仏像のあるくらし 毘沙門天
荒ぶる水牛にまたがり、六つの顔と六本の腕で武具を振るう姿。
そのお姿には怒りが宿るようでいて、実は深い慈悲に満ちています。
このお方こそ、「大威徳明王(だいいとくみょうおう)」です。
大威徳明王は、密教において五大明王の一尊に数えられる尊格で、阿弥陀如来の化身とされています。
また、北方を守護する明王であり、主に「煩悩を断ち、死の恐れや悪を打ち払う」力を持つとされます。
特に注目すべきは、その乗り物が「水牛」であること。
インドの死の神・閻魔(ヤマ)の乗り物とも重なるこの存在は、「死をも超越する力」を象徴し、
私たちが日々抱える不安や恐れを静かに打ち砕いてくれる存在なのです。
六面六臂というお姿は、あらゆる方向から私たちを見守り、救いの手を差し伸べてくださる表れでもあります。
その怒りの表情は、悪しきものを打ち砕くためのものであり、
信ずる者にとってはむしろ「慈しみのかたち」と言えるでしょう。
現代に生きる私たちにとっても、大威徳明王は強い心の支えとなります。
人生の不安や恐れ、心の迷いを抱えるとき、この明王の存在は、
「すべてを乗り越えられる力が、すでに自分の中にある」という気づきを与えてくれるのです。



