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遺言について

江川健一

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今回は先のコラムでご案内した主な生前対策の中の「遺言」ついて、少し詳しくご案内したいと思います。
遺言は生前対策の中でも一番知られているかと思いますが、実際に遺言を準備されている方は少数のようです。準備されない方の理由としてだいたい以下の二つ集約されるように感じます。
(1)「財産が少ないから遺言なんて必要ない」
(2)「遺言なんてまだ先でいい」
このコラムでは、まず上の2点の問題点をご指摘した上で、①特に遺言書を残すべきケース、②ポピュラーな遺言の方法、特に自筆証書遺言と公正証書遺言の簡単な比較、③遺言書を残す場合に考慮しておきたい「遺留分」、の3点についてご案内します。

「相続財産が少ないから遺言書は不要」は本当?

遺言の準備しない理由でよく聞く「相続財産は少ないから、相続人の間で仲良く分割するだろうから遺言なんて必要ない」、というご意見、本当でしょうか?
裁判所が発表する「令和4年司法統計年報」によれば、裁判所での遺産分割事件の調停等の成立数(相続人の間で遺産の分割の話し合いがまとまらず裁判所の調停等によって遺産の分割等がなされた件数)のうち、相続財産が1000万円以下の割合は全体件数の約3割(33.5%)に上っています。つまり、相続トラブルは1000万円程度の財産でも発生しうる、というのが現状です。しかもそのトラブルの当事者は「亡くなった方」ではなく「残された遺族」です。しかし、遺言を遺されることでこのような事態を避けることが可能です。遺言は大切なご遺族にトラブルの種を残さない有効な方法なのです。

「遺言書の準備は元気なうちに」

「親に遺言書を書かせたい」というご相談を、お受けすることがあります。そこで実際にご本人にお会いすると、認知症の疑いがあることがわかり、残念ながらお断りする場合があります。
遺言書が有効であるためには、遺言者がその遺言を作成した時に遺言能力(意思能力)があることが必要です。認知症の疑いがある時に作成された遺言書は有効性が疑われ、逆に揉め事の種になってしまいます。
このような状態になると手遅れになります。
遺言は残されたご遺族のためです。大切なご家族に無用な負担をかけないためにも、「まだ先だから」「いつでもできるし」とお考えにならずに、「遺言書の準備は元気なうちに」が肝要といえます。

特に遺言書を残すべき三つのケース

上述のように、遺言は「残されたご遺族のため」の物として重要なものですが、次の三つのケースに当てはまる場合は、特に遺言書のご準備をお奨めします。

(1)子供がなく相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合で、すべての財産を配偶者に残したい時
お子様がいないご夫婦は、互いの財産を配偶者に遺したい、という方は少なくありません。しかし相続人に配偶者以外に自身の兄弟姉妹がいる場合、遺言書がない時は配偶者と兄弟姉妹で遺産分割協議を行う必要があり(法定相続割合は、配偶者3/4、兄弟姉妹1/4)、希望通りに遺せるかどうかわかりませんし、争いごとに発展するかもしれません。
このような場合に「財産は配偶者に相続させる」という遺言書を残すことで、分割協議することなく実現可能になります。(兄弟姉妹には「遺留分」がないため。)

(2)再婚しており、前の配偶者との間に子供がいる場合
前婚の配偶者との子にも遺産を相続する権利があります。この場合、遺言書がないと現在の配偶者・子と前婚の子との間で「遺産分割協議」を行う必要があります。普段から両者で連絡が蜜であればよいのですが、そういう事例は稀でしょうから、話し合い自体ができにくい上、争いごとも起きやすくなります。そうならために遺言書で予め財産分与の指示を残しておくことをお奨めします。(尚、配偶者・子には「遺留分」がありますので、遺言の内容にはこの点を留意する必要があります。)

(3)配偶者と子供又は子供同士で仲が良くない、或いは疎遠・音信不通の子供がいる場合
この場合、親族間で相続内容を争う所謂「争族」になりかねません。そのような事にならない一つの方法は、適切な遺言書を残しておくです。

