仏像のあるくらし 烏枢沙摩明王
美と福徳を授ける女神 ― 吉祥天像
吉祥天(きっしょうてん)は、インドの女神ラクシュミーを起源とし、仏教においては美と福徳を授ける女神として信仰されてきました。優美な容姿と気品あふれる姿は、数ある仏像の中でもひときわ華やかです。
起源と役割
ヒンドゥー教では富と繁栄の女神であったラクシュミーが、仏教に取り入れられて吉祥天となりました。福徳・財宝・家庭円満を司り、古来より人々の暮らしを守る存在として厚く信仰されてきました。奈良・薬師寺の吉祥天立像(国宝)は、その信仰の象徴といえる名品です。
毘沙門天との関わり
吉祥天は、毘沙門天(多聞天)の妻神とされています。毘沙門天が武神・護法神として力強く人々を守護するのに対し、吉祥天は優美な姿で福徳と安らぎを授ける存在です。つまり、力と福徳、守護と繁栄という二面を補い合う関係なのです。
奈良・東大寺二月堂の「修二会(お水取り)」などでも、毘沙門天と吉祥天を一対で祀る例が見られます。これは、単なる戦勝や財宝だけでなく、平和と豊穣、生活の安定まで含めて祈る日本人の心をよく表しています。
吉祥天信仰
吉祥天は「吉祥悔過(きっしょうけか)」という法会で特に祈られる存在です。これは国家安泰・五穀豊穣・人々の幸福を願う大切な修法で、毘沙門天信仰とともに、古代から宮廷や寺院で行われてきました。
仏像としての特徴
吉祥天像は天女の姿で表され、柔和な顔立ちに宝珠や華籠を手にした姿が多く見られます。その端正な美しさは、力強い毘沙門天像と並ぶことで一層引き立ち、陰陽の調和・男女の和合・武と福の融合を象徴しています。
吉祥天は、毘沙門天と対をなす存在として、日本人の信仰に深く根ざしてきました。武勇と守護を象徴する毘沙門天と、美と福徳を授ける吉祥天。二尊を合わせて祀ることで、力強さと安らぎの両面から日々の暮らしを見守ってくださるのです。
陽光堂では、吉祥天像を単独でお迎えいただくのはもちろん、毘沙門天と並べて安置することで、より一層のご利益と心のやすらぎを感じていただけます。



