建物の耐震化で命と資産を守る一級建築士
杉本重実
Mybestpro Interview
建物の耐震化で命と資産を守る一級建築士
杉本重実
#chapter1
いつ起きてもおかしくないとも言われる首都直下型地震。万が一の事態に備えるためには、建物の耐震化は喫緊の課題となっています。
「自分が住んでいるマンションの耐震性能を知りたい」「親が住んでいる古い家が倒壊しないか心配」。「サンメイト一級建築士事務所」の杉本重実さんは、そういった声に応える、住宅の耐震化を進める耐震コーディネーター®です。
杉本さんは住宅メーカーの小会社で、人材や業務、経営などをマネジメントする管理建築士として勤務。1998年に独立し、住宅設計などを手掛ける事務所を開設しました。新規開拓のためにネットワークを広げたいと、東京都設計事務所協会に所属。これが、現在の活動のきっかけとなります。
会合に欠かさず出席していたところ、同協会の事業委員会委員長に推薦されます。そして、就任から間もない2005年に発覚したのが、いわゆる「耐震偽装問題」です。法が定めた耐震基準を満たしていないマンションなどが建設されていたことが分かり、社会的に大きな問題となりました。
「国土交通省から協会委員長の私に直接、偽装被害に遭ったマンションに対処するよう指示が来たのです。ほとんどのマンションは建て替えになったのですが、中には壊さずに残したいというところもありました。建築物の質の向上に寄与するのが建築士の責務ですから、手を挙げてくれた構造設計の先生と一緒に、耐震設計から施工まで2年間かけて行いました」と杉本さん。この経験が、耐震の道へ進む第一歩になったと言います。
#chapter2
杉本さんが次に携わったのは、沿道耐震®です。東日本大震災が発生したまさに当日、東京都議会で、「東京における緊急輸送道路沿道建築物の耐震化を推進する条例」が可決。震災時に近隣エリアから救援物資が滞りなく届くよう道路を指定し、沿道にある旧耐震基準下で建てられた建物の耐震化を推進するというものです。
その耐震診断業務を同協会で受託することとなり、 杉本さんは事業委員長として旗振り役を務めました。委員長の任期が終わった後も、旧耐震基準の建物の耐震化に尽力しています。
「マンションは住民の意見を合わせるのが大変で、設計事務所は及び腰になりがちです。ですが、誰かがやらないといけません。あるマンションでは、約10年かけてやっと耐震工事が始まりました。なぜ時間がかかったかというと、国の設計指針が変更されたのも一つですが、マンションの管理組合の役員は輪番制が多く、引き継ぎが難しいのです」
10年に及ぶ取り組みをもとに、杉本さんが発案したのが「耐震コーディネーター®」です。耐震工事への合意形成、構造設計者への指示、役所との交渉、工事の発注から竣工まで、トータルで対応します。
杉本さんの強みは、住宅設計の豊富な実績と耐震設計に関する深い知見です。力学的な面だけでなく、所有者の意向をくみとり、見た目も考慮した設計を重視しています。「マンションには資産という側面もあります。資産価値を維持しながら次世代に受け継ぐという点でも耐震化は大事なのです」
#chapter3
2021年8月、杉本さんは昭島市にアンテナショップを開きました。こちらで展開していきたいと考えているのが、CLT(直交集成板)という建材を活用した建築設計や耐震改修です。CLTとは、木の板の繊維方向が直角に交わるように貼り合わせ、何層にも重ねたものです。強度が高いのが特徴で、近年各国で広く浸透しています。
「このCLTを既存の建物の補強材に用いれば、木のぬくもりが感じられるデザインと耐震性アップを両立させることができます。また、耐火性もあることから、これまで木造の建物を建てられなかった市街地の防火地域でも、条件を満たせば建築できます。木材ですから、小規模の工務店でも容易に扱うことができます」
CLTの利点や可能性について言及する杉本さん。将来的には多摩エリアの木を使い、加工・販売、施工まで一連の工程を地元で行うことで、地域産業の活性化に貢献していくことも目指しています。
また、CLTの加工用機械をまちの製材工場に導入する準備を進めるとともに、CLTを使った建築例として、テレワーク用の部屋として使えるようなタイニーハウス(小さな家)の設計にも取り掛かっています。
次々と新たな構想をかたちにしていく杉本さん。「耐震化を施すことで従来の建物を再生したり、CLTの普及により自然や人にやさしい環境づくりにつなげたり。私がこれまで培った知識や技術を生かして、より良い暮らしを実現し、未来の子どもたちに継承していきたいですね」と語りました。
(取材年月:2021年11月)
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Profile
建物の耐震化で命と資産を守る一級建築士
杉本重実プロ
一級建築士
サンメイト一級建築士事務所
1981年以前の旧耐震基準で建てられた建築物の耐震化の設計から施工まで、一級建築士としての経験と知識をもとにワンストップで請け負います。マンションにおける住民の合意形成のノウハウも熟知しています。
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