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境界線をまたぐサステナブルな家づくりを提唱

将来を見据えサステナブルな建築へ編集する一級建築士

後藤卓志

後藤卓志 ごとうたくし
後藤卓志 ごとうたくし

#chapter1

フローリング1㎡施工ごとに原産国に1本の苗木を植林

 「所有とは、命あるものには必ず死が訪れ、手に入れた物は必ず手放すことになることからも、長期間地球から借りているだけだと捉えています」
 長らくデフレ化にある日本は供給過多な状況にあり、社会的には空き家問題にその一端を垣間見ることができます。量から質への移行期にきているサインと捉えられる状況下で、「choord(コード)一級建築士事務所」の代表、後藤卓志さんは、持続可能な発展を目指す「サステナブルな家づくり」を提唱しています。

 「例えば、図書館で本を借りる人のなかには、借りた本は自分の物ではないからぞんざいに扱う人がいるかもしれません。一方で、自分の物ではない借り物だからこそ大切に扱う人もいますよね。その様な後に続く人のことを考えて行動できる方に、住宅を提案していきたいです」

 物を手に入れた後も大切に扱うことの重要性を強調する後藤さん。住宅設計では、建物の内外装のプランニングをはじめ、材料、製造・処分する際に環境へ与える影響に至るまで、サステナブルな視点から熟考。単に構造物を造ることではなく、その前後の材料の選定や開発、解体後の再資源化までを含む一連のプロセスが建築だと捉えているそう。

 「取り組みの具体例として、リユース前提の無垢フローリングの準備を進めています。加工形状を工夫し、施工時には接着剤を避け、ビスを用いて再利用できる工法を採用し、貼ってもはがせるようにすることで廃棄物を減らし、環境負荷を抑えることを目指しています。また、購入されたフローリング1㎡当たり1本の苗木が原産国に植林される仕組みの無垢フローリングの販売も行っており、これまで1000本以上の植林を行ってきました」

#chapter2

完成までのプロセスを楽しむ家造り

 「これまでは、環境保護を目的として植林を行ってきましたが、ミャンマーでは政変により経済的な打撃を受けていることもあり、今年度はチーク以外に、比較的短期間で換金可能な苗木であるマンゴーなどの果樹を現地の方々と相談したうえで植林しています。能動的に管理が行われることを意図しています」

 扱いが難しい自然素材について、施主と施工者の両方のニーズを満たす方法も模索しています。
 「自然素材は性質上吸放湿するメリットがある反面、伸び縮みや反り、割れなどがでる一般的にはデメリットと捉えられる性質があるため、扱いには技量を要します。手間暇がかかることや、道具等のメンテナンスコストが大きいことを考慮し、業者さんに適切な対価を支払うようにしています」

 施主側の建物への理解度が深まり、リテラシーの向上が建物の長寿命に寄与することを目的として、建築士が伴走支援する分離発注方式も提示。長く住みつないでいけるよう、手入れのノウハウも伝えたいと言います。

 「互いに相応の理解度が必要となりますが、発注時のコストを圧縮でき、自然素材など単価の高い素材を選択できるメリットもあります。また両者に関係性が生まれ、結果としての住宅だけではなく、完成までのプロセスも楽しんでもらいたいと思っています。環境に優しい建物を建てるだけではなく、借り物としての所有という考え方を基に、持続性と利便性をうまく融合させた落としどころを、提案していければと思います」

後藤卓志 ごとうたくし

#chapter3

産地と消費者を繋ぐジャパニーズスタンダードを構築

 後藤さんは建築系の大学を卒業後、設計事務所に4年間勤め店舗案件に従事。その後、都内の建築会社で12年間、住宅を数多く手掛けてきました。この期間、特に自然素材や国産材に関する知見を養います。

 「就職後、実務を通じて建築の面白さを再発見したことで、さまざまな分野と関係していること、それらについて好奇心から学びを開始しました。物理、化学、経済、歴史などの知識を深めるなかで、地球環境への関心も強まり、産地の資源量や経済状況、それらをとり巻く自然環境をどうにかしたいと考えるようになりました」

 志を立てた後藤さんは、2015年、39歳で独立を決意します。
 「前職では、機能性、利便性、デザイン性、コスパなどを重視していましたが、それらを俯瞰する視点で捉え、境界を跨ぐ必要があると思い至りました。」

 事務所を立ち上げて以降は、持続性をテーマとして、建築の前後も建築に内包化すべく尽力。「木材を使ったら植林するサイクルをジャパニーズスタンダードにしたい」と語ります。
 「将来的に、弊社フローリングなどを採用されたお施主さんが、家族で現地に植林された木々を見に行くということになればいいですね」

 現代日本が所有の概念から卒業し、サステナブルな社会へ移行するタイミングにあると考える後藤さん。建築にとどまらず、持続可能な未来への道を切り開くビジョンを示します。

(取材年月:2023年11月)

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専門家プロフィール

後藤卓志

将来を見据えサステナブルな建築へ編集する一級建築士

後藤卓志プロ

一級建築士

choord一級建築士事務所

建築プロセス全体を持続可能な視点から捉える建築家。お施主様それぞれのサステナブルを具現化する。東南アジアでの植林活動を主宰し、地球環境への直接的な貢献を行う。

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