仏像のあるくらし 韋駄天
不空羂索観音 ― すべての迷いを“逃さず救う”慈悲の化身
不空羂索観音は、観音菩薩が三十三の姿に姿を変えて衆生を導くうちの一尊で、とりわけ“救いの網”を象徴する仏さまです。
そのお名前にある「不空」とは“むだにしない”、“必ず救う”という誓願、「羂索(けんさく)」とは“投げ縄・救いの索”を意味します。迷い苦しむ人々を、どれほど遠く離れた心でも、必ずこの縄でたぐり寄せて救い上げるという深い慈悲の心を表しています。
不空羂索観音のお姿は、三つのお顔と八本の腕を持つことが特徴です。中心となるお顔は穏やかに世界を見つめ、左右のお顔は怒りと慈悲を象徴しながら、すべての方向に目を向けて衆生を守護します。また両手に持つ羂索は、苦しみに絡まった心をほどき、安らぎの道へと導く智慧の象徴ともいわれます。
奈良・東大寺法華堂の不空羂索観音像に代表されるように、古来より国家安泰や人々の平安を祈る本尊として信仰を集めてきました。慈悲と智慧、そして力強い救済の象徴を一身に宿す尊像は、現代の私たちの暮らしにも“迷いを晴らす光”を届けてくれます。
迷いも、不安も、どれほど遠くにあっても。
不空羂索観音は、その“羂索(けんさく)”で必ず救いの道へと導く観音さまです。
三面八臂のお姿に込められた、強さと優しさ。
心が揺らぐとき、そっと寄り添い、背中を押してくれる存在です。



