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「ダメ人間」だっていい 演技を深掘りするのは個性

俳優・声優の個性を伸ばす 演技指導の専門家(演技ドクター)

甲斐大櫻

甲斐大櫻 かいだいおう
甲斐大櫻 かいだいおう

#chapter1

“自称講師”の横行に落胆「基礎を学べる場を」

 演技指導だけでなく、心のケアも仕事の一つといいます。JR新宿駅やJR代々木駅から歩いて数分、甲州街道から小さな路地を入った先にある株式会社児原(こばる)の「演劇ワークショプ」(東京都渋谷区)。東京と大阪にスタジオを持ち、これまで多くの俳優や声優を輩出してきました。

 「うちはお芝居を通じて人をつくる」と話すのは、同社代表で講師の甲斐大櫻(かいだいおう)さん。有名なプロの俳優や声優を特別講師にそろえるこちらのワークショップには、これから芝居を学びたいという初心者のほか、すでに役者経験を積んだ人たちも口コミにより門を叩きます。

 甲斐さんは20代後半で表現の世界に飛び込み、役者や裏方として奔走するうち、気づけばプロデュース業に。そこで「自称講師」らが横行する姿を目にしました。「演技の専門学校や養成所で学んだという人を何人も審査しましたが、ほとんどがひどいものでした。当時なら学費は年100万~150万円ほどでしたが、それだけ払ってこの演技なのかと」

 調べたところ、舞台演出を一度すればいい、役者歴3年あればいいなど、講師になるための基準が著しく低かったといいます。きちんと基礎から教える場をつくりたい──。そんな思いが起業に向かわせました。

 「お芝居の基礎はコミュニケーション。芝居と聞くと言葉の上手さが肝だと思われがちですが、大事なのは心と心の渡し合い。心のキャッチボールがあれば自然と言葉は出てくるものです」と甲斐さん。「ふだん皆さんがしている当たり前を自然に表現できるかが芝居のうまさにつながる」といい、それができれば映像や舞台などでの演技に深みが増すと話しました。

#chapter2

うまいだけではつまらない 1年で舞台に立つ生徒も

 即興芝居や台本を用いた演技指導に加え、特に重視しているのが、集中力や想像力を高める「シアターゲーム」というレッスンです。アイコンタクトでタイミングを合わせハイタッチする、つないだ手で輪を作り倒れないように広げていくなど、相手への理解が深くなければ成功しないものばかり。

 「頭で考えた芝居は中身が薄くなってします。感覚を大事にすれば、自然と口からせりふが出てきますから」。理屈は捨て感覚を徹底的に研ぎ澄ます、それが優れた演者になる近道だと甲斐さんは考えます。

 芝居の色に染まっていない未経験者の方がすんなり知識を吸収する場合も多いとか。なかには1年ほどで映像に俳優デビュー、人気劇団の舞台に立てる技術を身につける生徒もいると言い、「自分の気持ちよりもまず、周りがどんな状況でどんなことを考えているかを考える人は伸びやすいですね」

 一人ひとりに向き合うきめ細やかな指導が強み。1クラス15人までの少人数制で、生徒の名前や顔はもちろん、性格まで把握してしっかりケアします。まるで心理カウンセラーのよう。“欠点こそ個性”が甲斐さんの信条で「どんどん失敗して学んでほしい。今は失敗が悪いという風潮もありますが、失敗を恐れず勇気をもって楽しんだら世界が変わるし、嫌いな自分・ダメな自分を『これも自分なんだ』と認めると自分自身が楽になるし。人って意外と短所が個性個性だったりする」過去に失敗を重ねた自らの経験が今に生きている「反面教師で指導してます(笑)」と話します。

 また「うまい人たちばかりの芝居って意外とつまらない。たとえ上手じゃなくても、がむしゃらに互いを尊重し合ってする演技が人の心を動かします。これが芝居の難しいところ」とも。

甲斐大櫻 かいだいおう

#chapter3

「芝居はなくならない」ともり続ける表現の灯

 そんな甲斐さんを頼りやってくるのは、過去に「自称講師」の指導を受けた経験者、還暦を迎えた未経験者まで老若男女の幅広い世代。私生活の相談に乗り心のケアをすることもしばしばで、卒業生は今も集まり、結婚報告のために遠方からあいさつに来る人もいるそうです。

 あるとき門を叩いたのは、これまで約50社の面接に落ちたという大学4年の青年でした。「芝居が面接にいいと聞いたので」と暗い声で話す青年に、甲斐さんは強いメンタルを持つためのレッスンを徹底しました。4カ月後に「面接通りました!」と報告にきた青年の笑顔が忘れられないといいます。「初めて会ったときは顔が曲がって笑顔が引きつっていたのに、そのときは本当にいい顔になっていたんです」

 コミュニケーション能力の向上が役に立つ場は何も芝居だけではない──。今後は企業向けにセミナーも実施していきたいといいます。

 新型コロナウイルス感染が相次ぎ、公演の中止や延期が続く2020年夏現在、これからも表現の世界に灯はともり続けるのか。最後に聞きました。甲斐さんは「コロナでも芝居はなくならない。これからもあり続けなければならない場所やツールだと思っています」。心と心をつなげる場はなくならない、と思いを語りました。

(取材年月日:2020年7月)

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甲斐大櫻

俳優・声優の個性を伸ばす 演技指導の専門家(演技ドクター)

甲斐大櫻プロ

演技講師(演技ドクター)

株式会社児原(こばる)

第一線で活躍する特別講師をそろえ、俳優や声優を数多く輩出。個性を伸ばし、演技の幅を広げ、養成所合格や事務所所属、出演などの夢をかなえるためのお手伝いをします。

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