遺言執行者の義務と権限とは?
急速に少子高齢化が進む日本。医療技術の進化もあり、その流れはさらに勢いを増しています。しかし、どんなに医療技術が進化したとしても、高齢になれば誰でもいつ何が起きても不思議ではありません。
そこで、後に残された人のために重要となるのが遺言書です。残された遺族のあいだで遺産分割の争いが起きないようにするには、法律的に問題のない遺言書、公正証書遺言を作成しておくことが大切です。
今回は、遺族に対し、確実に自分の意思を伝えるために作成する公正証書遺言についてご説明します。
遺言書の種類とその特徴
遺言書には、「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」「公正証書遺言」の大きく3つあります。
自筆証書遺言とは、全文を自筆で書いた遺言書です。弁護士をはじめとする専門家はもちろん、お子さんや妻、夫といった親族であっても代理で書かれた場合、遺言書の効力は無くなります。
次に秘密証書遺言ですが、これは遺言の内容を誰にも知られたくないものの、遺言の実行は確実にしたいといった場合に使われる遺言です。自筆証書遺言は、すべて自筆で書くと説明しましたが、秘密証書遺言は、署名以外はパソコンを使って書いても、自分以外の人に代理で書いてもらっても問題はありません。ただし、証人2人以上と公証役場に行き、公証人に確認してもらう必要があります。
遺言書を正式なものとして認めてもらうには、さまざまな要件があります。しかし、自筆証書遺言、秘密証書遺言は、基本的にどちらも自身で作成するため、法的に定められた遺言書の要件にそぐわない不備があっても気づかないリスクがあります。
要件不備にならないための最善の方法が、公正証書遺言です。
公正証書遺言は、遺言者が遺言の趣旨を口頭で伝え、それを公証役場で公証人によって作成されるため、要件不備になってしまうリスクは基本的にありません。しかも、後で無効だと主張される可能性も非常に低いものです。
公正証書遺言の効力とは
公正証書遺言は、遺言者の意思を確実に実行するためのものですが、何を書いても有効性が認められるわけではありません。公正証書遺言は、法律で遺言事項が定められていて、その範囲のなかでしか効果は発生しません。主な遺言事項は次のとおりです。
□問題のある推定相続人の廃除、または排除の取り消し
□相続分の指定
□遺産分割方法の指定
□遺産分割の禁止、特別受益分の持ち戻し免除
□生命保険受取人の変更
□遺贈や一般財団法人の設立、寄付、信託の設定
□婚姻外で生まれた子供の認知
□未成年後見人、未成年後見人監督人の指定
□遺言執行者の指定、職務内容の指定
公正証書遺言が有効になるための条件
前項の遺言事項に関することであれば、公正証書遺言により基本的には有効とされます。しかし、公正証書遺言の作成自体に条件があり、それを守ったうえで書かれたものであることが前提であり、その主な条件は次のとおりです。
□ 2人以上の証人がいること
証人は基本的には誰がなっても問題ありませんが、未成年者、推定相続人とその家族、推定相続人以外で遺言書により財産を譲り受ける予定の人とその家族、公証人となる人の家族、公証役場のスタッフや公証人に雇用されている人は除外となります。
□ 遺言書の内容を遺言者から直接口頭で伝えること
遺言者が公証役場に行く前に電話で内容を公証人に伝え、作成当日に遺言者、証人、公証人で確認をするといった形でも問題はありません。
□ 遺言者、証人、公証人の署名捺印があること
公正証書遺言には、原本、正本、謄本の3種類がありますが、押印に関しては原本だけにすれば、問題ありません。
□ 遺言者が15歳以上であること
遺言者が15歳を超えていないとほかの条件をすべて満たしていても、遺言能力がないので、遺言書の効力は発生しません。
□ 公序良俗に反していないこと
例えば、反社会勢力に寄付をしたりなど、公の秩序に反して社会的妥当性を著しく欠く内容は、遺言書として認められない可能性が高まります。
よく問題になるのは、妻がいるのに愛人に全財産を渡すという遺言です。
事案によっては無効となる場合もありますが、妻との関係が破綻していて愛人の生計のために財産の一部を遺言で残すというのであれば、有効となるでしょう。
公正証書遺言が無効になるケースとポイント
公正証書遺言は、上述した作成の条件と遺言事項を守っていれば、無効になることは基本的にはありません。しかし、それでも場合によってはそのままの内容が実現できないこともあります。
具体的には次のようなケースが考えられます。
□ 法定相続人の遺留分を侵害してしまう場合
遺言者の親、配偶者、子供などの法定相続人には最低限認められる相続分があります。これを遺留分といいますが、この遺留分は遺言者がどんなに譲らないといっても、法定相続人は受け取る権利があるため、遺言書で遺留分を無視して相続財産の振り分けを行ってしまうと、そのまま遺言は実現できませんが、遺言が無効になるわけではありません。遺留分が遺言よりも優先されるだけです。
□ 遺言を残すため無理やり遺言書を作成させられてしまった
前項で、公正証書遺言が有効となる条件として、15歳になっていないことと説明しました。しかし、15歳以上であっても、認知症など病気により判断能力が低下してしまっているにもかかわらず、無理やり遺言書を作成させられてしまったような場合は無効になります。
遺言書は、さまざまな要件、条件があり、少しでも不備があると遺言者の意思を確実に果たすことができなくなります。そうしたリスクを軽減するためにも、遺言書を作成する際は、専門家に相談されることをおすすめします。
付言事項を工夫すると納得されやすい!
せっかく書いた遺言書が相続人に納得してもらえるようにする方法も工夫しましょう。
遺言には、遺言書に記載することで法的効力が認められる事項以外のことを書くことができます。付言事項と言うもので、自分の伝えておきたい気持ちとかどうしてこの遺言を作ったのかということを、書いておくのです。
これが感動的なものなら、相続人はなるべく遺言に沿って遺産分割の解決をしようとするでしょう。残された人間のために、法的効力はなくても、よく考えてこれを書いておくことが重要です。
遺言の内容をよく説明すれば、遺留分を侵害されている相続人も遺留分の請求をしないかもしれません。
一人が家業を継ぐから遺贈を多くして家業が続けやすいようにしたとか、お嫁さんが献身的に介護してくれたから遺贈したのだとか、いろいろな事情があって遺言を残したのだということを誠実に書いてみるのがよいでしょう。
また、遺留分を侵害されてしまう人には、できたら、生前から話をしておきましょう。