遺言方法の種類

次に実際に遺言書のを準備するために、遺言の種類についてご説明します。
遺言の方法は民法で定められています(7種類)。その中で一般的なものは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」です。以下簡単にご説明します。

遺言の書類作成方法メリットデメリット
自筆証書遺言本人が自筆(ワープロは不可)で、遺言内容、日付、氏名等を自書・押印・封をして作成作成費用ほとんどがかかりませんし、いつでも書くことができます。民法に定められた形式に沿ってない場合無効になります。また開封前に家庭裁判所の検認が必要。他に偽造や紛失のリスクがあります。
公正証書遺言本人が、公証役場にて証人二人の前で公証人に述べた遺言内容に基づき、公証人が作成します。公証人が形式・内容を確認して作成されるので確実です。家庭裁判所の検認も不要で、紛失や変造の恐れがありません。費用と手間がかかります

自筆証書遺言は簡易で作成できるのが最大のメリットです。しかし民法に定められたルールに沿って作らないと無効となりますので作成時に注意が必要です。尚、法務局で行っている「自筆証書保管制度」を利用することで、表中のデメリットの欄に記載ある裁判所による検認は不要になります。また同制度では偽造や紛失のリスクも無くなります。(但し、遺言内容の確認は行われません。)
公正証書遺言は、コストと手間はかかりますが、作成上のルールはもちろん、複雑な遺言内容であっても、公証人が法律的に見てきちんと整理・確認しますので、実現確実性の点で安全・確実といえます。

遺留分

最後に遺言書を準備する際に留意しておくべき事項として「遺留分」についてご説明します。
遺言では、民法の定める法定相続分或いは相続人の希望に関わらず、遺産の分割内容・方法等を指定することができます。
一方、「遺留分」とは法定相続人(兄弟姉妹は除きます)が持つ、一定の割合で保証された遺産取得分のことです。言い換えれば、「遺言の内容にかかわらず最低でもこの割合だけは遺産を取得できる」と主張できる受取分になります。
(遺言のほか死因贈与で贈与される財産も対象になります。)

遺留分の割合は、
父・母(直系尊属)のみが相続人の場合:1/3
その他の場合:1/2(兄弟姉妹にはありません)
となり、これに法定相続分を乗じた割合が個別の遺留分になります。
これだけだとちょっとわかりにくいかも知れませんので、少し具体例をあげます。

・配偶者、子(一人)が相続人の場合
配偶者の遺留分:1/4(遺留分割合1/2×法定相続割合1/2)
子の遺留分1/4(遺留分割合1/2×法定相続割合1/2)(子が複数の時は、個々の割合は人数で除する)
・配偶者と親が相続人の場合
配偶者の遺留分:1/3(遺留分1/2×法定相続割合2/3)
親の遺留分:1/6(遺留分割合1/2×法定相続割合1/3)(父母ともにいる場合、個々の割合は2で除し1/12)
・配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合
配偶者の遺留分:1/2(兄弟姉妹には遺留分はない)

遺留分として請求できる金額は、「被相続人の相続開始時に有した財産に贈与した財産を加えそこから債務を控除した金額」に上記の割合を乗じた額になります。

遺留分権利者がいる場合、遺言で特定の相続人に偏った財産分与や相続人以外への遺贈(遺言による贈与)を指定した際、その相続人や贈与を受けた人(受贈者)は遺留分権利者から遺留分を請求される可能性があります。従って、可能であれば遺留分の請求が行われないよう配慮のある遺言が残す、或いは別の方法で遺留分権利者への配慮をしておく、などで無用の争いごとを避けることを考慮されたほうが良いと思います。

最後に

実際に遺言を準備する場合、ここで触れた内容以外にも考慮すべき要素があります。ただそれは個々のご事情により「千差万別」です。まずは専門家へ相談され、「何を」「誰に」「どのように」遺したいか、を整理しながら進められることをお奨めします。

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