公正証書遺言の効力と無効になるケース
生前に遺言書を作成しておくと、遺産の相続がスムーズになるので、トラブル防止につながります。ということは理解している方が多く、遺言を残される方は増えているようです。
公正証書遺言は、公証役場で作成しますし、信頼性が高く、「公正証書遺言があれば紛争にならない。自分が思った通り遺産をわけてもらえる。遺留分が請求されることはない」と思っている方も多く、なぜ、遺留分のトラブルになるのかという疑問を持つ方も少なくないようです。
今回は、「公正証書遺言」と「遺留分」について解説し、せっかく残した遺産について、相続時にトラブルを回避する方法をご紹介します。
公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、公証人が遺言者の意向を文章にまとめた遺言書のことです。公正証書遺言は、遺言者が公証役場に行き、証人2人の立ち会いのもと公証人に口頭で遺言の内容を伝え、公証人が遺言書を作成します。公証役場に費用を払う必要がありますし、そのために必要な資料もあり、個人で作成するのは困難なので、多くの場合、弁護士が作成にかかわっています。
作成された遺言書の原本に、遺言者と証人が署名押印し、最後に公証人が署名押印することで成立します。原本は、公証役場で保存されます。
公正証書遺言は、2人以上の証人の立ち会いがないとつくることができません。証人が見つからない場合は、公証役場で紹介してもらうことができますが、別途費用が必要となります。
また、証人は誰でもなれるわけではありません。未成年者や、遺言で財産を譲り受ける人、また、その配偶者や直系血族は証人になることができません。公証人の配偶者や4親等内の親族、公証役場の職員の他、遺言書の内容を読むことができない人も証人になることができないので、なれない人が多く、注意が必要です。
公正証書遺言を使うと、以下のような意向を実現できます。
【相続分の指定】
例えば、「長男には他の相続人よりも多めに相続させたい」など、誰がどれだけの遺産を相続するかを決めることができます。
【遺贈】
内縁の妻や愛人、孫や姪、お世話になった方などの第三者に財産を残すことができます。
【寄付】
慈善団体などの法人や組織に財産を寄付することができます。
遺留分とは
遺留分とは、子や配偶者に法律で保障されている一定割合の相続分のことです。遺言で、この遺留分より少ない相続分しか残されていない人は、遺留分の請求をして遺言で遺留分が侵害している部分の効果を覆すことができます。
遺留分割合は、直系尊属(父母または祖父母)だけが相続人の場合は3分の1、その他の場合では2分の1とされます。各相続人の遺留分というのはその法定相続分に上記の2分の1または3分の1を掛けたものになります。
なお、近時の相続法改正で、この権利の性質は大きく変わりましたが、ここでは割愛します。
実際に相続となった時、遺言書がない場合も少なくないと思います。このようなときは、法定相続に従い、民法で定められた法定相続人が法定相続分に基づいて分けることになりますので、遺留分が問題になることはありません。
遺言書がある場合は、法定相続分に縛られることなく、遺言書の内容に従って遺産を分割するがため、法定相続人であっても全く遺産を受け取れなくなる可能性があります。そこで、民法では残された家族の生活を一定程度守るため、最低保障として「遺留分」を認めたものです。比較法的にはコモンローの国ではこの制度はないようです。
遺留分を主張できるのは、配偶者や子供、直系尊属のみですので、兄弟姉妹には遺留分はありません。
公正証書遺言と遺留分の優先順位
公正証書遺言が存在していても遺留分の方が優先されます。民法において「遺留分を侵害する遺言はできない」とされており、公正証書遺言で相続人の遺留分が侵害されたときは(改正により内容と名称が改められていますが)「遺留分侵害額請求権」が行使できます。「遺留分減殺請求権」が従来の名称でした。
遺留分侵害額請求権とは、遺留分の侵害を受けたときに、遺留分に相当する遺産の返還を求める権利のことをいいます。つまり、自分が侵害された1000万円分を返還してくれと請求できる権利です。
仮に公正証書遺言で「相続人の一人に全財産を相続したい」という旨の遺言がされた場合、遺留分を侵害された他の相続人は自分の遺留分を取り戻すためその相続人に「遺留分侵害額請求権」を行使することになります。
トラブル回避する方法
それでは、トラブルを回避しつつ、特定の人に財産を残したいと思った場合は、どうすればいいのでしょうか。公正証書遺言を使ってトラブルを回避する方法について見ていきましょう。
【遺留分権利者に分ける財産について遺言する】
遺留分に相当する財産を遺留分権利者に分けることを遺言しておけば、そもそも遺留分が侵害されないので、トラブル回避ができます。
例えば子供に4分の1の遺留分が認められる場合は、あらかじめその子供の相続分を遺言しておくのです。そして、残りを他の相続人などに残すようにすれば、遺留分の侵害は起きないので、喧嘩になりません。もっとも、死んだときどういう資産が残るかわからないので計算が難しいという問題があります。
【生前に遺留分を放棄する】
遺言者の生前に遺留分を放棄してもらう方法も考えられます。この方法のメリットは、遺留分の権利者が遺留分を放棄してくれれば、遺留分の請求で兄弟姉妹などが喧嘩になることがないので、遺言者が元気な間にトラブルの発生を根本的に防ぐことができるのです。
ただし、遺言者が生きている間に遺留分を放棄させるには、遺留分の権利者が自ら家庭裁判所に対して、遺留分放棄の許可を申し立てる必要があります。また、申し立てが家庭裁判所に認められるには、遺留分を放棄すべき何らかの合理的な理由があり、また、遺留分を放棄する前提として、遺留分権利者に対価的な財産が与えられていなければなりません。
たとえば、長女にはマンションを買う資金を援助したなどきちんとした理由があれば、このような放棄という手段をとっておいて、他の相続人にも説明しておくとよいでしょう。