閻魔大王 — 正しき道へ導く“冥界の王”

亡者を裁き、導く“冥界の王”として知られる閻魔大王。
しかしその本質は、恐れと同時に「正しき道へと導く慈悲」を宿した存在です。
閻魔大王は、十王信仰の中心に立ち、亡くなった人々の生前の行いを照らし出し、次の世界へ進むべき道を示す役割を担います。
地獄の裁判官として厳格な姿が描かれますが、その根底にあるのは“公平さ”と“慈悲”。
すべての行いを偏りなく見つめ、魂がよりよい境地へ向かうための手助けを行うともいわれています。
その姿は、威厳ある冠を戴き、胸に甲冑をまとい、時に閻魔帳を手にしています。これはすべて、誤りなく真実を見極める力を象徴する装束です。
また、閻魔大王の像は、恐ろしげに見えても目元には静かな温かさが宿り、魂のゆくえを真摯に案じる慈悲深さが表されることがあります。
日本では“嘘をつくと閻魔さまに舌を抜かれる”といった言い伝えもありますが、これは「正しく生きよ」という戒めとして親しまれてきました。
厳しさと優しさ、戒めと救い——その両面を併せ持つ閻魔大王は、古来より多くの人々の心を律し、また導いてきた尊い存在なのです。



写真は、桧材の柔らかな風合いに、閻魔大王の威厳を端正に刻み込んだ一体です。
総丈約10cmと小ぶりながら、冠や笏（しゃく）、衣文の流れまで細やかに彫り上げられ、閻魔大王の厳しくも慈悲深い表情が丁寧に表現されています。
桧材特有の明るい木肌は、時とともに黄金色へと変化し、仏像としての深みを増していきます。
地蔵盆や先祖供養に寄り添う尊格として、また日々の“心を正す守り仏”として、和室・洋室問わず調和する一体です。