演劇で培った技術を基に物語の世界観を表現する朗読家
岩瀬ゆふ
Mybestpro Interview
演劇で培った技術を基に物語の世界観を表現する朗読家
岩瀬ゆふ
#chapter1
東京都町田市を拠点に朗読会を開くのは、「花いかだ」の岩瀬ゆふさん。演劇で培った表現力をもとに、聴衆をひきつけています。
今まで上演したのは、木下順二の戯曲「夕鶴」、太宰治の短編「走れメロス」、山本周五郎の時代小説「五辨の椿」、野坂昭如原作の「火垂るの墓」など。時代を超えて愛される名作の中から、8月は戦争を題材に選ぶなど、時節や客層も考慮してテーマを設定しています。
「上手に読もうと思ったことはありません。作者の魂が込められた、素晴らしい言葉の数々を丁寧に紡ぐ中で、受け取り手が何かを感じてくださればいいなと、それだけです。聞く方に『情景が浮かぶ』と言っていただけるのが、一番の喜びですね」と岩瀬さん。衣装などで視覚的にアプローチしていく朗読会もある中、あくまでも声と表情でストーリーを描くことにこだわり、背景や小道具といった演出はつけません。
「チームプレーである演劇は、演者に一つずつ役が割り当てられ、セリフをやり取りしながら一緒に作り上げていくものです。一方、朗読は1人で語り手のナレーションと登場人物全てを演じ分けなくてはならず、ある意味では孤独な作業です。1人で壮大な世界観を繰り広げるのは難しく、毎回試行錯誤ですが、それが醍醐味でもあります」
準備には3~4カ月の時間をかけ、その間は常に作品に親しんでいるとか。
「良い物語は毎日読んでも飽きず、むしろ読み込むうちに見えてくるものがあります。毎回発見があり、修正すべきところがあり、終わりがないんですよ」とほほ笑みます。
#chapter2
兵庫県神戸市出身の岩瀬さん。演劇との出会いは10歳のとき、小学校の部活動でした。
「教えを受けた恩師は県内でも有名な方で、子ども相手でも手を抜かず、真剣に向き合ってくださいました」
練習では先生が手のひらを丸め、「ここにりんごがあると想定して行動を起こしてみなさい」という課題が出されました。
「目に見えないものを『ある』と思って想像力を働かせ、気持ちを作る。今でも大切にしている演技の基礎を学びました」
学生時代は演劇に打ち込みながら教員免許も取得し、大学卒業後に上京。都内の中学校で社会科の教べんを執る傍ら、舞台芸術専門学校の夜間部に入学します。ボイストレーニングやフィジカルトレーニング、上演実習のほか、舞台美術・照明・演出など総合的に習得。修了時には講師から劇団への誘いもありましたが、岩瀬さんは仕事を続けました。教師として自らが得た知識・技術を生徒に伝えることにやりがいを見いだしていたからです。
「学校では演劇部の指導にあたり、『ウエスト・サイド・ストーリー』『アンネの日記』『ヘレン・ケラー』などの作品をアレンジして上演しました。子どもたちは演じることを通して自己と他者への理解を深め、プレッシャーと闘い、表現する喜びを体験して成長していきます。その姿を見るのが何よりの楽しみでした」
定年を迎えた後は明治座のシニア劇団に入団。在籍中に朗読会を鑑賞したことから関心を持ち、教室に通ってスキルを身につけたことが現在につながっています。
#chapter3
「“岩瀬ゆふ”はシニア劇団で使っていた芸名です。柔らかい土ではなく、硬い岩の隙間から流れ出す湧き水こそ、澄みきっているのではないか。そんなイメージです」。日々の発声練習を欠かさないという、張りとつやのある声で話します。
長い年月をかけて磨かれる石清水のごとく、半世紀を超えて舞台表現に携わり、常に自らを鍛え続けてきた岩瀬さん。退職後、夫婦で越してきた町田市本町田地域の歴史を調べていくと興味深い偶然が分かったとか。
「恩田川の源流域で、各所に湧水地が点在しています。このまちに腰を下ろし、活動することに不思議なご縁を感じています」
町田中央図書館で朗読会を開催していることもあり、図書館で縄文・弥生時代の資料をひもとくのが最近の趣味。はるか昔、いにしえの時代をつづった書物を地域の子どもたちに読み聞かせることも、ライフワークになりつつあります。
ゆくゆくは、紙で作る人形劇で子どもたちの好奇心をくすぐる「ペープサート」や、日本で脈々と受け継がれてきた「わらべ歌」を組み込んだ朗読劇なども、披露していきたいと考えているそうです。
「朗読は、聞く側も読む側も楽しめるのがいいところ。腹式呼吸を使って発声することで、体の内側から元気が出てくるように思います。年齢・性別を問わず、誰でも気軽に取り組めるのも魅力の一つです。これからは、地域のさまざまな方々と触れ合う機会を増やし、一緒に物語の世界を作り上げることができたらうれしいですね」
(取材年月:2023年1月)
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演劇で培った技術を基に物語の世界観を表現する朗読家
岩瀬ゆふプロ
朗読家
花いかだ
半世紀余りにわたり演劇を学び、出演・演出・子どもたちへの指導を行ってきたキャリアを持つ朗読家。物語の世界を深く理解し、その精神性を伝える朗読が、聴衆の心を捉えます。
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