ホームレスも経験した異端児に聞く、建設業特化の再生型M&A支援が照らす建設業界の未来とは(後編)
「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。
今回は、建設業に特化したM&A支援サービスを展開している株式会社シードアドバイザリーの代表取締役・朝野一博氏にお話を伺いました。
子どもの頃から見てきた「建設業の世界」をもっと良くしたい
――朝野さんは、もともと建設業と関わりをお持ちだったのでしょうか?それとも、M&A業界から入っていったのでしょうか?
朝野一博氏(以下、朝野氏):札幌の実家が建設業を営んでおり、子どもの頃から建設の世界を見てきました。進路の選択肢もあまりなかったことと、すぐにお金がほしかったということもあり、自然と建設に世界に進んでいましたね。「自分はこれをやるしかない」と、スタートして5年くらい職人をしていました。
ただ、当時から「業況は良くない」「賃金は安い」「単価は下がる」という状況で元気がない業界でした。二次・三次の下請けで、元請けから仕事が来ないとかお金が支払われないということが3件続いたこともあります。元請けからの支払いがなければ、仕事をしてくれる職人たちに支払うお金がない苦しい状況に陥るわけですが、資金調達という概念もなければ、資金調達の方法も知らないわけです。「仕事をやってもやっても……」というバケツに穴状態が続きました。それでも建設は好きで、この世界にずっと関わっていたいとは思っていました。
しかし、札幌にいても情報が入って来ないし、このままでは腐る。なにか違うことに挑戦しないといけないと思い立ち、21歳で修行のつもりで上京してきました。ところが若いので勢いだけの無策で、ホームレス生活を経験したこともあります。
「経営に関することをしたい」と思っていたのですが、履歴書も書いたことがなかったですし、職人として仕事をしていましたから順応できない自分がいました。お金もない、働くところもないというナイナイ状態だったのですが、当時は人材紹介が盛んで。それで、日銭を稼ぐためにとにかくエントリーして、朝から朝までポスティングや現場作業、コールセンターなど、たくさんの仕事を経験しました。住むところがなくなってホームレスになりつつもいろいろな業種を7年ほど経験できたのですが、当時背負っていた借金を返すほどの余裕はなくて。ただ、「これで地元に帰ったら負け」と思っていたので、なんとか踏ん張りました。
その後、ご縁あって運送会社で法人営業をしないかと声をかけていただき、その会社で高い評価を得ることができました。営業成績で全国2位を取り、エリア責任者も経験させていただいて生活も安定してきたのですが、まや「チャレンジしたい」という思いが沸々と湧いてきまして。
その後、保険業界に入るのですが、「ただの保険売りは嫌」という考えを持っていて。そのときに、後に株式会社シードコンサルティングを立ち上げる岡田聡と知り合い、建設業に特化した法人保険コンサルティングを始めました。相続・事業承継・M&Aの案件にも当時から関わっており、シードコンサルティングが設立されたときからボードメンバーとしてM&A・事業承継を担当しています。M&A業界は有名企業出身の人が多いのですが、そういう意味では私は異端児かもしれませんね。
倒産する建設会社はなくならない
株式会社シードアドバイザリー 提供資料より
――「建設業」というのは、具体的にはどのような会社さんが多いのでしょうか? また、業界が抱える課題はどんなことですか?
朝野氏:土木工事業や大工業、メンテナンス業、リフォーム業、現場管理施工などです。建設業界の課題には、「経営に関する知識がない人が多いこと」や「他人の指示に従いたくない人が多い」「独立しやす過ぎて安易に起業できてしまうこと」などが挙げられます。
経営に関して学ぶ場がなく、無知なままに簡単に独立起業してしまうため、年商1億円以上になれないという会社が多くあります。もっと資本力を強化すべきなのですが、多くの会社さんはそれができません。休眠化も含めれば日本では年間数千社が実質倒産していると言われていますが、コロナ融資の元本返済なども始まったことで新型コロナの影響もより顕著になり、その数は過去最大になりつつあります。中でも、建設業の割合は高いです。
倒産する建設会社はなくならないですし、倒産する会社の社員や取引先もある意味では被害者であり、周りの人を不幸にしてしまいます。幼い頃から見てきた建設業界が弱っていく姿を見過ごすことはできません。M&A業界では、黒字企業の支援はお金になりやすいのですが、赤字企業の支援は売上になりにくく、プレイヤーが少ないと思います。弊社は、再生型のM&Aで収益化できるのが特徴です。
支援にはさまざまな方法がありますが、第二会社方式のような法的スキームを活用することもありますし、きちんと廃業するという選択肢を取っていただくこともあります。人生や事業の優先順位をしっかりと整理して考えていただき、再生支援をしています。ヒトモノカネという経営資源の中でも、建設業は人的資産の価値が高い業界だと思います。「ひこばえ」という言葉がありますが、既存の会社から重要な資産を見出して若い芽を移し、再生させていくイメージです。
感謝の言葉が最高の報酬
――たくさんの再生支援をされてきて、どんなことがやりがいになっていますか?
朝野氏:感謝の言葉をたくさんいただける仕事なので、それが最高の報酬です。本当に、涙なしでは語れない仕事がたくさんありました。「スポンサー企業がついて、これで再出発できる」と、疲れていた社長さんの目に情熱が戻る瞬間があります。そこに立ち合えることは、本当に嬉しいことです。
最短で、ご相談をいただいてから24時間でスポンサーを見つけて成立したことがあります。かなり切羽詰まった状況でご相談をいただいたのですが、徹夜で資料をつくりました。これまでの仕事ぶりを認めていただけたのか、同業他社からの案件や法律事務所からの案件もいただいています。ケースによっては非弁行為に該当してしまうため、弁護士の先生との連携はしっかりと行っています。ご相談いただいた時点で、スポンサー企業を思い浮かべながら面談をしていますので、面談が終わると即動けることが強みです。
(後編に続きます)