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映画やテレビCMのセット、展示会ブースの製作に豊富な実績

映画やテレビCMのセットから展示装飾までを手掛ける木工職人

山中義則

造形物のリアリティーではどこにも負けません
丁寧に手入れされたノミ

#chapter1

大道具から小道具まで造形物にリアリティーを与える技術を習得

 日本とアメリカの刑事が、大阪の街で裏社会の組織と闘争を繰り広げる映画「ブラック・レイン」(1989年、UIP配給)。当時、ロケセットを製作したのが大阪市北区に事務所を構える「清工芸」です。

 代表の山中義則さんは、主人公たちが立ち寄る市場のうどん屋を建てたり、壁に張るお品書きを作ったり、大がかりなセットから小道具まで一手に引き受けました。メイキングのインタビューでは監督が、撮影地について「20世紀初頭の古きよき時代の風格」と語っています。

 映画では、観客を作品の世界に誘うリアリティーが求められます。例えば、長い間風雨にさらされた築数十年の建物であれば、ところどころ外壁のペンキがはがれたり、下地があらわになったりするもの。胡粉(ごふん)と呼ばれる、貝殻で作られた日本画の白絵の具と白い接客済を使って、経年変化を描き出します。

 「当社はテレビCMのセット作りからスタートした会社で、映画について知らないことも多々ありました。造形物の形状を実物に近づけていく手法は誰も教えてくれませんので、まずは東京から来た美術スタッフの言動に注目。まさに『仕事を見て盗む』を実践していました。でも、見聞きした通りに試してもうまくいかなくて。いい方法はないかと試行錯誤の日々でしたが、この地道な努力の積み重ねが今につながっています」と山中さん。

 その後、トム・クルーズ主演の「ラストサムライ」に登場する桜の木や藤棚、「男たちの大和/YAMATO」(2005年、東映配給)で、戦闘シーンを盛り上げた実物大の第1・2主砲、「火天の城」(2009年、東映配給)の舞台となった安土城の城壁の設置なども担当しました。

#chapter2

大工の師匠のもとで木工技術を学び、造形の世界へ

 山中さんが造形の道に入ったのは、大学4年の時。テレビドラマで使われる大道具を手掛ける親方のもとで、アルバイトをしたのがきっかけでした。
 「親方が展示会などの基礎工事を請け負うようになり、私も手伝うことになったのですが、そこで後々の恩師となる人物と出会いました」

 発注元の会社で技術顧問をしていたその大工から「筋がいい」とかわいがられ、木工の腕を磨いたと言います。
 「ノミやカンナ、ノコギリといった道具の手入れから使い方、物づくりの技巧までたたき込まれました。ただ、手取り足取りの指導はしてくれません。例えば、硬い木口(こぐち)をカンナで削る時は、ぬれたタオルで少し木の断面を湿らせるのですが、師匠は『ねぶりねぶりしながらやればいい』としか言わない。それが何を意味するのか、私にはさっぱり分かりませんでした。今となっては、『自分の目で見て覚えろ』『自分の頭を働かせて考えろ』と言いたかったのだと理解できますが」と笑顔を見せます。

 そこから6年ほど修業し、1983年に清工芸の先代に誘われて同社へ。10年余りの実務を経て、1995年に2代目社長に就任。テレビCMだけでなく、テレビ番組や映画のセット、ジオラマやフィギュアの製作など、事業内容は多方面に広がりました。

 しかしテクノロジーの進歩により、撮影機材がフィルムカメラから、ビデオやデジタルカメラに取って代わると共に、案件自体も企業や人材が集中する関東に移行。関西での依頼が激減したのです。

このカンナでさまざまな造形を生み出します

#chapter3

映画やCMのセットづくりに携わった経験を生かし、見る人の視覚に訴える展示会のブースも製作

 順調だった社業から一転、窮地に陥った山中さんですが、初心にかえるかのように、改めて展示会関連の業務も開始。ブースを組み立て、商品棚を仕上げるのはもとより、来場者をひきつける装飾にも力を入れるようになります。

 「撮影の過程で、撮りためた映像を未編集のまま試写する『ラッシュ』という作業が行われます。どれがOKで、どれがNGカットかをチェックするのですが、このラッシュを何度も見るうちに、撮る角度によって被写体がどのように写るのかが、感覚的に分かるようになりました」

 展示会の空間作りで大切なのは、訪れる人に、企業のブランド力、打ち出す商品、サービスの魅力を強く印象付けること。どのような演出が効果的かを熟考し、視覚に訴えるディスプレーで訴求力を高めていきます。

 現場では常に意識を張り巡らせ、クライアントが「こうしてほしい」と口に出す前に意図をくみ取り、率先して動くことを心掛けてきたという山中さん。細部にまで徹底してこだわる姿勢に、信頼を寄せる人も少なくないようです。

 「造船業などを営む企業博物館に展示する船首の基礎工事や、高速道路に設置する避難経路の実物大模型(モックアップ)を納めた経験もあります。他に、戦艦の被弾部分を再現したこともあります。今後も、私どもが培ってきた技や知識を生かし、さまざまな造形に携わっていきたいですね。ビルのエントランスに施すオブジェや、テーマパークのアトラクションなど、ご要望にお応えしますので、ぜひお声掛けください」

(取材年月:2022年3月)

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専門家プロフィール

山中義則

映画やテレビCMのセットから展示装飾までを手掛ける木工職人

山中義則プロ

木工職人

有限会社清工芸

映画やテレビCMの撮影に使われる大掛かりなセットから、小道具までを製作するほか、展示会やイベントのブース製作や展示装飾を行う。大工の師匠のもとで木工技術を学ぶ

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