遺言について
「遺贈寄付をご存じですか?」
前回のコラムのテーマは遺言でしたが、今回のコラムはその遺言に関連して新しい相続の形といえる「遺贈寄付」についてご説明したいと思います。
「遺贈寄付」という言葉はまだ聞きなれない言葉かもしれません。
まずは「遺贈」からご説明しましょう。
「遺贈」とは「遺言」によって相続財産を特定の人に「贈与」することです。通常相続財産は相続人にしか承継されませんが、相続人以外の人で生前お世話になったので自身の死後に何かしらの財産を渡したい、という方も少なからずいらっしゃいます。そのような場合「相続財産の一部または全部を誰々に『贈与』する」という内容の「遺言書」を遺すことで相続財産を渡すことが可能になります。これを「遺贈」と言います。
「遺贈寄付」とは、この「遺贈」という方法で、相続財産の一部または全部を社会課題解決のために使ってもらえるよう公益団体などに寄付することです。寄付先はとしては社団法人、財団法人、NPO法人、自治体、学校法人、地元自治会など様々です。またその方法も、後述のように遺言以外にもいくつかあります。
このコラムでは新しい相続の形といえる「遺贈寄付」について、まず(1)行われるようになった背景、次に(2)寄付の主な具体的な方法、そして(3)実際寄付したい場合の進めかた、についてご説明したいと思います。
(1)背景
以前と比較し「社会貢献活動」は特定の企業・団体だけが行うものではなく、個人レベルでも広く一般的に行われる活動として認知されているのはないでしょうか。このコラムを読んでいらっしゃる方の中でも、普段からボランティア活動に参加されている方や寄付活動を実践されている方も多いのではないかと思います。
実際寄付をする理由として「社会の役に立ちたい」「寄付先の活動に共感」をあげられている方が7割以上というアンケート結果もあります。そういった思いの延長として「⾃分の死後も自身が作り上げた財産を社会貢献に役立てたい」という時、「遺贈寄付」でその思いを実現することできます。
また、いわゆる「おひとり様」の増加という事情もあります。統計では2030年には生涯未婚率が約3割に達するという見込みもあるそうです。「おひとり様」の場合、自身の老後の生活の問題は勿論、ご自身の死後の財産の処分も大きな課題です。
また「おひとり様」ではなくとも「自分たち夫婦に子供はいないが、かといって疎遠になっている兄弟等には相続させたくない。どうすればいい?」というご相談もよくあります。
前述のように相続財産は相続人に承継するのが原則ですが、これらの方のように、相続人がいない、いても疎遠なので相続させたくない、といった事例は現在も多く見られますし、今後も増えいくと思います。
このような事情が遺贈寄付のきっかけになっていくと思います。「遺贈寄付」が相続・財産承継の一つの新しい形・方法になると言えます。
(2)遺贈寄付方法の方法
具体的な「遺贈寄付」な方法は、大別して「死亡した人(被相続人)が直接寄付する」方法と「相続した相続人の方が行う」方法があります。
死亡した人(被相続人)が直接寄付する方法としては、
①財産の全部又は一部を民間非営利団体等に寄付することを遺言で残す
②寄付者が民間非営利団体等との間で死亡後に寄付が実行される内容の贈与契約(「死因贈与契約」といいます)を締結する
③寄付者が生命保険に加入し、死亡保険金の受取人に民間非営利団体等を受取人に指定する
④財産の全部又は一部を非営利団体等に寄付することを内容とする信託契約を受託者と締結する
などがあります。
一方、相続した相続人の方が寄付を行う方法は「手紙、エンディングノート、言葉などで遺族に相続財産の全部又は一部を寄付することを伝え、その遺族がその遺志を実行する」というものです。
これらの中から自分に一番適した方法を選択すればよいと思いますが、最初の「遺言により財産の全部又は一部を民間非営利団体等に寄付する」か「相続した相続人の方が遺志に基づいて寄付を行う」というのが比較的簡便で一般的といえます。
ところで、遺贈寄付に関して「『寄付』はお金持ちが行うことだと思う」という感想が多くあがるそうです。日本は欧米と比較して「寄付文化」が根付いていないと言われますが、「寄付はお金持ちがするもの」「高額な単位じゃないと寄付できない」「あるいは少額の寄付は申し訳ない」と思われている方が意外と多いのかもしれません。
しかし、例えば次のような遺言の文例ではどうでしょう。
遺言書
(中略)
第○○条
1.遺言者は相続財産のうち。預金10万円を○○××団体へ遺贈する
2.残りの相続財産は法定相続人で均等に分割して相続させる
(以下、略)
このような事例でも「遺贈寄付は自分では無理」と思われるでしょうか?
これも立派な「遺贈寄付」です。財産全部を寄付しなければいけないわけではありません。財産の多寡は寄付のハードルではありません。
(3)進め方
このような遺贈寄付ですが、まだ馴染みがないこともあり「どのように進めたらよいかわからない」「実際に行う時に気をつけることは何か」など、より具体的に踏み込んだ点に聞きたいという方も多いかと思います。
「進め方」の点でいれば、「そもそも遺贈先をどう決めるか」という大きな問題があります。
継続性の高い団体や、受入実績がある団体・遺贈(寄付)担当者がいる団体といった団体だと安心ですが、ではそれをどうやって探すか、情報源がなかなか見つからないかも知れません。
また「気をつける」点もいくつかありますが、その一つとして「不動産を寄付したい」という時に発生する「みなし譲渡所得税」の問題があります。
「みなし譲渡所得税」とは不動産を贈与によって財産を移転した場合に時価で売却されて譲渡益が出たものとみなされて所得税が課税される制度のことです。
不動産を寄付の対象にする場合、この「みなし譲渡所得税」を誰がどのように負担するのか、を予め整理して遺言に遺す必要があります。また、こういった事情のため「不動産の寄付は受けられない」という団体もあります。事前にきちんと調査をしないと、良かれと思った寄付行為が逆にトラブルになりかねません。
このような時に、遺贈寄付について相談できる専門家が少ないのが現状のようです。私は数年前にこの遺贈寄付を知り今後の社会に必要な制度・活動と思いましたので、遺贈寄付の周知活動を進めている団体である「一般社団法人 日本承継寄付協会」が認定する「承継寄付診断士」という資格を取得しました。
もしこのコラムを読んで「遺贈寄付」にご興味をお持ちになりましたら、一度ご連絡ください。
最後に
高齢化社会の進展により、相続する世代が80代90代、相続を受ける世代が60代、ということが当たり前になりました。そのため、日常の生活資金を一番必要としている現役世代には資産が相続されにくい状況になっています。
遺贈寄付は、財産の一部を社会貢献活動へ寄付することで、現役世代への間接的な「資産の承継」になると思います。遺贈寄付といった新しい形の財産の承継方法は社会的に必要と思います。