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ヨーロッパで培った秘術で本場の音づくりに取り組む

本場の音作りで弦楽器を生み・蘇らせる弦楽器職人

茅根健

茅根健 ちのねけん
茅根健 ちのねけん

#chapter1

ヴァイオリンやヴィオラ、チェロといった弦楽器専門の職人として奏者の悩みに対応

 JR目黒駅から約徒歩2分という都心の一角にある老舗弦楽器専門店「シレーナ」。ヴァイオリンやヴィオラ、チェロに対する深い造詣と、初心者からプロまで応対する親しみやすさから全国から奏者が訪れ、中には3世代にわたり通う家族もいます。
 2021年から同店の代表を務めるのは弦楽器職人の茅根健さん。ストラディヴァリやグァルネリといったヴァイオリン製作家を輩出したイタリア、ベートーヴェンやバッハなど著名な作曲家を生んだドイツで14年にわたり研さんを重ねました。

 「今までみなさんが感じていなかったような音を作れるのが強みです。本場の音作りをするために、丁寧にコンディションを整えていきます」

 自然素材を使った楽器は湿度や温度の影響を受けやすい。しかし、日本では手入れが不十分な状態で演奏をしている人もいて、納得のいくパフォーマンスを発揮できていないのではないか。定期的に楽器に合ったケアを施すことで、本来の音がよみがえると提言します。

 「最近、愛用しているヴァイオリンの音に満足していないプロの方が北海道から来店されました。調整後、楽器を手に取り弦を弾いた瞬間に表情が変わり『鳥肌が立った』と言われ、うれしかったですね」。調整前との圧倒的な音の違いに驚く人がほとんどだとか。

 「楽器のポテンシャルを最大限に引き出すには、職人と演奏家の連携が欠かせません。目の前で演奏をしてもらい、何に悩んでいるのかをお伺いします。お互いに意見を出し合い、時間をかけてじっくりと理想に近づけていきましょう」

#chapter2

「誰よりも素晴らしい音を作りたい」。がむしゃらに取り組んだ14年間のヨーロッパ修行

 茅根さんとヴァイオリンとの出会いは、大学の入学式。学内オーケストラの演奏に感激したことがきっかけで入団し、そこで初めてヴァイオリンを手にしました。楽器を演奏するのは楽しかったものの、徐々に「なぜこの音が出るのか」と楽器の構造に興味を持つようになったそうです。

 「ヴァイオリン作りがしたくて、将来の進路として真剣に考えるようになりました。でも両親は、『実力重視の厳しい業界でやっていけるのか』と大反対で。私自身、不安はあったものの、名器について調べれば調べるほど『自分の手で素晴らしい音を作りたい。後世に残せるものを手掛けたい』といった情熱が芽生え、楽器職人になることを決意しました」

 大学卒業後に飛び込んだのは、右も左も分からない世界。職人は小さなことの積み重ねで、一から学ぶのは大変だったと振り返ります。「まずは刃物など道具の手入れの仕方から。いつでも作業ができるようにメンテナンスしておくんです。これは今でも大事にしていることです」

 当時の目標は、「世界中から一流の音楽家が集まるドイツで一人前として認められること」。茅根さんは「お金はいらないから」とヨーロッパ各地の工房に出向き、時には住み込みで働きました。イタリアで5年、ドイツで9年修行し、ドイツの主要オーケストラやソリストなどが訪れる工房を一任されるように。そして「ここを継いでくれないか」と言われ、ついに夢が実現する時が来ましたが、茅根さんは日本に舞い戻ります。

茅根健 ちのねけん

#chapter3

繊細でこだわりの強い日本の奏者の要望に応えるために帰国。技術を伝え、次世代へつなげたい

 茅根さんは、ヨーロッパで数多くのプロと接する中で「日本の演奏家はとても繊細で、こだわりも強いけれど、それを実現してくれる楽器の専門家がいない」との声を耳にするようになりました。かねてから目指していたドイツでの独立。貴重なチャンスを目の前にして迷いに迷いましたが、日本人奏者をサポートする道を選びました。

 「イタリアで勉強して、すぐ帰国の途につく人は結構多いのではないでしょうか。現地で仕事をしているさなかに帰って来る人は少ない印象でしたが、日本でみなさんの力になりたいと思いました。いい音を作りたい、この信念は全く変わっていません。私が身につけた知識や技術を生かして、高いレベルの要望にもこたえていきたいですね」

 茅根さんは、自身が培ったノウハウを次の世代にも伝えたいと言います。「若い職人があまりいないので、後身の育成にも取り組んでいくつもりです。現場での経験を積むことが重要なので、工房を私塾のような場所として活用していくことも視野に入れています」

 1970年に創業した老舗を託された茅根さん。今後の展望は未来につなげていくこと。「先代から半世紀にわたり愛されているお店です。日頃から心がけているお客さまに寄り添い、希望をかなえていく姿勢を大切に守りながら、さらに50年続く店にしたい。新生シレーナを構想中です」。これからも職人として腕を磨き、音の悩みにこたえていきたいと語る様子から、歴史を担う責任と誇りがかいま見えました。

(取材年月:2021年11月)

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専門家プロフィール

茅根健

本場の音作りで弦楽器を生み・蘇らせる弦楽器職人

茅根健プロ

弦楽器職人

シレーナ株式会社

世界中から一流の音楽家が集まるドイツをはじめヨーロッパで培った確かな音作りとメンテナンス技術。丁寧に奏者の悩みをヒアリングし、今まで感じたことがないような音を引き出し、高いレベルで要望にお答えします。

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