen Marche(ニッセンマルシェ)」も主催。落ち着きと懐かしさをまとった“昭和レトロ”なたたずまいに触れる機会として人気を博しています。

 「地域に根付くものづくりの精神を重んじ、布製品やリメイク小物を中心としたマーケットです。町の活性化とともに、作品を披露する場を求めるアーティストの一助になればと願っています」

#chapter2

1階にはカフェ&ギャラリーもオープンし、町のシンボルとして再生

 「土蔵造りのある山町筋まちづくり協議会」の会長を務め、県内外から1万人以上が足を運ぶ「高岡クラフト市場街」にも参加するなど、地域活性化に奔走する西島さん。ビジネスシーンでも行動力を発揮してきました。

 「当社の前身である西島商店は、県内の学生服などの縫製を担う繊維問屋でした。私も自然と洋裁の道へ進み、東京の文化服装学院に進学。卒業後は繊維会社に入社し、営業として代理店を駆け回る日々を過ごしていました」

 家業を継ぐために高岡市へ戻るも、ファストファッションの台頭で繊維業や問屋業は厳しい状況に。悩んだ末に事業の整理を決意し、一部門であった不動産管理業を主業務に転換します。事務所や工場として使っていた物件を賃貸として運用しますが、テナントが埋まらず解体を検討する先代に「待った」をかけます。

 「まだ使えるものを『古いから』というだけで壊してしまうのは、趣ある町そのものを否定しているような気がして。古さに宿る“味わい”はそのままに、町のシンボルにできないかと考えました」

 西島さんは得意の洋裁やビーズの教室を立ち上げ、並行して九州・京都・長野など古い建物を生かした先進事例を視察し、ビルの活用方法を学びます。自治体が開催するリノベーションスクールにも通い、3年かけてノウハウを吸収。五十余年の時を刻む西繊ビルを再生して息吹を吹き込み、2023年には1階にカフェ&ギャラリーも開店。“管理人兼オーナー”として行き交う人々の笑顔を見守っています。

#chapter3

ヒト、モノ、コトをつなぎ、みんなで豊かに、幸せになれる町づくりへ

 地域社会を豊かに、幸せにする“拠点づくり”は西島さんのライフワークに。その楽しさについて次のように語ります。

 「数々の催しと共に成長していく出店者を見るのが最大の喜びです。マルシェを通じてファンが増え、今では百貨店で販売会を開く方もいます。ファンが増えて来場者が増えれば、さらなる飛躍につながる。笑顔は足し算でなくかけ算で増えています」

 参加者の輪は住民にも広がっています。ひな祭りイベントでは住民の協力を得て、各家に眠る年代物のひな人形を軒先で展示。町を巻き込んで企画を展開する様子は注目を集め、他県から視察が来るまでになりました。

 「訪れた方に『こんなにすてきな町だなんて知らなかった』と言っていただけることが、何よりの励みです。写真に映えるレトロな街並みも話題を呼び、県外からも出店希望者が来るまでになりました。今後の目標はWEBやSNSで発信力を強化すること。動画や写真のスキルがある方に力を貸していただけたらうれしいですね」

 かつては町の女性たちが学生服を縫い上げていたビルが、多様な人が出会い、語らい、価値を生み出す場所へ。柔軟な感性でヒト、モノ、コトをつないでいます。

 「西繊ビルのこれからは、関わってくれる人たちの思いで作られていきます。とはいえ、町の在り方を変えずに伝統を重んじたい方、未来を見据えて変わるべきだと考える方、さまざまな意見があります。どちらの声も尊重しながら、次の50年に向けてしなやかに発展していきたいですね」

(取材年月:2025年9月)

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西島美幸

古さを味わいに変え、レトロビルを拠点に町を盛り上げるプロ

西島美幸プロ

不動産管理・施設運営

築50年以上のビルを町の交流拠点へと再生させた「1970西繊ビルプロジェクト」の発案者。展示会やマルシェなど、趣のあるビルの雰囲気を生かしたイベントが話題を呼び、地域を巻き込んだ町づくりを推進している

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