介護離職を防ぐ、仕事と介護の両立支援コンサルタント
和氣美枝
Mybestpro Interview
介護離職を防ぐ、仕事と介護の両立支援コンサルタント
和氣美枝
#chapter1
家族の介護を理由に、今まで勤めていた会社を辞める─「介護離職」は重要な経営課題ですが、「取り組みが形骸化している」と悩んでいる人事担当者は少なくありません。
「企業が支援できるのは、介護そのものではなく、従業員のキャリアです。取り組むべきは、介護をしながら働き続けられる組織づくり。『介護があっても辞めないでほしい』というメッセージを、従業員に正しく届けるお手伝いをします」
そう語るのは、「ワーク&ケアバランス研究所」代表取締役の和氣美枝さん。介護離職防止対策や、仕事と介護の両立支援のコンサルティングを手掛け、自身も働きながら母の介護に関わる現役介護者です。これまで10年にわたり、大手から中小企業まで幅広い業種を支援。社員研修や個別相談、ハンドブック作成など、さまざまな施策を手掛け、企業規模や業種・業態、組織体制に応じて内容をカスタマイズしています。
「例えば、IT業と製造業、24時間シフト制と定時勤務の職場では、必要な支援策が異なります。また拠点が多い場合は管理職研修から始める方が効果的です。実績を基に、費用対効果の高い方法を提案します」
最近は、高齢の親だけでなく、配偶者や子どもの療育など、ケアの形も多様化しており、「介護離職ゼロ」を目指すだけでは十分ではないといいます。
「2035年には、働く人の約6人に1人が育児や介護などのケアに関わると推計されています(※)。離職防止にとどまらず、ケアと両立しながら成果を上げられる仕組みづくりが必要です」※パーソル総合研究所「ケア就業者に関する研究」(2025年7月)。
#chapter2
和氣さんのもとには、介護支援策のセカンドオピニオン的な相談も多く寄せられます。ある企業では、手厚い介護休業制度にもかかわらず、利用した社員がそのまま離職してしまうケースがあり、課題を感じていました。
「国の基準より長い1年の休業を認めているものの、当初は利用が少なく、運用ルールが整備されていませんでした。連続して1年休むと、仕事へのモチベーションを戻すことが困難になります。そこで、休業前の面談や連続休業日数の上限設定など、新たなルールを導入しました」
また、社員向けに介護費用などの情報提供の機会を設けたものの、「かえって不安になった」という声が寄せられたケースもありました。
「介護の情報は多岐にわたり、“わからないことがわからない”のが当たり前です。会社として何をどのように伝えるべきか判断が難しい部分もあります。私自身が仕事と介護を両立してきた経験者だからこそ、『仕事を続けるために支援する』という軸がぶれることはありません」
将来の介護に備える研修では、最初の相談先として「地域包括支援センター」の名称を覚えてもらうことを大切にしているという和氣さん。「介護は大変そう」という不安は、知識がないことから生まれるものです。そのため、「地域包括支援センター」と声に出して覚えてもらうなど、参加者の行動につながる工夫をしています。
「セミナー後には、『調べてみたら自宅の近くにあった』『親や上司に教えた』といった声が届くことも多いです。参加者が自ら行動し、その経験が身近な人へと広がっていくことが何よりうれしいですね」
#chapter3
和氣さんが母の介護に直面したのは、会社員として働いていた30代の頃。在宅介護をしながら転職や離職、再就職を繰り返した時期もありました。転機となったのは、家族の介護を無償で担う人の心身ストレス軽減や生活の質向上を目的とした「介護者支援」の存在を知ったことでした。
「ある介護者支援団体に出会い、人生を救われました。日本の介護制度は家族が介護に関わることを前提とした運用が多く、『家族がいるなら大丈夫』という暗黙の了解が根強く残っています。海外には、ケアラーの休息や就労の権利を法律で保障している国もあります。企業を通して働く個人に正しい情報を届けるため、仕事と介護の両立支援を事業として展開しました」
現在は企業向けに仕事と介護の両立支援を行う一方、個人向けにはケアラー支援としてオンライン会員システム「ケアラーズ・コンシェル」も運営しています。
「介護をする・しない。仕事を続ける・キャリアブレイクをとる。介護が始まっても、自分らしい人生の選択はできます。組織向けの両立支援と、個人向けの介護者支援の両方に関わる立場として、知見を生かしてお役に立てればと思っています」
その上で、企業に伝えたいメッセージがあります。
「従業員の介護は、リスクではありません。介護経験はその人の強みになり、仕事との両立を通じて、効率化や調整力といったスキルも磨かれます。多様な個の力を組織の成長に生かす方法はあります」。この視点こそが、真のダイバーシティ経営の実現につながります。
(取材年月:2026年3月)
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Profile
介護離職を防ぐ、仕事と介護の両立支援コンサルタント
和氣美枝プロ
介護離職防止対策アドバイザー
株式会社ワーク&ケアバランス研究所
企業の介護離職対策や仕事と介護の両立支援のコンサルティングを提供。現役介護者の経験に加え、制度や研究知見を踏まえた根拠ある実効性の高い提案を強みに、介護経験者が力を発揮できる組織づくりを支援します。
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